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「生きること」「愛すること」人間の根源的欲求を描く『蘭陵王』―凪七瑠海と音くり寿のハマり役

木村信司ファンの私。
脚本家の名前で観劇を決める数少ない作家のひとりです。
木村作品は極上のエンターテイメント。
「芝居らしい芝居を観た!」という満足感を味わえるところが好きなのです。

今回は「蘭陵王×木村信司×東儀秀樹」ということで、わくわくしながらMY初日を待ちました。
結果は、大当たり!

* * *

木村作品のテーマはいつもこの上なくシンプルで力強い。
「生きたい」「愛したい」という欲望への絶対的な肯定感。
人間の本能が求める原始の欲求を鮮やかに描き出した『蘭陵王』。

人並み外れて美しく生まれたがゆえに踏みにじられ続けた男が、同じ境遇で育った女と出会う。
命のやり取りから始まったふたりの関係。
やがて、互いの中に同じ苦しみを見い出し、手を取り合って、魂の再生への道を歩む。

「生きろ、人生は美しい」
作品を通して伝えられる、熱く力強いメッセージ。
木村先生の情熱が火の玉となって観客の胸を焦がします。

「愛はなにものにも勝り、愛を得られた者は永遠に生きる」
木村作品に一貫するテーゼです。
『王家に捧ぐ歌』『鳳凰伝』『不滅の棘』、そして『蘭陵王』。

一切の迷いがない、清々しいまでに真っ直ぐな主張。
演劇を愛し、人間を愛し、人生を愛する。
すべてを肯定する大らかなエネルギー、温かなパッション。
これを味わいたくて、劇場に足を運ぶのかもしれません。

* * *

KAAT神奈川公演、MY初日。
初めのうちは、想像していたストーリーとの違いに戸惑いました。
雅楽や京劇の『蘭陵王』の華麗なイメージとは程遠い内容。

幼い頃から搾取され続けた男女が出会い、自我と自尊心を取り戻し、自ら求める愛と心の平穏を手に入れる。
過酷な状況を生き延び、魂の再生を図る。
サバイバーたちの物語なのです。

さらに、心の性と肉体の性が異なる人物がキーマンとして登場します。

期待していたストーリーとは異なる、思いのほか根深いテーマ。
しかし、この宝塚版『蘭陵王』を観ることができて良かったです。

物語の始まりは、雨に打たれ、うずくまる少年(凪七瑠海)の姿から。
「いい子にしていれば衣食住を保証してやる」という男たちの申し出。
生きるすべを持たない独りぼっちの子どもが断れるはずがありません。

清潔な着物、温かな食事、柔らかな寝床と引き換えに奪われたものは何か?

「こんなことをされているのは僕だけかな?僕だけならいいんだ」
抵抗することすら知らない空っぽな心を、冷え冷えとした諦めが満たす。
誰かから自由になっても、また別な誰かの慰みものになる。

* * *

そんな生活が一変する日がやってきます。
首飾りと背中の入れ墨が証拠となり、彼が北斉の皇族・高長恭であることが明らかになるのです。

彼は悟ります。
「今日殺されていなければ、自分はまだ生きているということだ」
「明日も生き延びるために、強くならねばならない」
彼は力をつけ、蘭陵(領地)を賜り、「蘭陵王」と呼ばれるようになります。

そして、自分で自分の身を守るすべを知った彼は気づくのです。
自分は与えられていたのでない、奪われていたのだ。
自らの尊厳を。

そのきっかけは、瀬戸かずや演じる皇帝・高緯。
高緯が、先に述べた「心と体の性が一致しない人物」です。

高緯にとっての不幸は、彼が最高権力者であったことでしょう。
愛を求めるだけで、相手をがんじがらめに縛ってしまう。
皇帝に愛されたら、拒絶は許されません。

場面にかぶさるように入る、語り部(京三紗)のモノローグ。
「人の嫌がることはしない」

これは少々唐突です。
孔子の「己の欲せざるところは人に施すなかれ」から派生した台詞だと思いますが。
自分がされて嫌なこと(愛の強要)はしない=人の嫌がることはしない。

しかし、言葉のチョイスが不適切に感じました。
他の表現はなかったのでしょうか?
もっとも生半可な言葉以上にインパクトはありましたが…
まさか、それが狙い?

* * *

ヒロイン洛妃(音くり寿)も蘭陵王と同じような境遇で育ちました。
一度は生きることを諦めた彼女ですが、蘭陵王の側で暮らすうち、次第に自らの尊厳を取り戻していくのです。

宝塚版『蘭陵王』は、キャストがどんぴしゃハマったのも成功要因のひとつでしょう。

かちゃさん(凪七)だからこそ成立した物語とも言えます。
他の男役さんだと生々しくなりすぎます。
同じことが音くりちゃんにも当てはまります。
他の娘役さんには厳しい役です。

彼女らの芸の質に共通するのは、生々しい想像を寄せつけない生硬さ。
成熟した男と女を感じさせない二人。
最大の魅力は共に、少年少女のような瑞々しさと卓越した実力。
色気のなさを逆手に取り、プラスに転じさせたとしたら、たいした当て書きです。

互いを「たぬき」「きつね」と呼び合う、ままごとめいたラストシーン。
二人の間を流れる、ほのぼの柔らかな空気は救いです。

他人に奪われ続けた人生が、ようやく自分自身のものとなった。
これからは互いに愛を与え合い、生きていく。
そんな希望を持たせる結末でした。

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宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
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