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誰にも邪魔されない世界へ旅立った二人│壮一帆・愛加あゆの『心中・恋の大和路』観劇記録

昨日の記事で『心中・恋の大和路』に触れたので、発掘観劇記第5弾は、2014年の雪組バージョンの感想を。

* * *

なんだか凄いものを観た…!というのが一番の感想。

近松門左衛門の『冥途の飛脚』を下敷きにしたミュージカル『心中・恋の大和路』。
飛脚問屋の養子亀屋忠兵衛(壮一帆)は遊女梅川(愛加あゆ)と深い仲になるが、身請けの金を工面出来ず公金に手をつけ、破滅する。
原作では、逃げ切れず囚われの身となって終わるが、宝塚版では2人の死によって幕が降ろされる。

追手を逃れ、忠兵衛の故郷大和国新口村(現在の奈良県橿原市新口町)に辿り着いた2人が、雪深い山奥をさまよい歩く第2幕では、息をするのも忘れるくらい物語に引き込まれた。

決して許されない手段によって愛を貫こうとした2人。
家族・友人・世間に背いた彼らの行く末は、ただ破滅のみ。
大坂から新口村へ辿り着いたところで救いが待っているわけではない。
お互い口にせずとも分かっている。
分かっていて尚、そこを目指す。
刹那の幸福と圧倒的な不幸が表裏一体の逃避行は、やがて来る破滅へとひた走るばかりの死の道行きであった。

2人は幸せだったのだろうか?
おそらく幸せだったのだろう。
愛する女のため、死罪に値する封印切(飛脚屋が預かり金の封印を破る事)を決行した忠兵衛。
自分のために堕ちていく男と、運命を共にする梅川。
誰にも邪魔されない世界への旅立ち=心中へと終結するのが、2人のハッピーエンドだったのか。

劇中には2人の末路を暗示するモチーフが多く散りばめられている。
公金に手をつけた事実を伏せ、養子縁組の持参金を返して貰ったと偽って梅川を身請けした忠兵衛が、屏風の陰から顔を覗かせて遊郭の女将を驚かす場面は、獄門晒し首を匂わせる。
また、2人が色街を出て行くときは大門ではなく西門をくぐって行く。
これは「西方浄土へ向かう道筋である」と、忠兵衛の台詞にもある。

しかし、決して暗いだけの物語ではなくホッと一息つけるシーンも用意されている。
亀屋の女中おまん(天舞音さら)や丁稚の三太(真地佑果)、庄介(永久輝せあ)の無邪気な掛け合いは重たい話の一服の清涼剤である。
それにより一層、梅川忠兵衛の悲劇が浮き彫りにされるのだが…

心中は現代の感覚からすると理解し難い部分もあるが、金が無いばかりに愛する女を失う男の苦しみは共感出来る。
見せ場の『封印切』では、懐に公金を抱いた忠兵衛が「これは石ころだ!いや愛する女を救う金だ!」との葛藤の末に、とうとう一線を超える。
友人である八右衛門(未涼亜希)の言葉に男のプライドを傷つけられ、三百両の封を切る。

狂ったように黄金の小判を撒き散らす忠兵衛。
見せ掛けの愛を売る遊郭に、小判の舞う音がうつろに響く。
照明の光を集めてキラキラ輝く金と、忠兵衛の狂気。
その対比の歪んだ美しさ。

亀屋忠兵衛を演じる壮一帆さん。
どうしようもないバカ男だが、弱さも含めて、なんとも言えない可愛げがあって憎めない。
梅川はそんなところに惹かれたのだろうか?
実直に生きてきたはずの男がはずみで道を踏み外し、行き着くところまで行くさまを、若旦那らしい品を失うことなく演じた。

忠兵衛が全てを捨てて愛した遊女、梅川の愛加あゆさん。
廓から連れ出された束の間の逃避行中、忠兵衛から「お梅」と呼ばれ、女房になれたことを喜ぶ笑顔の眩しさ。
薄々死の影を感じながらも、京都にいる母に一目会いたいと望む姿に、ひりひりするような切なさを滲ませる。
偶然出会った忠兵衛の父(孫右衛門:汝鳥伶)とのやり取りに、梅川の情深く素朴な内面がよく表れる。

そんな父と女房の姿を物陰から見詰める忠兵衛。
「頼めば、先祖伝来の田畑を売って金を作ってやったのに…」と嘆く父の言葉に崩折れる。
恋に狂った男が我に返り、親不孝を嘆く姿が愚かしく哀しい。
この時こそ、忠兵衛が己のしでかしたことの大きさを骨身に沁みて感じた瞬間ではないだろうか。
若さゆえの暴走が周囲に与える影響、誰にも幸せをもたらさない結末。

忠兵衛の無二の親友、丹波屋八右衛門の未涼亜希さん。
遊女に溺れて道を踏み外そうとする友を諌め、借金を申し込もうとする忠兵衛に「頼み事の内容によっては友達ではいられない」と言う八右衛門。
結果的に友を思うゆえの彼の行動が、忠兵衛を封印切へと導くのだが…

責任を感じた八右衛門は、梅川忠兵衛の行方を追う一団に加わる。
猛吹雪の雪山へ踏み込む2人を庇い、他の追手連中に対し「これ以上の深追いはしないでくれ、自然の裁きに任せよう」と立ちはだかる。
世間に戻ったところで、添い遂げることは叶わない。
ならば、愛を全うせよというメッセージである。
しかし決して二人を見殺しにしたわけではない。
別れ際、忠兵衛に「どんな片隅でもいいから『生きている』と便りをくれ」と語りかける姿に八右衛門の煩悶が垣間見える。

物語終盤、梅川が倒れ…愛する女を腕に抱き取りながら忠兵衛も息絶える。
そのシーンに重なるのが、八右衛門の歌う主題歌『この世にただひとつ』である。

この世にただひとつ それはお前
お前の温もりが生きる証
暗い海辺に二つの命 ひっそりと寄り添う
果てない旅路に寄る辺はないけど
(中略)
生きる喜び 泣けよ泣け
歩み続けて 歩み続けて…


単純に歌が上手い、テクニックが、声量が…というのではない。
死にゆく二人と周囲の人々の無念を全て背負ったかの絶唱に、冥土の淵を覗き見たような恐怖を覚える。
劇場が雪の山中に飲み込まれたかと錯覚するような歌…否、壮絶な叫び。
間違いなく、このラストだけでチケット代の価値はあると言える。

宝塚歌劇は老若男女全ての役を女性が演じる。
忠兵衛役も八右衛門役も当然女性である。
冷静に考えると、妙齢の女性が青天(ちょんまげ)を被り、低音で歌い上げる…不自然である。
不自然ではあるが、女が男を演じる不自然さ、それを超越したところにしか生まれ得ない魅力が確かに存在する。
そもそも芝居は虚構、二重三重の嘘が折り重なった奇跡の瞬間、何にも勝る愛の真実が浮かび上がる。
真実、観る者の心を揺さぶる芸に男も女も無いのだ。

* * *

他、目についた方々。

亀屋の番頭伊兵衛を演じる帆風成海さん。
べらぼうに上手い!
上手いというより、江戸の飛脚問屋の番頭さんをそのまま連れて来たような、ごく自然な佇まい。
入団数年目の若い方なのだが、末恐ろしい力量である。
主の愚行を止めることが出来ず苦しむ姿を見るにつけ「忠兵衛の馬鹿たれ!」と言いたくなる。

梅川の先輩格かもん太夫は、大湖せしるさん。
裕福な客の手により、梅川より一足先に身請けされ色街を去って行く。
目先の愛ではなく自分の人生の先を見据えた選択だと語る彼女には、梅川とは異なる遊女の哀しみが感じられた。
しかし、かりそめの自由を得て堂々と大門を潜る姿は凛として美しい。

飛脚問屋の前を横切るだけの物売り男(真條まから)。
「あさりー、しじみー」と情緒たっぷりに声を上げる。
暗闇に溶けこむような声色、それだけで江戸の空気を感じさせた。

[2014年4月16日(水)15:00公演/4月19日(土)15:00公演@日本青年館]

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野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
月組/星組比重高めの全組観劇派。
美丈夫タイプの生徒さんが好み。
宝塚歌劇観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。
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