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激動の1930年代―『エルベ』の時代背景と、登場人物たちのその後│霧深きエルベのほとり

上田久美子先生は今回の潤色にあたり、時代を本来の1960年代から前にさかのぼった1930年くらいに設定されたそうですね。

60年代と30年代ではあまりに大きな隔たりがあります。
それは「戦争」。

1914年から45年にわたり起きた二度の世界大戦。
30年代は二度の戦争の「間隙」であり、60年代は「戦後」です。

大戦により世界は一変しました。
それまでの価値観がひっくり返った戦争を挟めば、物語も同じものではありえないはず。

今回の『エルベ』の脚本に戦争の影は感じ取れませんが、いくつかの台詞をピックアップし、『エルベ』の時代の空気を探ります。

激動の1930年代―『霧深きエルベのほとり』の時代背景


1930年代と聞いて真っ先に浮かぶのは1929年の世界恐慌の影響。
その数年前には世界初の社会主義国家であるソ連が成立しています。
ドイツ国内では第一次世界大戦の残り火であるナチズムが台頭していく。

まさに「激動の時代」とも言える1930年代。
カール(紅ゆずる)とマルギット(綺咲愛里)が出会い、恋をしたのは、具体的には30年代のいつ頃でしょうか?

33年、ヒトラーが政権を獲得。
35年、ヴェルサイユ条約を破棄し、再軍備を宣言。
39年にポーランド、40年にパリへ侵攻。
そして41年、太平洋戦争が勃発。

緊迫する世界情勢。
リューネブルクの人々も無関係ではいられなかったでしょう。
マインラート夫人(白妙なつ)の「時代がどうあれ、私どもは」の台詞が重くのしかかってきます。
“ノブレス・オブリージュ”マインラート夫人(白妙なつ)と、お歴々(大輝/漣/ひろ香/極美/星蘭)│霧深きエルベのほとり

カールとマルギットが出会ったのは、世情不安定ながら、まだ戦火の遠かった30年代のごく始めの頃でしょうか?
皆さまはどう思われますか?

エルベのほとりのヒエラルキー


連れ込み宿の主人ホルガー(美稀千種)の言葉も意味深です。
「シュラック様と言えば、昔はあの近在のご領主様じゃった、よい家柄の」

昔とはいつ頃を指すのでしょうか?
シュラック家によるリューネブルクの統治が、遠く離れたハンブルグまで聞こえてきたのはいつの時代か?

長大な河川が流域の文化や経済の隔壁となるのは定説ですが、エルベ川も例外ではありません。
エルベより西の国々では早くより農奴の解放が行われましたが、東では19世紀初頭まで支配が続きました。

リューネブルクが属したプロイセン王国では依然として、ユンカーと呼ばれる領主たちが元農奴を用い、特権階級として君臨し続けたのです(農場領主制[グーツヘルシャフト])。
農奴制が廃止されても、支配・被支配の構造は根強く残っていたのですね。

帝政ドイツが滅んだ第一次世界大戦後は徐々に勢力を縮小したようですが、ホルガーの言葉によりシュラック家がいかに大きな力を有していたか窺いしれます。
マルギットは本当に「大家のお嬢さん」だったのです。

みんなは何処へ行った?


日に日に、きな臭い空気に覆われていく世の中。
カールは、マルギットは、エルベの人々はどうなったのか?

水夫たちが兵隊に取られることはなかったのか?
気のいいオリバー、愉快なエンリコ兄弟、素っ頓狂なマルチン、可愛いヨーニーらの顔が浮かびます。

上流階級のお歴々の生活はどうなったのか?
マインラート夫人が守ろうとした秩序は保たれたのか?

上田先生が時代を設定し直した理由は「ヒロインをとりまく旧弊な社会の様子から60年代よりも前の印象を受けた」ためだそう。
また「あまり国や時代を特定せず、“ヨーロッパのどこかの国のお伽話”という雰囲気で作るのが、今回のコンセプト」とも仰ってます。

とはいえ、1930年代以降ドイツで何が起きたかを知る身としては、エルベの住人のその後を考えると暗澹たる思いに襲われます。
(ユンカーはナチス政権下でも強い影響力を保持していましたが、第二次世界大戦後にほぼ消滅しました)

先生の意図からは若干外れるかもしれませんが、当時の時代背景を頭の片隅に置いて観れば、また違った味わいがある1930年代の『エルベ』です。

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宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
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