2020/09/11/Fri
黄金の価値がある台詞―『眩耀の谷』のキーパーソン、父(輝咲玲央)の教え
『眩耀の谷』は名言の宝庫。水晶や翡翠のごとき言葉が、聴く者の心を煌めかせます。
なかでもひときわ重く響くのが、礼真の父(輝咲玲央)の台詞。
すべての台詞が価値ある黄金[くがね]。
研ぎ澄まされた金言です。
黄金の価値がある台詞
『眩耀の谷』のキーパーソンである父。
舞台に姿を現すのは二回。
息子・丹礼真(礼真琴)の回想のみの登場です。
他の人物と交わることはありません。
台詞はふたつ。
「いいか礼真。王のために尽くせ。臣下を重んじる君主にこそ忠義を尽くす価値があると信じ…」
「礼真、逆境の中で信念を貫くのは難しいことだ。しかし、己を、己の信念を守れ」
初めて観たとき、「これは大変な役だ」と思いました。
万里柚美さん演じる「母」と、玲央さんの「父」は、礼真の人格を形作った重要な人物。
父の教えと母の愛が、後の礼真の行動に結びつくと考えると、父母の存在の大きさは計り知れません。
「この父があってこそ、礼真の今がある」
短い時間で、観客に父と礼真の関係性を深く印象づけねばならない。
謝珠栄先生が書かれた台詞は、それ自体に力があります。
その言葉のポテンシャルを最大限に引き出すのは役者の腕の見せどころ。
玲央さんは存分に力を発揮しました。
彫刻家が大理石にノミを振るうように、ひとつひとつの言葉を聴く者の耳に刻み込む。
その腕前は確かで、観客の脳裏にクリアなプロポーションを描く作品のシルエットが浮かび上がります。
姿は見えずとも、父の精神は常に礼真と共に在る。
礼真が父を語るたび、父の姿が舞台のどこかに浮かび上がるような、そんな気がしました。
臣下を重んじる君主にこそ忠義を尽くす価値がある
宣王を信じ、管武将軍を敬い、自らの進む道に一片の疑いも抱いていなかった礼真。
眩耀の谷の人々を正義へ導くはずだった自分。
しかし…
信じていたものは偽りだった。
迷い揺らぐ礼真の心に浮かぶ父の教え。
「王のために尽くせ」
「臣下を重んじる君主にこそ忠義を尽くす価値がある」
“逆ならば、それに値しない”ということですね。
父も礼真と同じく宣王に仕える者と想像していますが、何か思うところがあったのでしょうか?
臣下や民を軽んじる君主に忠義を尽くす価値はない。
「国利のためには犠牲があって当たり前」と、うそぶく宣王に尽くす価値はあるでしょうか?
父の言葉と共に、礼真は一振りの剣を授かりました。
初めて眩耀の谷に入ったとき、汶族の若者たちに奪われた剣ですね。
「私の剣、父から譲り受けた大切な剣を返してくれ」
礼真の心の支えであった剣。
はからずも、再びまみえることのなかった父の形見となりました。
己の信念を守れ
礼真の迷いを断ち切り、物語を大きく動かすきっかけとなる「己の信念を守れ」。
宣王や管武将軍に背を向け、汶族と行動を共にすれば、二度と祖国に戻ることは叶いません。
もちろん、父とも永遠の別れとなります。
それでも、礼真が新たな地平へ足を踏み出したのは父の教えの後押しがあったからでしょう。
決して父を捨てたのではありません。
父の魂はいつも礼真と共に在るのです。
父は信念に従った息子を誇りに思ったことでしょう。
「己の信念を守れ」
息子を教え、導く言葉。
まさに黄金の価値を持つ台詞です。
生まれ変わっても、ふたりの子でありたい
父はほとんど動きません。
舞台上手の装置に現れ、一言発してすぐ消える。
声色や台詞の緩急、視線だけですべてを伝えなければならない。
これは難しいことです。
しかし私には、礼真が生まれ、父母と過ごした時間の流れがはっきりと感じられました。
厳しくも温かい父、慈しみ深い母のもとで愛情豊かに育まれたであろう礼真。
礼真の「来世でも父上と母上の子でありたい…」にすべてが詰まっていますね。
礼真の行動の動機となる、ふたつの言葉を玲央さんに託した謝珠栄先生。
過不足なく作家の信頼に応えた玲央さん。
観客のイマジネーションをかき立てる「台詞の力」の奥深さについて考えさせられました。
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