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父権社会の権化―ヨゼフ・シュラック(一樹千尋)のパターナリズム│霧深きエルベのほとり

ご存じのとおり、専科のヒロさん(一樹千尋)、ジュンコさん(英真なおき)は管理職を歴任し、長く星組に在籍された方。
『霧深きエルベのほとり』出演者一覧が発表されたとき、真っ先に思ったのは「またしても星組ファミリーが揃った」。

ヒロさん、ジュンコさん、ゆずみさん(万里柚美)、みきちぐさん(美稀千種)。
温かくて頼りがいのある、星組のお父さんとお母さんが勢揃い。
皆さまが『エルベ』の屋台骨を支えてくださることに、言いようのない安心感を覚えました。

切れた糸をつないだ星組出身専科さん


長くヅカ離れしていた私が復活したのは2011年月組の『アルジェの男』。
知ったお顔がほとんど見当たらず(かろうじて霧矢大夢さんが分かるくらい)、少々心細い思いをしました。
新しい生徒さんのお顔とお名前を一から覚えて、また宝塚を楽しめるのだろうか?と。

そんな心配を払拭したのが、専科のヒロさん、ジュンコさん、ハッチさん(夏美よう)。
昔観ていた当時の星組のスターさんのお名前を目にした瞬間、途切れた線がすうっとつながったような気がしました。
懐かしい思い出と共に、一気に今の宝塚が身近に感じられ、またたく間にヅカファンに返り咲くことができたのです。

彼らがいなければ、現在のように宝塚を楽しめていなかったかもしれない。
少なくとも、馴染むまでにもう少し時間がかかったかもしれない。
皆さまには深く感謝しています。

ヒロさんとジュンコさんはコンビで星組に特出されることが多いですね。
直近では『ロミオとジュリエット』や『眠らない男・ナポレオン ―愛と栄光の涯に―』。

ヒロさんの威厳、ジュンコさんのぬくもり。
いずれも深い味わいと奥行きのある芝居で作品を守り立ててくださいました。

そして、今回も…

『エルベ』の悲劇を生んだヨゼフ・シュラックのパターナリズム


ヒロイン・マルギット(綺咲愛里)の父ヨゼフを演じたヒロさん。
舞台に現れた瞬間、ピリッと空気が引き締まりますね。
一目で「只者ではない」と思わせる圧倒的存在感。

父性、権威、品格、厳格、責任感、確固たる意志…
ヨゼフというキャラクターから読み取れるキーワードです。

ヒロさんの男役像を特徴づける「父権社会の権化」とも言うべき個性。
『霧深きエルベのほとり』の悲劇の一因として、ヨゼフによる「パターナリズム」が挙げられます。
家長権を持つ父親が、娘(マルギット)や家族の人生に介入、干渉する。

何もかも父親の手の上で踊らされる人生。
その反発から家を飛び出したマルギット。
しかし、到底ヨゼフの支配から逃げおおせるものではありませんでした。

「私はカールと結婚するか、死ぬかどちらかよ!」
命がけの抵抗が功を奏したかに見えましたが、それはいっときのこと。

圧巻はシュラック家のサロンで開かれた、カール(紅ゆずる)とマルギットの結婚披露パーティー。
激昂するマルギット、厳しくいさめるヨゼフ。
やがて、マルギットの産みの母に対する誤解が解け…

長台詞をダレずに聞かせる巧みな緩急。
隠された過去がつぶさに浮かぶドラマティックな語り口。
このシーンは恐らく、音声のみの朗読劇でも十分に楽しめるでしょう。

思えば、作者の菊田一夫はラジオドラマの第一人者なのでした。
代表作『君の名は』の放送時間は銭湯の女湯が空っぽになったといいます。

芝居の良し悪しを決めるのは「台詞」である、と改めて感じる場面ですね。

混乱したマルギットが広間を飛び出し、カールが後を追い…
その後の、マルギットの元婚約者フロリアン(礼真琴)とヨゼフのやり取りも見応えのあるものでした。

フロリアン・ザイデル VS ヨゼフ・シュラック


ヨゼフの親友の息子フロリアン。
親同士が定めた婚約により、幼い頃からマルギットと兄妹のように育った男。

何事もなければ、二人はすんなり結婚していたでしょう。
ところが、家を飛び出したマルギットはあろうことか船乗りを夫として連れ帰ってきた。

フロリアンの男の面目は丸つぶれでしょう。
しかし、彼は恋敵と婚約者の結婚披露パーティーまでお膳立てする。
結婚はヨゼフにより阻止され、パーティーの主役は姿を消し、ヨゼフとフロリアンが残される。

妻を造船所の社員に奪われた初老の男。
婚約者を船乗りに奪われた若者。
いわば、二人のコキュの対決です。

気の毒なのは、マルギットと寝てもいないのに寝取られ男の烙印を押されたフロリアン。
(フロリアンとマルギットに肉体関係はなかったので、厳密には「寝取られ男」ではありませんが)
(とはいえ、社会的には紛れもないコキュです)
もの悲しく、ほろ苦く、どこか滑稽な構図です。

「愛情」に対する見解のぶつけ合い。
ここは年若いフロリアンが圧倒的に劣勢です。
しかし、彼は一歩も引きません。

愛に正解など無い。
とはいえ、あまりに人生経験に差のある二人。
「もう父と呼ぶ必要はないぞ」と切り捨てられ、言葉を失うフロリアン。
ここは理不尽な面白みがありますね。

「お義父さん、僕は…」に続く言葉は何だったのか?
カールの「マルギット、俺なあ…」と並び、先を知りたくなる台詞です。

専科は宝塚の財産


若くとも達者な方はいらっしゃいますが、技術のみでは出せない味があります。

過ごした時間、重ねた経験。
容貌や肉体の変化。

脂っ気の抜けた枯れた味わい。
熟成され、洗練された古酒のような口当たり。
渋味、苦味、辛味、滋味…
見た目も含めた「芸の年輪」こそが専科の財産。

平成エルベを成功に導いた影の立役者ヒロさんとジュンコさん。
改めて賛辞を送ります。

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野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
月組/星組比重高めの全組観劇派。
美丈夫タイプの生徒さんが好み。
宝塚歌劇観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。
◇更新情報はこちら◇
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