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「超人」礼真琴、天才はいかに作られたか―“Amadeus”とサリエリ(凪七瑠海)の嘆き│ロックオペラモーツァルト

今更ですが、礼真琴は歌が上手い。
息を吸うように、ごく自然に生きるための必然の行動のように、歌う。

台詞から歌へのつなぎ目をほぼ感じさせず。
話すように歌い、歌うように話す。

ぶれない、外さない、ムラがない。
抜群の安定感は一幕冒頭の酒場で顕著。
「Le Trublion トラブル・メーカー」を歌いながらの背面ダイブ。

背中から落ちつつ、何事もなかったように起き直り、歌い続ける。
その間、一切ぶれず、途切れず。
恐るべき強靭さです。

今まで当たり前のように観ていましたが、踊りまくり・歌いまくりの『ロクモ』で改めて彼女の凄さを思い知ったのです。
持てる力を完全解放した礼真琴。
舞台の神様に魅入られたようなモーツァルト。
その「才能」について、ふたつの台詞からひもといてみたいと思います。

○過去記事はこちら↓
舞台の神様に愛されし者、礼真琴│ロックオペラモーツァルト
圧巻、ただただ圧巻―礼真琴×舞空瞳コンビ│ロックオペラモーツァルト
礼真琴、こけら落とし三冠達成!ロクモ 池袋初日感想│ロックオペラモーツァルト
礼真琴、無限の可能性―進化するロクモの先にあるもの│ロックオペラモーツァルト

天才とは何か?モーツァルトと運慶とミケランジェロ


私がドハマりする作品には大抵ひとつ、強い印象を残す台詞があります。
『鎌足』の船史恵尺(天寿光希)の「過去はこんなにも力強い」。
『BADDY』の王子(暁千星)の「ぼくは退屈で眠られないんだ」。

『鎌足』MVPは天寿光希!―「船史恵尺=ルキーニ」説
『退屈』を打ち破れ!「眠られないんだ」が意味するもの―覚醒する暁千星│BADDY

ひとつの台詞がフックとなり、物語世界の内側にズブズブ引きずり込まれる。
『ロクモ』のキーワードとなったのはモーツァルトの言葉。
「頭に浮かんだ音楽を五線紙に写すだけ」

聞いた瞬間「運慶か!」と思いました。

「こんな夢を見た」で始まる夏目漱石の『夢十夜』。
運慶が護国寺の山門で仁王を刻んでいるのを見学に来た主人公。

「よくああ無造作に鑿(のみ)を使って、思うような眉(まみえ)や鼻ができるものだな」と自分はあんまり感心したから独言(ひとりごと)のように言った。
するとさっきの若い男が、「なに、あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。あの通りの眉や鼻が木の中に埋まっているのを、鑿と槌(つち)の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだからけっして間違うはずはない」と云った。
[夏目漱石著『夢十夜』「第六夜」より抜粋]


もうひとつ思い出したのはミケランジェロのものとされる言葉。
“I saw the angel in the marble and carved until I set him free.”
超訳すれば「大理石に閉じ込められた天使を解き放つまで彫り続ける」ということですね。

木や大理石の中の像、そして頭の中の音楽。
国や時代は違えど、それぞれに「天才」と呼ばれる芸術家たち。
しかし、運慶もミケランジェロもモーツァルトも「元々そこに在るものを取り出すだけ」と描写されるのが面白いですね。

凡人が切ったり貼ったりこねくり回したり、手探りで積み重ねていくものを、一気に探り当てることができる。
「天才」とは「完成形が見えている者を指す」のです。

では、彼らにその力(才能)を与えたのは誰か?

才能は神からの贈り物


私の記憶が確かならば、劇中でモーツァルトをアマデウスと呼ぶのは、モーツァルト自身とアントニオ・サリエリ(凪七瑠海)ふたりきり。
一幕最後の「Lacrimosa ラクリモーサ」でのモーツァルト自身の言葉「アマデウス…アマデウス…何が神に愛された者か、僕は神に見放された男だ」。
そして、サリエリの「アマデウス!」のみ。

これは偶然ではありません。
意図的になされたものです。

モーツァルトの才能を目の当たりにしたサリエリは激しく嫉妬します。
彼と自分は何が違うのか?
神はなぜ彼だけに音楽の才能を与え給うた?
神よ…!!

自分には神の啓示は聞こえない。
いくら努力しても、金を積んでも「神の声を聞く耳」を持つことは叶わない。
深い絶望はモーツァルトへの妬みの刃に形を変えました。

モーツァルトが“神に愛された者”と知るからこそ、サリエリは彼を“アマデウス”と呼んだのです。

では、サリエリはなぜ殺したいほどの嫉妬を手放すことができたのでしょうか?
その謎を解き明かすヒントがこれ。
ロシアには「才能は神からの贈り物」という考えがあると、米原万里が書いています。

才能は神様からもらったもので個人のものではないという考え方があります。
才能をもっている人と同じ空間に生きていることを純粋に喜び、そのことを祝福するのです。
ですから、その才能と自分とを比較したりは決してしません。
つまり劣等感がまったくないのです。
足の引っ張り合い、妬みという感情が稀薄で、それがすごく心地よかった。
[『言葉を育てる 米原万里対談集』「VS.神津十月 在プラハ・ソビエト学校が私の原点です」より抜粋]


ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトのミドルネーム「Amadeus」。
まさに、神(DEUS)に愛され(AMA)、才能を与えられた者なのです。

チェリストのムスティスラフ・ロストロポーヴィチは舞台に出るとき、絶対に緊張しないそうです。
米原さんが「なぜあがらないのですか?」と訊いたら「僕は天才だから」という答えが返ってきたそう。
「僕の才能は神様からもらったものだから、僕自身のものではない。僕は才能を単に差し出すだけですから緊張はまったくしないのですよ」

才能は神からの贈り物。
所詮、人智の及ぶところではない。
アマデウス・モーツァルトは「才能の容れ物」に過ぎない。

そう気づいたとき、嫉妬は消え、友愛や尊敬の念が生まれたのでしょう。
そして“アマデウス”から「才能」を取り除いた人格、つまり“ヴォルフガング”の部分に焦点が当たる。

「笑顔が素敵です」
なんのてらいもない言葉が示す、まっすぐな人柄。
あまりに短い友情でしたが、確かに嫉妬とは異なる感情がサリエリの心に芽生えたのです。

みんなに喜んでもらいたかったから


モーツァルトは「僕の才能は父が作ったもの」と洩らしています。
自分の才能は天賦のものではない、との自覚を表す言葉です。

一方、「頭に浮かんだ音楽を五線紙に写すだけ」とも言っている。
つまり、無意識下では神の啓示を受けていることが明らかなのですね。

さて、礼真琴はどちらに属する人間なのでしょう?
木の中の仏、大理石の中の天使が見える人間なのか?
それとも…?

私は彼女について何も知りませんが、舞台から受ける印象は「他人より恵まれた能力を持ち、それを更に高めるための努力を怠らない人間」と映ります。

礼真琴の才能をひもとくヒントになる言葉の、ふたつめはこちら。
「目隠しでチェンバロを弾いたのは、みんなに喜んでもらいたかったからだ」

モーツァルトが目隠しでチェンバロを弾いたのは史実ですが、このエピソードを、あえて礼真琴に語らせた理由は明らかです。
目隠し演奏は曲芸や見世物的なパフォーマンス、ましてや超絶技巧のひけらかしではなく、“礼真琴演じるモーツァルト”の行動原理が常に「誰かを喜ばせたい」という純粋な気持ちであるという事実を示します。

酒場での「音楽は人を楽しませ、喜びを与えるものだ」との主張とも一致します。
これらの台詞を礼真琴に与えた脚本に、座付き作家・石田昌也の愛と創意工夫を感じました。

礼真琴は何者なのか?
ヒントは先ほどの『夢十夜』にあります。
「あの鑿と槌の使い方を見たまえ。大自在(だいじざい)の妙境に達している」
“大自在”とは「少しの束縛も障害もなく、思いのままであること。自由自在、自由奔放であること」。

この言葉で頭に浮かんだのは、一幕最後の「Je dors sur des roses バラの上で眠りたい」。
なんのしがらみもなく、ただ心のままに歌い踊る礼真琴。
劇場と溶け合うようなあの瞬間こそ、大自在の境地。

古来、歌舞は神に捧げる供物であったと考えれば、優れた舞台人とはシャーマンに近しい存在なのかもしれません。
神の声を聞き、その肉体を駆使して芸を披露する。

舞台人・礼真琴の才能を表すならば、「天才」ではなく「超人」こそが最もふさわしい。
そう思わせられた『ロックオペラ モーツァルト』でした。

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コメント

No title

ロクモライブビューイング行って来ました。
SNSに挙がる感動の嵐に、絶対に見る!と気合いを入れて往復3時間かかる会場まで足を運びました。

見てよかった~本当に心の底から思いました。そして、すごいものを見た、と。


こちらのブログでいろいろと予習をさせていただいたので、見るべきポイントを逃さずに見ることができました。
こっちゃんの内側からあふれる情熱は、あの高度なパフォーマンスに達するまでの過酷な練習や道のりを最終的にはすべて取り込み、モーツァルトのように喜びに変えていたと思います。

以前かもめの千秋楽で、こっちゃんが「ダンスの虫がうずいてております」と言ってるのをスカステで見て、あれだけのお芝居をしても、踊りが本当に好きなんだなと思ったんです。


そしてカイちゃん、涼紫央さん、明日海りおさんがロクモ観劇に来られた時に、こっちゃんが「今日は客席が華やかですね」と言ったと知り、(想像ですけど)明日海さんを前にしても全くあがってない!とおののきました。



こっちゃんはモーツァルトのように、自分が好きでたまらないものを私たちに見せてくれた。そんな気がしてなりません。



Re: No title

ゆずゆずさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。

ロクモ、素晴らしかったですね!
本当に「すごいものを観た」という言葉がぴったりでした。
一幕最後の絶唱はポカーンとしてしまって、幕が下り始めてようやく我に返るような…

予習のお役に立てて何よりでした。

「こっちゃんの内側からあふれる情熱は、あの高度なパフォーマンスに達するまでの過酷な練習や道のりを最終的にはすべて取り込み、モーツァルトのように喜びに変えていた」
ゆずゆずさんの仰ることに完全同意です!
極限まで自分を追い詰めた先にある表現の喜び。
それが客席にまで伝わってきましたね。

素晴らしい作品を観せていただきました。
そして、これからの星組がいっそう楽しみになりました。
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プロフィール

野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
月組/星組比重高めの全組観劇派。
美丈夫タイプの生徒さんが好み。
宝塚歌劇観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。
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