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『現し世は夢、夜の夢こそまこと』トゥーランドットの淫夢│鳳凰伝

『うつし世は夢、夜の夢こそまこと』

現実世界(現し世)は儚い幻。
眠りの中(夢)でこそ、昼間の仮面を脱ぎ捨てて、真実の自分の姿をさらせる…
といった意味でしょうか?
江戸川乱歩の言葉です。

『鳳凰伝』で最も印象深かったのは、トゥーランドット(愛希れいか)の淫夢のシーン。
(第7場 幻想[地獄と極楽])

激烈な“男への憎悪”とは裏腹の、心の奥底に封じ込めた抑えがたい“男性への憧れ”が、インキュバスの化身に扮したカラフ(珠城りょう)の姿に表れていたように思うのです。

押し殺した欲望が、夢の中で花開く。
『夜の夢こそまこと』
まさに乱歩の言葉が思い浮かぶシーンです。

* * *

もうひとつ印象的だったのは“対比”のモチーフ。
男と女、陽と陰、凸と凹、そして、生と死。
すなわち、カラフとトゥーランドットです。

対になった貝殻同士でなければ、決してピタリと噛み合わない二枚貝の片割れ。
男性を憎みながらも、トゥーランドットは心の奥底では三つの謎を解き、自分を奪う男がやって来るのを、密かに待ち望んでいたのではないでしょうか?
その気持ちが“淫夢”となって表れた。

ここは極めてエロティックな場面です。
孔雀の羽模様の赤い薄物をまとったトゥーランドット。
桃色の蓮のうてなで微睡む彼女のもとへ、異国の王子たちの亡霊が押し寄せます。
彼女によって命を奪われた男たちに責め苛まれるトゥーランドット。
そこへ現れたのが仮面の男。

なすすべもなく逃げ惑う彼女を、力強く引き寄せ、悪夢から救い出す仮面の男。
やがて、甘く官能的なデュエットダンスに。

前述した、繰り返される対比のモチーフ(男と女、陽と陰、凸と凹)が最も強く押し出されるのがここ。
熱く漲る男根と、冷たく閉じた女陰のメタファーです。

トゥーランドットの首筋から胸元、みぞおちから下腹部を通って太腿までなぞる仮面の男。
冷たく頑なだった態度が、次第にほどけ、恍惚に身を任せるトゥーランドット。
一度目は控えめに、二度目は大きく体をくねらせて、愉悦の表情を浮かべる彼女と仮面の男の問答。

「切ないか」
「おぉ、切ない…」
「辛いか」
「切なくて、辛い…」
「熱いか」
「熱い、熱い…!」

夢魔の手で、性の陶酔に目覚めたトゥーランドット。
男の顔から仮面を剥ぎ取ると…
なんとそこにはカラフが!
たまぎるようなトゥーランドットの叫びで暗転。

この淫らな夢は、無垢の乙女にはさぞ恐怖だったでしょう。
三つの謎を解けなかった求婚者の首を容赦なく刎ねてきた彼女。
それはなにゆえか?
異国の男たちに陵辱され、惨殺された祖先、ローウ・リン姫の復讐のためだったのです。

異国の民への憎悪、そして男性嫌悪。
明日には、あの王子の名を明らかにし、今までの男たちと同じように命を奪ってやったのに…
なのに何故、私はあのように淫らな夢を見た?
彼女の混乱が手に取るようです。

祖先をむごたらしい目に遭わせた男性への嫌悪と同時に、女性である為に父の評価を得られない。
トゥーランドットは自らの性に対する疎ましさも感じていたように思います。

“謎かけ姫”の一連の行動は、ライバル国の跡継ぎを殺して弱体化させ、自国の勢力を増す彼女なりの戦術でもあったのでしょう。
国を栄えさせ、父皇帝に自分を認めて欲しい。
私がこれだけ働いたのに、あの名前のない男は瞬時に父の心を捉えた…
「お前のような息子が欲しかった」
謎解きを果たしたカラフへ与えられた皇帝の言葉は、トゥーランドットにはあまりに酷だったように思います。

* * *

さて、もうひとつの対比のモチーフ『生と死』または『愛と死』。
しかし、これは『男と女』『陽と陰』『凸と凹』と別な物ではありません。
ペルシャ王子たちの亡霊を『死(タナトス)』の象徴とすれば、『愛(エロス)』の化身カラフがトゥーランドットを救うのです。

愛することは、生きること。
『死』を凌駕するものは、ただひとつ『愛』。

奴隷タマル(海乃美月)は、カラフに命(愛)を与えました。
盗賊(実はラサの王子)バラク(月城かなと)もまた、カラフに命(愛)を与えたひとりです。

肉体が滅びても、カラフやトゥーランドットを通して、愛(命)は永遠に受け継がれる。
そして、ラストの大合唱『死ではない 命を!』につながるのです。

“幻の夜が過ぎ 虚ろな夢が覚めるとき 温もりは ひとりではない ふたりだけでもない 果てしなく 世界に連なる 明日への約束となるだろう!”
人と、命と、大いなる愛の讃歌で幕を下ろす『鳳凰伝』。
久々に「いかにも“お芝居らしいお芝居”を観た」という満足感がありました。

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コメント

No title

こんにちは!^^

私も「鳳凰伝」を観劇したので感想書こう書こうと思っていたのですが、
あまり腑に落ちないストーリーで筆が進まなかったんです。
でも、noctilucaさんの文章でストンと納得がいって
共感できるとかできないとかいう次元のストーリーじゃないんだ!と気づきました。
ギリシャ神話や日本書紀のようですね。
一見ひとりの人間としては理解しにくいように見えるけども
実はものすごく生々しく人間の本能を象徴している気がします。

、、、なんか自分で書いていてもよくわからないコメントになってしまいましたが、
noctilucaさんの深い思考や感性、それを見事に表現する文章にはいつもうっとりしてます!
尊敬!^^

Re: No title

黒猫さん、こんばんは!

嬉しいお言葉をありがとうございます!
光栄です。
私は黒猫さんのフラットな視線を通した、明快で鋭い分析にスカッとしてますよ!
いつも更新を楽しみにしています(^o^)

『鳳凰伝』って、現代の感覚や倫理観に照らし合わせようとすると「うーん…」となってしまうお話ではありますが、人物に感情移入すると言うよりは全体を大まかに捉えて観た方がしっくりくる物語なのかな?と思いました。

黒猫さんの仰りたいこと、よく分かります。
ストーリーは古代のものですが、根底にあるのは変わらぬ人間の心の在り方なのかな?と。
ぜひ、黒猫さんのご感想も伺いたいです!
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プロフィール

野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
月組/星組比重高めの全組観劇派。
美丈夫タイプの生徒さんが好み。
宝塚歌劇観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。
◇更新情報はこちら◇
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