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「夢の女」マルギット(綺咲愛里)の愛の形│霧深きエルベのほとり

“女の幸せは結婚する相手(男)次第”
そんな価値観が支配する『霧深きエルベのほとり』。
現代のジェンダー観に照らし合わせると、かなり前時代的な印象を受けます。

しかし、過去の名作を現在の価値観でジャッジするのはナンセンス。
この物語の適切な味わい方は、時代が変わっても変わらずにある、人の心の在り方に寄り添うことでしょう。

「夢の女」マルギット


父親への反発から家を飛び出し、出会った男と行きずりの恋に落ちる良家の令嬢マルギット(綺咲愛里)。

若く、美しい。
だが、それだけの娘です。
(それでもカール[紅ゆずる]が恋するには十分な要素ですが)
世間知らずで、ちょっと軽はずみで…

ただ、彼女には「優しさ」がありました。

純粋培養ゆえに培われた無作為の優しさ、清らかさ。
何の疑いもなく発せられる「食べさせてくださるのね?」「お嫁さんにしていただくわ」の台詞。

悪意など何一つ知らぬような。
何もかも満ち足りて、誰かが何かを与えてくれるのをただ待つだけの女。

しかし、それゆえにこそカールは彼女に惹かれたのでしょう。

マルギットは「夢の女」なのです。

何も知らない無垢な女が自分を誘い、自分を信じ、すべてを捧げてくれた。
この女を守りたい。
ずっと手元に置いて、大切に大切に慈しんでいきたい。
そう思ったことでしょう。

ままごとの恋


しかし、マルギットは温室の外に出たら、あっという間に萎れてしまう花です。
強い日差しも、凍える寒さも、吹き荒れる嵐にも耐えられない。
そういうふうに育ったのです。

幼いときは父に従い、結婚すれば夫に従い、老いては子に従う。
強い力を持った男性の庇護のもとにしか生きられない女。

マルギットにとって「お嫁さんになること=結婚」は“花嫁人形”になることでしかない。
彼女の恋は所詮「ままごと」なのです。

連れ込み宿を出て、部屋を探して、ふたりで作った料理を食べる。
湯ひとつ沸かせるようには思えないマルギット。

マルギットの父ヨゼフ(一樹千尋)は見抜いていたのでしょう。
カールとの暮らしはすぐさま破綻するだろう、と。

新しい着物は一年に二枚がやっとの生活は、娘には耐えられないだろう。
娘が不幸に陥るのを手をこまねいて見ていることはできない。

乳飲み子のマルギットを置いて出奔した母親のことが頭の片隅にありつつも、それでもヨゼフは彼なりに娘を愛していたのです。
たとえ、それが娘の自立と成長を阻むものであったとしても。

マルギットは綺咲愛里のはまり役


あーちゃん(綺咲愛里)を初めて意識したのは7年前の『ダンサ セレナータ』。

真風涼帆さん演じるルイスと駆け落ちする良家のお嬢様カロリーナ役で注目したのです。
慣れない暮らしにみるみるやつれ、あっという間に破局を迎える。
『霧深きエルベのほとり』のアナザーエンドのような結末です。

あーちゃんは深窓の令嬢役が抜群にハマりますね。
可憐なルックス、華奢なスタイル、居るだけで場が明るくなる存在感。
無条件で皆に愛される設定に説得力があります。

何より大切なのは、生活のアクを一切感じさせない佇まい。
「無垢」と「無知」が同居する個性は貴重です。

マルギットの愛の形


マルギット役の重要な資質に「無垢」と「無知」があります。

「この人と別れるくらいなら死ぬ」とまで言い切ったマルギット。
しかし彼女は、湖のほとりのレストランで、シュラック家の大広間で、無邪気な残酷さでカールを引き裂きます。

マルギットは「愛」を確かめたがる、「誓い」を信じたがる、「言葉」を欲しがる。
初めての恋に浮き立ち、「カール」よりも、「恋」に恋している状態にも感じられます。
だから、愛想尽かしのふりをするカールを信じきれず、あっさり裏切られたと思い込む。

しかし、彼女を責めるのは酷です。
マルギットは恋を知りそめたばかり、愛の裏を読むことを知らないのですから。

皮肉にもカールが愛したのは、まさにそこなのです。
マルギットの愚かさ、分かってなさと裏腹の、清らかさ。
純粋で、一点の曇りもない宝石のような心をこそ愛した。

「夢の女」が自分を愛し、何もかも捨てて一緒に暮らすと言った。

しかし、カールは悟ったのです。
夢は夢だ、と。
自分と一緒になったら、やがて彼女は泣くことになる。
マルギットには自分よりふさわしい相手がいる、と。

今ならまだ間に合う。
これ以上、マルギットが深く傷つかないうちに。
これ以上、自分がマルギットを深く愛してしまわないうちに。

そして、ヨゼフを安心させ、マルギットを諦めさせるために、心にもない愛想尽かしをする。
愛ゆえに憎まれ役を買って出るカール。

マルギットがカールの本心を悟るのは、彼を乗せた船が大海原の向こうに消えてから。
カールの真心を知り、人の情けを知った彼女は、もはや「夢の女」ではありません。
地に足の着いた、「愛」のなんたるかを知り始めた、成熟しかけの「現世の女」です。

その後、彼女がどんな人生を歩むのか知る由もありませんが、少なくともかつての無垢ゆえに無知な少女はそこにはいません。
マルギットは自分の幸せを自分で選び取れる女性になったでしょう。

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野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
月組/星組比重高めの全組観劇派。
美丈夫タイプの生徒さんが好み。
宝塚歌劇観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。
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