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痛ましきサロメに慈悲を-アデルマ(麗泉里)について│鳳凰伝

『鳳凰伝』はコラサン国の王女、アデルマ姫(麗泉里)の妄執も見どころのひとつ。

「私はあなたの男ではなく、あなたは私の女ではない」
手ひどく拒絶されたカラフ王子(珠城りょう)に対し、「たとえ首だけになっても、あなたが欲しい」とすがるアデルマ。

サロメの求愛を拒み、首を刎ねられたヨカナーン。
銀の皿に乗ったヨカナーンの唇に口づけるサロメ。

アデルマが夢見たのは、カラフの首を貰い受け、思うままに愛撫することでしょうか?

「あなたの命は、私の愛に値しない」
カラフの愛が得られぬならばいっそ、と自身の喉元に刃を向けたアデルマにかけたカラフの言葉。
カラフはアデルマという女を見抜いていたのです。

懇願や脅迫によって得られる愛など無価値。
幼稚で自己中心的なアデルマの想いは、カラフの求める愛とは最も遠いところにあるものでした。

アデルマからカラフに向けた「たとえ首だけになっても、あなたが欲しい」は、カラフがトゥーランドットに告げた「あなたが得るのは私の首ではない。私だ」と対になる言葉です。

愛しい男の身も心もすべて他の誰かに渡すくらいなら、首だけでも自分のものにしたい。
王子の名前さえ明らかになれば、彼の想いがトゥーランドットへ届くことは永遠にない。

唯一、王子の名を知る奴隷タマル(海乃美月)へ凄惨な拷問が加えられます。
しかし、王子を密かに慕うタマルは決して口を割りません。
痺れを切らし、鞭打ち役人から取り上げた鞭を振るい、狂ったようにタマルを打ち据えるアデルマ。

「言えっ!言えーーーっ!」
癇癪を起こした幼子のように甲高い声を上げる彼女。
MY初日に観た時は、正直ちょっと迫力不足かな…と思ったのですが、次の観劇でハッと気づいたのです。

アデルマはそんな子ではなかったのですよね。
他人を憎んだり、こんな風に金切り声を上げたことだってなかっただろうに。
蝶よ花よと育てられたお姫様なのです。
何不自由なく育った彼女の人生が変わったのは、トゥーランドットの謎かけにより兄を失い、国が滅んだ時。

兄を奪い、故郷を奪った女が、今度は自分の愛しい男を奪おうとしている…
そんなことは許せない。
自分からすべてを奪った女が、愛しい男の腕に抱かれるなんて許せない。
これ以上、あの女(トゥーランドット)に髪ひとすじだって奪われてなるものか。
朝が来る前に、どうしたって王子の名前を明らかにしなければならない。

アデルマの心に思いが至った時、彼女が急にちっぽけで弱々しい存在に思えたのです。

箸より重いものは持ったことがないであろう彼女。
ましてや、鞭なんて触れたことすらなかったでしょう。
か弱い小さな体で、鞭に振り回されるように、よちよちとタマルを打ち据えるアデルマ。

可哀想な子です。
哀れな子です。

もしかしたら、アデルマはカラフに兄の面影を見たのかもしれません。
家族を失くし、国を失くし、寄る辺ない身の彼女が見つけたただひとつの希望、カラフ。
ただ、カラフの愛欲しさに、あのような行動に出ただけなのに。

「これは慈悲だ。西へ向かって歩け。西には中国さえ果てる土地がある。浄土があると思うな」
皇帝の言葉は残酷です。
自分の娘がしたことを思えば、アデルマの幼さが招いた行動などいかほどのものでしょう?
むしろトゥーランドットこそ地の果てで頭を冷やさせるべきでは?と思いましたが…

“与える愛”のタマル、“奪う愛”のアデルマ。
その形は対極ですが、どちらにもそれぞれ共感するところがあり、単純に尊卑で括れないところが『鳳凰伝』という作品の魅力と言えます。
アデルマの魂が西方浄土に辿り着けることを願ってやみません。

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コメント

ご炯眼に

まさに、その通りですね。

私は、初演の映像を見た時は、アデルマの行いの醜さばかりに気をとられていました。

けれど、今回、生の舞台を見て、
「アデルマも、国が亡んだり、カラフのような英雄に出会ったりしなければ、こんな風にはならなかっただろうに...」
とまでは思いつきましたが...

舞台上のせんりちゃんの在り様にまでは、気づいていませんでした。
確かに、そんな感じでした...それでよかったわけですね。

やはり一番残酷なものはトゥーランドットなのであり、そして、カラフもまた、常人には計り知れないような、超英雄的な...超変わり者ということでしょうか(笑)

開眼する想いを致しました。

Re: ご炯眼に

HS様、コメントありがとうございました。

身に余るお言葉です。

私は初演は(映像も)未見で今回の公演に臨み、一回目はアデルマの演技に多少の物足りなさを抱いたのですが…

二回目で、アデルマが罵倒や鞭打ちが上手かったら良くないのではないか?と思い至った次第です。
トゥーランドットに人生を狂わされなければ、あんな風になることはなかったと思いますので。

HS様の仰る通り“あのトゥーランドット”を包み込める男なのですから、カラフもまた相当に懐に深い、常人離れした変わり者だと思います(笑)

個人的には、北京に平和が訪れて後、トゥーランドットの罪を共に償うことがカラフの使命であると考えますので、それには彼ほどの器の男でないと務まらないのかな?と。
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野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
月組/星組比重高めの全組観劇派。
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