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選ばれし者、月城ルキーニ│エリザベート

月城ルキーニの第一印象は「確信犯」。

彼は信念に基づき、エリザベートを刺した。
本人が「正しい」と信じて犯した罪は、果たして「罪」と呼べるのか?

皇后暗殺は、ルキーニにとって必要で、正当な、なすべき行為だった。
トートの意思を汲み、黄泉の帝王の代弁者として、粛々となすべきことをなしただけ。
月城ルキーニの姿からは、そんな印象を受けました。

「狂人」と評されるルキーニ。
異常をきたした精神状態を「狂気」と言うならば、月城ルキーニは一貫して理性的ですので、狂人には当たらないでしょう。

己の行いに一片の疑いも抱かぬ彼の心は、いつだって澄みきった泉のように静かなはず。

きらきら輝く、れいこさん(月城)の瞳。
とりわけ白目は青く透き通って見えるほど。

なぜ彼の瞳は、こんなにも綺麗に澄んでいるのか?
「目は心の窓」と言いますが、濁りのない彼の心を映し出すようです。

* * *

「狂気」とはなにか?
「己を制御できない精神の状態」であれば、これは違います。
ルキーニは終始、冷静沈着です。

しかし一転、トートから凶器を受け取るときの歓喜。
ここが月城ルキーニの最大にして最高の見せ場です。

ナイフを押しいただきながら浮かべる一瞬の恍惚、とろけるような愉悦の表情。
エリザベートの生命を奪うことは、人智を超えた存在(トート)との対話で得た、彼の使命なのです。

「ルイジよ、行って、おまえのなすべきことをなせ」

天啓を授かった者の厳かな喜び。
ルキーニの心に芽生えた「選ばれし者の誇りと万能感」が、輝く光となって観客の心を照らす。

大きなアクションがあるわけではない、狂気の叫びを上げるわけではない。
しかし、ルキーニの心に生じた変化を、余すところなく伝えるれいこさんの芝居に戦慄しました。

* * *

レマン湖のほとりで起きた皇后暗殺事件は、ルキーニにとって聖なる儀式だったのです。

トート閣下の偉大なる愛の成就に手を貸す人間。
それこそが、選ばれし者の証。
ちっぽけな自分を認め、役割を与えてくれたトート閣下。
崇拝と妄信がルキーニの行動原理となったことは疑いようもありません。

エリザベートはトートへの生贄であり、ルキーニは神壇に供物を捧げる敬虔な信者なのです。

* * *

ミュージカル『エリザベート』でルイジ・ルキーニが果たす役割はなんでしょう?
ストーリーテラーであり、登場人物のひとりであり。

とりわけ重要なのが、狂言回しとしての働き。
彼の先導で物語が進みますので、まずは登場一番で客席の心を掴まねばなりません。
舞台と客席をつなぐ架け橋として、作品世界から一歩踏み出し、観客に語りかけるメタ的存在でもあります。

自由自在に時空を旅するルキーニ。
少女時代のシシィの前でも、ウィーンのカフェでも、レマン湖のほとりでも、常に変わらぬ姿で現れる彼。
明らかに他の登場人物とは異なる存在です。

毎夜繰り返される煉獄での裁判は、プロメテウスの刑罰を思わせます。
神の火を盗み、人間に与えた罰として、生きながら大鷲に肝臓をついばまれるプロメテウス。
不死の身ゆえ、毎夜再生する肝臓。
朝が来ればまた食われ、無限の苦しみを味わう。

オーストリア=ハンガリー帝国がとっくに滅び去った後も続く裁判。
「毎晩毎晩同じことの繰り返し」と嘆くルキーニは、煉獄で永遠の苦しみを味わうのです。

ルキーニの呼び出しに応じ、姿を現す黄泉の帝王。
そして、舞台は南ドイツへ。
『エリザベート』の物語はルキーニの回想なのです。
だから、彼の姿は変わらない。

面白いのは回想の中に、彼自身がちょいちょい首を突っ込むこと。
バート・イシュルでは、やがて彼が命を奪うことになる少女シシィの荷物を運び、親しく言葉を交わす。
もしもあそこでオレンジが転がらなかったら、フランツ・ヨーゼフがシシィを選ぶことはなかったかもしれない。

ハプスブルク崩壊の引き金を引いたのはルキーニだったのです。
回想の中の出来事が、実際の運命に影響を及ぼす。
これはどうしたことでしょう?
ルキーニの出現によりタイムパラドックスが生じるのです。

ルキーニの登場により運命がねじれ、メビウスの輪のようにぐるぐる同じところを辿り続ける。
『エリザベート』の物語の構造は複雑です。

唯一、輪の外にいるのが黄泉の帝王トート。
最終答弁に臨み、愛するエリザベートを黄泉の世界へ導く。

当事者のエリザベートが黄泉へ去れば、煉獄の裁判は終わるのか?
それとも夜の訪れと共に、ふりだしに戻るのか。
ルキーニはいつこの無限地獄から解放されるのか。

ルキーニを軸に観てみると、また違った面白さが現れる『エリザベート』の物語です。

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宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
月組/星組比重高めの全組観劇派。
美丈夫タイプの生徒さんが好み。
宝塚歌劇観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。
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