2018/08/07/Tue
人はなぜ人を描くのか?│国立新美術館『ルーヴル美術館』展感想
宝塚星組公演『ANOTHER WORLD』観劇の合間を縫って、上野の『エッシャー展』、六本木の『ルーヴル美術館展』に行ってきました。
テーマは「肖像芸術」。
パリのルーヴル美術館の全8部門から、よりすぐりの肖像の傑作約110点が一堂に会した贅沢な展示。
宝塚ファンにはおなじみの人物の肖像画や彫刻も多かったですね。
太陽王ルイ14世、マリー・アントワネット、ナポレオン・ボナパルト、アンリ4世、ジャハンギール、ヴィジェ・ル・ブラン…
(『金色の砂漠』のジャハンギールは実在の人物ではないですが)
どれも素晴らしかったですが、最も印象に残ったのは「ブルボン公爵夫人、次いでブーローニュおよびオーヴェルニュ伯爵夫人ジャンヌ・ド・ブルボン=ヴァンドーム(1465-1511)[R.F.1212]」。
不治の病ペストに侵された女性の亡骸を模した彫刻です。
病み衰え、やつれた顔。
痩せさらばえ、骨と皮ばかりになった体。
腐った肉を食い破り、体内から這い出る蛆虫。
膨張し、裂けた腹からはみ出し、とぐろを巻く腸。
死後数日の腐乱した肉体の有様が、ほぼ等身大に写し取られた彫刻。
目を背けたくなるような姿ですが、なぜか惹きつけられます。
医療が未発達だった時代、死の病に侵され、なすすべもなく死んでいった人々。
「死」が現代より身近だった当時、芸術家たちは何を思って、絵筆を握り、ノミを振るったのか。
モデルとなった女性の最も美しかった姿ではなく、命を失い、崩れ果てた肉体を永遠に残る形にしたのは何故か?
霊魂が肉体を離れた瞬間から粛々と進行する「死」。
肉体は分解され、土に還り、やがて完全に消滅する。
「死」は持つ者持たざる者、誰にも平等に訪れるものであり、決して逃れることはできない。
「死」は単なる現世からの消失であり、それ以上でもそれ以下でもない。
「肉体の死」を率直に、克明に描き出して秀逸な作品でした。
この像を通して「死」と向き合うこと。
「Memento mori(死を想え)」のメッセージを強く感じました。
ちなみに、友人は「無理」と言って素通りしてましたので、グロテスクなものが苦手な方はご注意ください。
私も決して得意ではないのですが、作品の放つ強烈な磁力が勝りました。
他、お気に入りの作品。
昨日描かれたかのように瑞々しい、古代エジプト部門の「女性の肖像[N2733.3]」。
生き生きと本人の人となりが伝わってくるジャン=アントワーヌ・ウードンの「アビ・ア・ラ・フランセーズ(フランス式の宮廷紳士服)をまとったヴォルテール(本名フランソワ=マリー・アルエ)(1694-1778)[R.F.1426]」と、フランスの画家(?)の「《肖像》、通称《フュズリエ爺さん》[R.F.2005-9]」。
アイドルのように可愛らしいジャン=フランソワ・ガルヌレの「画家の息子アンブロワーズ・ルイ・ガルヌレ(1783-1857)[R.F.2808]」。
これは肖像にしては珍しく、歯を見せて笑っている表情が新鮮でした。
私も名画の仲間入り(?)。

お土産は、展覧会限定の鎌倉紅谷の「ルーヴルッ子」。
「クルミッ子」好きにはたまりません。

充実した良い展示でしたので、もう一回観たいですね。
『エリザベート』と『Thunderbolt Fantasy』が始まる前に行けるかな?
○ルーヴル美術館展 肖像芸術 ―人は人をどう表現してきたか
会期/5月30日(水)-2018年9月3日(月) 毎週火曜日休館
開館時間/10:00-18:00 ※金・土曜日→6月は20:00まで、7・8・9月は21:00まで
会場/国立新美術館 企画展示室1E
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