FC2ブログ

カール・シュナイダーは、紅ゆずるの登場を待っていた│霧深きエルベのほとり

薫り高い台詞と、濃密な感情の応酬に彩られた『霧深きエルベのほとり』。

重く、切なく、あまりに悲しい恋の結末に押しつぶされそうになりながら、しかし、幕切れのカールの「鴎よ」の絶唱でかすかな光明が差し、不思議に爽やかな気持ちで劇場を後にすることができます。

カールは紅ゆずるの当たり役


『ANOTHER WORLD』の康次郎、『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』の凜雪鴉と、立て続けに当たり役を得たベニーさん(紅ゆずる)。
新たにカール・シュナイダーという大当たりを引き当てました。

心優しき大店の若旦那、謎めいた食わせ者の美丈夫、そして「男の中の男」と評される荒くれ水夫。
まったくタイプの異なる役を次々と自分のものにし、ファンを魅了するベニーさん。
驚くばかりの作品運の良さですが、そればかりではありません。

どんな役も確実に自分のものにするための努力。
作品世界を深く理解し、その中で己の果たす役割を見極め、確実に表現する。
地道な研鑽を怠らないからこそ、観客の心を揺さぶることができるのでしょう。

もう一点、ベニーさん自身のお人柄が、カールの役柄にピタリと呼応することが更なる効果を上げているように思います。
康次郎役でも感じたことですが、ベニーさんの男役像の本質は「誰かの幸せのために尽くし、自分の愛のために一途になれる男」。

観劇前の記事に書いた通り、カールはまさにそんな役でした。
伝統のバトンは紅ゆずるに託された―名作の復活│霧深きエルベのほとり

「鴎の歌」に見る、男の“やせ我慢”の美学


「鴎の歌」、とても良いですね。
クラシカルな旋律、詩情豊かな詞。
決して後ろを振り返らず、愛する女の幸せを願い一人旅立つ男にふさわしい曲です。

粗野な振る舞いの奥に隠れた、シャイで繊細な心優しさ。
愛する人を泣かせるくらいなら、自分が傷つき、憎まれる方がいい。
愛する人の幸せの陰で、自分はいくら泣いたっていい。
カールはそんな男です。

いつの時代も変わらぬ、あらまほしき「カッコいい男性像」。
顔で笑って、心で泣いて。
惚れた女にカッコ悪い泣き顔は見せたくない。
やせ我慢が「男の美学」に通じます。

宝塚ファンおなじみの『ベルサイユのばら』にも、愛する人の幸せを願って身を引く、ジェローデルという男性が登場します。

彼の台詞は「受け取ってください、私のただひとつの愛の証です。身を引きましょう」。
手切れ金の束で恋人を打擲するカールとは桁違いのスマートさです。
もちろん、『ベルばら』と『エルベ』では状況が違いますが。

気の利いた言葉ひとつ吐けず、自分だけが損な役回りを引き受ける不器用な男。
それが、カール・シュナイダーなのです。

カール・シュナイダーは、紅ゆずるという役者の登場を待っていた


結末を知った二回目以降の観劇では、湖のほとりのレストランでカールが発する「マルギットは俺の女房だ」「触るのはやめろ」という台詞が悲しいですね。

「女房」という言葉に込められたカールの気持ち。
妻や嫁や家内や奥さんではなく、女房。
「恋女房」「世話女房」という表現にみられるように、どこか親しみやすく、優しいぬくもりを感じられる呼び方です。

マルギット(綺咲愛里)を「女房」と呼んだカールの心を思うと、胸が締め付けられます。

掌中の珠のように、大切で愛おしいマルギット。
自分以外の誰の手にも触れさせたくない。
決して傷つけたくはない。
その心の表れが「触るのはやめろ」だったのです。

カールにとってマルギットがどれほどかけがえのない存在なのか、痛いほど伝わってくる場面です。

もうひとつの、そして、もっとも悲しい言葉。
カールを追ってきたマルギットに、酒場の女ヴェロニカ(英真なおき)が告げる「自分が下衆なのが悲しい、って」。

これほど端的に『霧深きエルベのほとり』という作品の核心を突いた台詞はありません。

誰が悪いんじゃない、住む世界が違う男と女が出会ってしまっただけ。
大切なマルギットを裏切り、もっとも深く傷つけたのが、他ならぬ自分自身だったとは。

自分がマルギットと釣り合う男だったら。
マルギットが自分と同じ世界に住む女だったら。

そうであったら、マルギットは死ぬまで俺のもので、決して離さずにいたのに。
愛し、愛し抜いて、幸せにしてやれたのに。

カールの無念がこもった「自分が下衆なのが悲しい」。
真っ直ぐで、嘘のないベニーさん演じるカールだからこそ、一層やるせなく感じられる言葉です。

この台詞がカール本人の台詞ではなく、ヴェロニカを通して語られるところがまた心憎い演出ですね。

いずれにせよ、『霧深きエルベのほとり』を単なる名作のリメイクに留めず、現代の観客の心をもつかむ作品に生まれ変わらせたのは、ひとえに上田久美子先生の情熱と、新時代のカール役者・紅ゆずるの力によるものでしょう。

36年の眠りから覚めたカール・シュナイダーは、紅ゆずるという役者の登場を待っていたのです。

↓ブログランキングに参加しています↓
よろしければ応援クリックお願いします

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 宝塚歌劇団へ
にほんブログ村

↓Twitter(ブログ更新情報)↓
‎@noctiluca94

○『霧深きエルベのほとり』関連記事はこちら↓
面白い芝居が観たい!―『霧深きエルベのほとり』を観て
奥深きエルベのほとり―さまざまな愛の形
一文字違いで意味深に…輝咲ロンバルトと音波アンゼリカを結ぶ「赤い糸」│霧深きエルベのほとり
「輝咲ロンバルト×音波アンゼリカ」で妄想が暴走☆彡│霧深きエルベのほとり
伝統のバトンは紅ゆずるに託された―名作の復活│霧深きエルベのほとり
関連記事
スポンサーサイト



コメント

※任意
※任意
※任意
※任意
※任意
非公開コメント
※必須

プロフィール

野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
月組/星組比重高めの全組観劇派。
美丈夫タイプの生徒さんが好み。
宝塚歌劇観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。
◇更新情報はこちら◇
Twitter‎@noctiluca94

ブログ内検索とタグクラウド

最新コメント

最新記事

カレンダー

11 | 2019/12 | 01
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

カウンター

宝塚歌劇団人気ブログランキング

にほんブログ村ランキング

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
5位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
演劇
2位
アクセスランキングを見る>>

ブロとも申請フォーム

noctilucaにメッセージを送る

お名前:
あなたのメールアドレス:
件名:
本文:

QRコード

QR

**