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『ANOTHER WORLD』は面白いか?面白くないか?-ハイコンテクスト化した「笑い」の是非

『ANOTHER WORLD』は面白いか?面白くないか?

初見の第一印象は「好みが真っ二つに分かれそう」でした。
好きな人はどっぷりハマるし、苦手な人は全く受け付けないだろうな、と。

私は過去最大級に気に入ってハードリピートしたクチですが、逆にマイナス評価を下される理由を考えてみました。

1.ストーリーがぶっ飛んでる
2.男役らしいカッコよさがない
3.さほど笑えない

1、2に関しては、甘く切ないロマンス、宝塚らしい夢々しさを求める方には不向きですね。

3の「笑えない」は、私が最も引っかかった部分です。
宝塚に馴染みのない方には通じるのか?
観客の知識への依存度が極めて高い演目なのではないか、と感じたのです。

宝塚歌劇に関するネタはざっと思いつくだけでも、ベルサイユのはす/植田紳爾/小林一三/阪急列車/阪急デパート/マルーンカラー/冥途歌劇団/宝塚我が心の故郷/赤いけしの花/貧乏神の貧ちゃん etc.

宝塚以外の芸能や一般常識に関するものとして、三途の川の渡し賃/真田六文銭/死装束の作法/明治大学/メイドカフェ/金色夜叉 etc.
人形浄瑠璃の手法や、歌舞伎調の台詞回し、映画『極道の妻たち』のパロディもありました。

一番のツボは「馬の脚まで團十郎」の「團十郎尽くしの忠臣蔵」。
5年前に亡くなった12代目までしっかりネタにされ、懐かしくも嬉しく思いました。

問題は「笑い」だけではありません。
そのモチーフについての知識の有無で、ストーリーの理解度に大きな差が出ることは否定できません。
『ANOTHER WORLD』はそれが顕著でした。

知らないと楽しめない。
知らないと置いてけぼり。

知識の多寡により、見える景色が違ってくれば、観客の間に不平等が生じます。
『ANOTHER WORLD』は「内輪受けと表裏一体」の危険をはらむ作品でもあるのです。

* * *

たとえば、「来年のことを言うと鬼が笑う」。

なぜ?どうして鬼が笑うの?
「来年」という言葉に反応して笑い転げる鬼の姿がどうして可笑しいの?

『天下分け目の大いくさ』のシーンで、私たちはこんなことを考えもせず条件反射で笑いましたね?
なぜでしょう?
「来年のことを言うと鬼が笑う」という諺が共通認識としてあるからです。

ロシア語通訳者の米原万里さんが書いた「文化の違いを飛び越え、世界中の人々を笑わせる一コマ漫画」についての一文をお読みください。

異なる文化圏の人々に笑いを通訳するほど難しいことはない。
駄洒落は論外としても、言葉から立ち上るイメージや連想は、文化によってかなり食い違うからだ。(略)
多くの笑いは、常識で凝り固まった脳味噌が、思いも寄らなかった新たな視点によってショックを受け、揉みほぐされる快感から生ずるものが多いのだが、この常識からして国によって異なる。
それに、笑いは、実にデリケートな代物だ。
「絞首刑になった者がいる家で縄の話をするな」
というように、同じテーマに立場によって笑える者と怒る者と悲しむ者がいる。
人種差別的なジョークなど、その最たる例だろう。
[米原万里著/ガセネッタ&シモネッタ/文春文庫より抜粋]


「来年のことを言うと鬼が笑う」
言葉通りに訳しても、元の諺を知らなければ笑いにはつながらないでしょう。
つまり、『ANOTHER WORLD』の「笑い」は共通する文化を前提とした「笑い」なのです。
少なくとも、グローバルな「笑い」ではありません。

* * *

「コンテクスト(context)」という言葉があります。
「文脈/背景」といった意味合いですが、ここではコミュニケーションの土台となる共通の「知識/体験/価値観」と定義します。

一般に、ハイコンテクストは「言葉<文脈・背景」、ローコンテクストは「言葉>文脈・背景」とされます。

ハイコンテクスト文化はコンテクスト共有率が高く、言葉に出さずとも“なんとなく”通じてしまう環境といえます。
日本社会はこの傾向が強いですね。
腹芸、忖度、察する、空気を読む、目と目で通じ合う、ツーカー、以心伝心、阿吽の呼吸…
「これぞハイコンテクスト」な言い回しの多いこと。

一方、ローコンテクスト文化は逆。
絶対的な「言葉」が優位に立ちます。

同じ文化を共有していることが前提の『ANOTHER WORLD』は、受け手の能力に依存するハイコンテクストな芝居といって良いでしょう。
もちろん諸々の知識がなくても大枠のテーマは掴め、それなりに楽しめる演目ではあります。
しかし、「嘘をついたら閻魔様に舌を抜かれるよ」で反射的に笑うには、相応の「知識/体験/価値観」が必要です。

「『ANOTHER WORLD』は面白いか?面白くないか?」の問いに対する答えは「面白い!」一択です。

とはいえ、狭く閉じた世界でのみ通用する作品ではないのか、との思いはあります。
否、本作品に関してはそれこそが面白さの源であると言えるでしょう。
ハイコンテクスト/ローコンテクストは、どちらがより優れているという性質のものではないのですから。

日本でもグローバル化の進行に伴い、社会がローコンテクスト化していくことは否定できません。
受け手である観客依存度の高い演劇作品は、今後淘汰されていく可能性もあります。
しかしながら、文化・芸術の分野において多様性の排除もしくは平均化は害悪でしかありません。

過剰な依存に傾けばガラパゴス化しますが、独自の味わいを守ることは必須。
両者がうまく釣り合うポイントを探っていくことが重要になるでしょう。
伝統に則った芸、観客の裾野を広げ得る新しい芸。
大勢の座付き作者がしのぎを削り、幅広い作品を生み出し続けてきた宝塚であれば、それは難しいことではありません。

さきほどの米原さんの文章は、「それでも人類には相違点より共通点が多いはずだ」「そういう楽観的な確信が根幹にあってこそ、世界中の人を同時に笑わせる一コマ漫画の傑作は生まれるのだろう」と結んでいます。

共通する文化がなくとも、等しく心を動かされる舞台。
ヒントはやはり『ANOTHER WORLD』にあるのです。
うっとりするようなロマンスこそありませんが、しかし、こけつまろびつ一所懸命に生きる康次郎(紅ゆずる)らの姿に胸を熱くしたのは私だけではないはずです。

人と触れ合い、愛を交わし、友情を育む。
これは誰しもが理解し、共感し得る心の動きでしょう。
物語の骨子が揺るがなければ、感動が薄れることはないというのも『ANOTHER WORLD』から得た真実です。

結論として、ハイコンテクストな芝居は受け手の能力に依存する面もあるが、マッチすれば濃密に面白い。
よって、『ANOTHER WORLD』は面白い!

* * *

ところで、「宝塚をご存じない方でも楽しめるのかしら?」という心配は杞憂に終わりました。

ある貸切公演にいらした、宝塚デビュー風のおじさま二人連れ。
始めのうちこそ戸惑ってらっしゃいましたが徐々にほぐれ…
三途の川を渡る徳三郎(礼真琴)らのナンバー『ありがたや、なんまいだ』では、「マツケン…」「マツケンサンバ…」の囁きが。
大団円ではノリノリで手拍子を打つほどに。
心底喜んでらっしゃる様子が間近に感じられ、嬉しく思いました。

枝葉にこだわらずとも、物語の底に流れるテーマが的確に打ち出されてさえいれば、芝居は楽しめる。
それを強く感じた『ANOTHER WORLD』でした。

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宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
月組/星組比重高めの全組観劇派。
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