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花に嵐のたとえもあるぞ、さよならだけが人生だ│桜嵐記

“花に嵐のたとえもあるぞ、さよならだけが人生だ”

月組トップスター・珠城りょうさんの退団会見から一週間。
昨日、トップ娘役・美園さくらさんの同時退団が発表されました。

卒業公演は、珠様とご縁の深い上田久美子先生が手がける『桜嵐記』。
タイトルを見た瞬間、頭に浮かんだのが冒頭の「花に嵐」の一節でした。

花に嵐のたとえもあるぞ、さよならだけが人生だ


子どもの頃に父の蔵書で目にして以来、なんとなく心に残っていた言葉。
突き放したような、しかし、どこかカラリと明るく、悟りきった響きが魅力です。

元ネタは、唐代の詩人・于武陵(う ぶりょう)の五言絶句「勧酒(かんしゅ)」。

勧君金屈巵
満酌不須辞
花發多風雨
人生足別離

(君に勧む金屈卮[きんくつし] 満酌辞するをもちいず 花ひらけば風雨多し 人生別離足る)

「花に嵐…」は井伏鱒二の訳によるものです。

コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ

(この杯を受けてくれ どうぞなみなみ注がしておくれ 花に嵐のたとえもあるぞ 「さよなら」だけが人生だ)

リズミカルで親しみやすい言葉。
後半二行は、太宰治や寺山修司により、さらに広く知られるようになりました。

上田久美子と珠城りょう


上田久美子作品との出会いは2013年の『月雲の皇子』。
先生のデビュー作であり、珠様の初主演作でもありました。

当時、特に応援している生徒さんがいたわけでもないバウホール公演に東京からわざわざ駆けつけたのは、ただ「衣通姫伝説」というテーマに惹かれたから。

しかし、そこで私が観たのは若い才能と情熱の奇跡の融合でした。

研ぎ澄まされた台詞、月組子の緊密な芝居。
物語世界に飲み込まれるように幸せな演劇体験でした。

珠城りょうに心奪われた瞬間│月雲の皇子

そして、『BADDY』。
良くも悪くも固定化された“珠城りょう”のパブリックイメージを覆す作品は衝撃でした。

上田久美子先生、“珠城りょう”をぶっ壊してくれてありがとうございます!│BADDY

愛あれば命は永遠に


節目節目に珠城りょうのターニングポイントを刻みこんできた上田先生。
最後の共作となる『桜嵐記』は、どんな珠城りょうを描くのか?

ヒントは公演解説にあります。
「桜花咲き乱れる春の吉野で束の間の恋を得、生きる喜びを知る」
「南朝の武将・楠木正行の、儚くも鮮烈な命の軌跡を、一閃の光のような弁尚侍との恋と共に描く」

潔く散る桜花は仏教思想の“無常”の象徴であり、男役の“滅びの美学”とも重なります。
トップスターの卒業公演にはもってこいのテーマですね。

珠様の男役像の魅力は「健康的な逞しさと裏腹な“死”との相性の良さ」と考える私。

鮮やかに咲き、跡形も残さず、きっぱりと去る。
しかし、短い人生の中で「意味ある生」を生きられれば「永遠」を手に入れることができる。

それはどういうことか?
誰かの心の中に生き続けることですね。

弁尚侍(美園)との恋により「生きる喜び」を知る正行(珠城)。
四條畷の合戦後、正行の菩提を弔うため、尼となる弁尚侍。
正行は彼女と共に生き続けるのです。

珠様のトップお披露目公演『グランドホテル』にも「生きる喜び Joie de vivre」という言葉がありました。
男爵(珠城)によって、生きる喜びを取り戻したエリザヴェッタ(愛希れいか)。
男爵は死してなお、彼女の心に光を灯し続けたのでしょう。

「死」に打ち克ち、「愛(生)」を得る。
タカラジェンヌとしての「死(卒業)」を迎え、宝塚の歴史の中に、ファンの心の中に、「永遠」となる。

お披露目と卒業公演が同じ言葉でリンクする。
偶然か必然か。
不思議な一致です。

宝塚「男役」の魅力ってなんだろう?【case1.珠城りょう】
まゆぽん支配人はロシア語で何と言っているの?│グランドホテル

今、このひとときを共に


長い間、日本では「花」といえば「桜」を指す慣わしがあります。

「花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」や「願はくは 花の下にて 春死なむ その如月の 望月のころ」など多くの歌が残されていますね。
井伏が訳した「花に嵐」の「花」も「桜」であると考えてよいでしょう。

『桜嵐記』の「桜」に「美園さくら」を連想し、「花に嵐のたとえもあるぞ、さよならだけが人生だ」に結びつければ、卒業公演のタイトルとしては極上。

別れはすぐそこに迫っているけれど、今、この(杯を交わす)瞬間は共にいよう。
「さよなら」だけが人生だから、今、このひとときを共に過ごそう。楽しもう。

タイトルに込められた餞の想い。
これが宝塚の温かさです。
冬真っ只中の公演となりますが、せめて劇場はうららかな春爛漫の空気に満たされますように。

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野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
月組/星組比重高めの全組観劇派。
美丈夫タイプの生徒さんが好み。
宝塚歌劇観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。
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