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愚かしさゆえに君を愛す-可愛いファム・ファタール、ジョアン(真彩希帆)について│凱旋門

予備知識ゼロで挑んだ雪組『凱旋門』。
辛いとか、哀しいとか、そんな言葉では表せない。
複雑な感情に支配されるお芝居。

しかし、この作品を生で観ることができたのは幸せでした。
さまざまな思いが渦巻き、整理がつかない状態ですが、いま最も強く心にある想いを残します。

* * *

真彩希帆さん演じるヒロイン、ジョアン・マヅーについて。

初観劇の帰り道、ぐるぐるした頭の中で強い光を放っていたのは彼女でした。
共感できるとか、友達になりたいとか、そんな女性像ではありません。

彼女は何者なのか?
彼女はどういう女なのか?

ふわーっと掴みどころがないようでいて、強烈な存在感がある。
透き通ったささやき、甘い微笑み。
なぜだか、とっても彼女が好きになってしまいました。

軽はずみで、浮ついてて、男にだらしない。
しかし、無垢なのです。
彼女の内面は何ものにも侵されず、ひたすら純なのです。

確かなものなど何もない不穏な時代。
明日をも知れぬ日々の中、すがるように男の愛を求めるジョアン。
あまりに真っ直ぐな彼女の想いが、亡命者ラヴィック(轟悠)の心を満たす。

ラヴィックにとってのジョアンは、浅はかで、享楽的で、ふらふらと男になびく、どうしようもない女でしょう。
それでも、見捨てられない、放っておけない、忘れられない。
愛することをやめられない。
なぜか?

「おまえより美しい女、おまえより優しい女、おまえより誠実な女はいくらでもいる」
ラヴィックの台詞、これに尽きるでしょう。

“あらゆる面で、おまえより優れた女はいる”
しかし、ラヴィックの心を捉えて離さないのは、ただひとり。
ジョアンなのです。

ラヴィックにとってのジョアンは、俗に言う「ファム・ファタール」だったのでしょう。

人は相手が優れているから愛するのではない。
ときに、愚かさ、弱さ、脆さゆえに、どうしようもなく心を奪われてしまう。

身分証もなく、パスポートもなく、ゲシュタポの影に怯える。
モグリの医者として、神経をすり減らしながら、こそこそと生き長らえる日々。

そこで出会ったジョアンの輝きが、いかにまばゆいものであったか。
カラカラに渇ききった喉に一滴の水。
どんなに甘く、身も心も潤したことでしょう。

「愛は命」
「きみは僕に命をくれた」
これは彼の本心です。

身の安全すら危ぶまれる状況で、愛がもたらす歓喜は抗いがたい魅力だったことでしょう。

* * *

一方、ジョアンは…
「あなたが悪いのよ」
「あたしをひとりぼっちにしちゃいけないのよ」
「あなたに始まり、あなたに終わるの」

ジョアンは刹那を生きる女なのです。
ラヴィックを愛しているのに、アンリへ傾いてしまう。
アンリの愛を受けながら、ラヴィックを求めてしまう。

“器が空っぽなのだもの”
“今ここにある水で満たして何がいけないの?”
行動は支離滅裂なように思えても、その時その時、彼女の心は真実なのです。

ラヴィックは言います。
「きみには野生の無邪気がある」
そう、彼女の愛に利己はないのです。

「きみは何をするときも、すっかり打ち込んでしまう」
これもまた、ジョアンという女を的確に表した言葉だと思います。

なぜ私はこれほどまでにジョアンに心惹かれるのか?
ジョアンの心に共鳴するものがあるのです。
もちろん私自身は彼女とはかけ離れた人間です。
しかし、自分の中にジョアンのような女の形が確かにあるのに気付かされたのです。
だから、なんとなく分かるし、腑に落ちるのです。

お芝居という世界で、道徳的な正しさだとか、正負の釣り合いだとか、辻褄の合った行動だとか。
そんなものには魅力を感じられなくて。
ギリギリの状況に置かれた人間が、とっさにとってしまう理屈に合わない感情の動きにドラマを感じるし、そういう物語に惹かれてしまうのです。

だから、ジョアンが好き。
好き、というか、分かる。

「愛はその人と一緒に歳を重ねていくこと」と語るラヴィック。
しかし、ジョアンは「不思議ね…愛している時に死ぬなんて」という言葉を残し、この世を去ります。

ジョアンを失い、パリの街をさまようラヴィック。
かつて、愛と希望に頬を染め、恋人と眺めた凱旋門は闇の向こうに沈んでいます。

「灯火管制か…凱旋門も見えない」
「嬉しい、生まれ変わった日のしるしね、あの凱旋門が証人よ」
ラヴィックの台詞にジョアンのモノローグが重なったとき、胸の内で何かが爆発したような思いがしました。

すべてがめちゃくちゃに崩れ去って、最後に残ったわずかなもの。
水晶のように透き通った何か。
それはジョアンが残した愛の水の結晶なのか。

* * *

やりきれない物語ではありますが、不思議とわずかな光が胸に灯るのは、幕切れに感じた澄んだイメージゆえでしょうか?

ジョアンを観客に拒絶されるほど嫌な女に仕立てなかったのは真彩希帆さんの手腕です。
それには彼女の声の良さが大きな役割を果たしました。
真彩希帆の声があってこそのジョアン、と言っても差し支えないでしょう。

軽やかに麗しい、鈴を転がすような声。
聴く者の官能にさくさく刺さるジョアンの言葉。
非現実的に感じられるほどの美声が、ジョアンから生々しさを奪い、ラヴィックのファム・ファタールとして存在させ得たのです。

可愛いジョアン、寂しいジョアン。
ラヴィックに苦しみと引き換えの「いのち」を与え、儚く消えたジョアン。
またひとり、好きなヒロインが増えました。

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Author:noctiluca(ノクチルカ)
宝塚歌劇と共に30年(ブランクあり)。
月組/星組比重高めの全組観劇派。
美丈夫タイプが好み。
宝塚歌劇観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。
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