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その名もまた“愛”である―可愛いタマル、海乃美月について│鳳凰伝

ウェブはおろか音声の通信手段すらなかった太古の昔から、世界には共通するモチーフを軸とする物語が多くありました。

たとえば、オルフェウスとエウリュディケ。
そして、イザナギとイザナミ。

妻を亡くした夫が冥界(黄泉国)へ妻を迎えに行くが、「決して後ろを振り返ってはならない(覗いてはならない)」の禁を犯し、永遠に妻を失ってしまう。
あまりに似通ったふたつの物語。
遠く離れた『ギリシャ神話』と『古事記』にみられる、この相似性は何でしょう?

これだけではありません。
「決して○○してはならない」で、ぱっと思い浮かぶ物語(ほんの一例ですが)。
決して見てはならない→エロスとプシュケー、オオモノヌシとヤマトトトヒモモソヒメ、鶴の恩返しetc.
決して開けてはならない→パンドラの箱、浦島太郎、舌切り雀etc.
他にも、喋ってはならない、聞いてはならない、食べてはならない…
古今東西、枚挙に暇がありません。

禁じられれば禁じられるほど強く惹かれてしまう心理を扱った物語の多いこと。
『カリギュラ効果』という言葉もあるくらいですから、人間がタブーに弱いのは世の常なのかもしれません。

「秘すれば花」と言いますが、思い切って「見ろ!」「聞け!」「開けろ!」と秘密を白日の下にさらしてしまえば、神秘性が薄れ、タブーはタブーでなくなりますね。

「○○してはならない」の結末はたいてい悲劇ですが、狂言の『附子』(食べてはならない)はユーモラスでお気に入り。
うちでは夜遅くに美味しい(カロリーが高い)ものを食べる時などに「まだ死なぬー」と言い合ってます。

* * *

さて、ご多分に漏れず『鳳凰伝』にも「○○してはならない」が登場します。
それは、タマル(海乃美月)が犯した禁。
“奴隷は王族の顔を見てはいけない”。

凱旋したカラフ王子(珠城りょう)の横顔を、好奇心に駆られて盗み見た彼女。
彼女は自らが犯した禁を生涯かけて償います。

しかし、理不尽な掟ですね。
顔を見ずして、表情を読まずして、どうやってお世話をするのでしょう?
王族の機嫌は声色で判断するしかないのでしょうか?

それはさておき。
タマルが犯した禁で“王族の顔を見たこと”より深いのは“その王族を愛してしまったこと”でしょう。

たった一目でカラフに恋したタマル。
おそらく、側近くに仕え、彼の人柄を知るにつけ、恋が愛に変わったのではないかと推察しますが…

アデルマ姫(麗泉里)との違いはここ。
恋に恋して、想いが破れた時、その恋が妄執へと変わったアデルマ姫。
恋が愛に変わり、愛する人の幸福を望み、身を捨てたタマル。
他者を欲するエネルギーが、内に向いた(アデルマ)か、外に向いたか(タマル)の違いとも言えます。

「これが“愛”です!」
タマルが命を賭けて、トゥーランドットへ示したもの。

愛とは何でしょう?
愛とは希望の光であり、すべての善なるものの源であると定義すれば、タマルはカラフへ、トゥーランドットへ、そして北京の民へも“平和”という限りない未来への希望を与えたとも言えます。

“カラフが誠の愛を得る時、世界は平和に満ちる”

カラフが得た“誠の愛”は、トゥーランドットの愛だけではなかったのです。
タマルの愛もまた“誠の愛”。

なぜ、タマルは自らの肉体を貫いたのでしょう?
いくつか理由を考えてみました。

タマルがトゥーランドットに物申すには命を賭けるしかなかった。
アデルマに見返りを求めない愛を示したかった。
カラフがタマルを救うため、自ら名を明かしてしまうかもしれないと考えた。
正気を保てなくなり、カラフの名を口走ってしまうことを怖れた。

何より、この場でカラフの名を知るただひとりの人間がいなくなれば、彼の名前は誰にも分からない。
名前が分からなければ、カラフは生きながらえ、トゥーランドットはカラフのものとなる。
愛する人と自分以外の誰かの愛を成就させるために、自らの身を捨てる。

「我が主人が愛するトゥーランドット様、あなた様なら分かるはず」
私(タマル)が愛してやまないカラフ様の愛に値する人ならば、必ず“愛”というものが分かるはず。
タマルは自分の愛をトゥーランドットに託したのです。
トゥーランドットの愛がカラフに幸福をもたらすならば、それが自分の幸せとなる。
献身、自己犠牲、無償、これがタマルの愛でした。

「よく生きる者は、よく死ぬ」
カラフの言葉が、タマルに少なからぬ影響を与えたのではないかとも思います。
決して、自ら選ぶ死を美化するわけではありませんが、タマルは愛(命)の使いどころを誤りませんでした。
自身の意志により、よく生き、よく死に、その命を永遠のものにしたと言えます。

「清い血だ、たとえようもなく清い血だ」
タマルの尊い血によって、無残に流されたローウ・リン姫や異国の王子たちの血は浄められ、北京の都に平和が訪れたのです。

* * *

タマルは良い役です。
観客の共感を得られにくいトゥーランドットやアデルマに比べ、従来の宝塚のヒロイン像に合致するタマルは娘役さんにとって、演じ甲斐のあるキャラクターでしょう。
心優しく可憐、皆に愛され、愛のために命を捧げ、主人公の腕の中で死ぬ。

「可愛いタマルや」
ティムール王(箙かおる)の気持ちは、そのまま私の気持ちでもありました。
儚げで清らか、しかし、主のために物乞いまでする健気で芯の強い娘。
子守唄のシーンでは柔らかな母性すら感じさせて…

「もったいない、でも、もうタマルは、あなた様の貴いお顔が見えませぬ」
密かに慕うカラフの腕に抱かれ、しがらみ多き現世から飛び立とうとするタマル。
しかし、もはや愛しい人の顔を見る力すら残されていない。
このシーンは私の視界も霞んでしまい、美しいふたりの姿を見ることができませんでした。

「せめて、命尽きるまで」
薄れる意識の中で、ティムール王のために歌うタマル。
その無邪気さ。

最期まで他者のために尽くしたタマル。
くらげちゃん(海乃)の透き通るような美しさが忘れられません。

様々な愛の形を提示する『鳳凰伝』の女性たち。
その三本柱の一本、タマル。
その名もまた“愛”だったのでしょう。

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宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
月組/星組比重高めの全組観劇派。
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