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奇想、そして知の集積―『アルチンボルド展』感想+快適に鑑賞する方法3つ

“ジュゼッペ・アルチンボルド”の名を知ったのは、かれこれ30年以上前。
学校の図書室に置かれた画集で目にした一枚の奇妙な絵。

果実や野菜や穀物で描かれた“顔”。
グロテスクなようで、不思議に惹きつけられる、いままで見たこともない絵。
「これは一体なに?」

“顔”を構成するパーツひとつひとつに注目すれば、それは単なる農作物。
なのに集合すると、ヒゲを生やした男性の顔が浮かび上がる。

人間の目の錯覚や顔認証能力を手玉に取った技法は幼心に衝撃でした。
それが彼の代表作『ウェルトゥムヌスに扮するルドルフ2世』だったのです。

以来ずっと気になる存在だった画家。
上野の西洋美術館で大々的な展覧会が催されると知り、心待ちにしておりました。
img-20170815_1.jpg
アルチンボルドの代名詞といえば、動植物や書物など様々な物体で合成された頭像(寄せ絵)。
いわゆる“だまし絵”で、人を驚かせ、面白がらせる…
しかし、彼の作品の魅力はそれだけではありません。

アルチンボルドの作品と彼を取り巻く人々との関わりから、印象深かった事柄を残しておきたいと思います。

* * *

まずは展覧会の目玉となる連作『四季(春・夏・秋・冬)』と、対になる『四大元素(空気・火・土・水)』から。

頬をピンクに染めた若者の肖像『春』(看板の右側の絵)。
これは80種を超える花々から成っています。
耳はシャクヤク、耳飾りはオダマキ、襟はジャスミンやマーガレットなどの花々。
面白いのは、その瞳。
横向きに描いたパンジーで黒目と白目が表現されています。

なぜ、顔でない物体の集合が顔に見えるのか?
目と脳の自動補正機能が働いているから。
それは人間の生存本能と深い関わりがあります。

生まれたての赤ん坊が母の顔を識別し、命を守ってもらうのも、この本能によるもの。
これについてはNHKで放送された『(^o^)顔面白TV』の『日本の顔認証技術は世界一?清水ミチコが開発現場に潜入』が詳しく扱っています。

アルチンボルドは顔認証の視覚と知覚のメカニズムに早くから気がついていたのです。

* * *

よく見ると当時の欧州には存在しなかったはずの動植物などが描かれています。
なぜアルチンボルドはそれらを詳細に知ることができたのでしょう?

答えは20世紀初頭までヨーロッパを支配したハプスブルク家との関わり。
ウィーンやプラハの宮廷で、フェルディナント1世、マクシミリアン2世、ルドルフ2世ら3代の神聖ローマ皇帝に仕えたアルチンボルド。

なかでもフェルディナント1世が創設した、膨大な自然物と人工物のコレクションによる知のアーカイブ『クンストカンマー(Kunstkammer)/クンスト・ウント・ヴンダーカンマー[芸術と驚異の部屋]』が、彼の創作に多大な影響を与えました。
近代以降のミュージアムの原型ともなったクンストカンマー。
また、宮廷付属の動植物園での観察が写実の源となったのです。

さて、今回の展示で最も深い印象を残したのは“IV.自然の奇跡”に出品された『エンリコ・ゴンザレス、多毛のペドロ・ゴンザレスの息子』(作者は南ドイツの画家、とだけ)と、アゴスティーノ・カラッチによる『多毛のアッリーゴ、狂ったピエトロと小さなアモン(※)』の2点。
※アッリーゴ=エンリコ

タイトル通り、『多毛の』とは遺伝性の多毛症を指します。
1547年パリ、フランス国王アンリ2世のもとにカナリア諸島出身の多毛症の男性ペドロ・ゴンザレスが連れて来られます。
アルチンボルドが生み出した作品は画家による“人工的な驚異”ですが、ゴンザレスの姿は“自然の驚異”と捉えられました。
常人とは異なる外見や内面によって“自然の奇跡”と称された彼らを所有することは宮廷に名声をもたらすものでした。

教育を受け、王の世話係を務めるようになったペドロはフランス人女性と結婚し、子どもにも恵まれます。
しかし、多毛が遺伝した子どもたちを含めた一家の肖像画はヨーロッパ各地の宮廷から求められ、やがて彼らはあちこちの宮廷への贈り物とされるのです。

一連の展示を前に感じた言い様のない感情。
人間に対する傲慢と、自然に対する無邪気な驚き。
現代の倫理観に照らし合わせると到底容認できる感覚ではありません。

彼らはクンストカンマーに集められた珍しい動植物と同じなのか?
では、彼らと蒐集品の違いは何か?

このようなことが当然のように行われていた時代があったこと。
長い時間をかけて、差別や偏見の垣根が取り払われつつあること。

一方、ハプスブルク家の強大な権力と、潤沢な財力によって整えられたクンストカンマーという“知の集積”が、後世の自然科学等の学問の発展に与えた恩恵は計り知れません。

物事の表と裏、明と暗、善と悪。
様々な思いが浮かんでは消え、しばし絵の前で佇んでしまいました。

* * *

“V.寄せ絵”に出品されたバルトロメオ(バルトロ)・ボッシの『女性の頭部』『男性の頭部』。
裸の人間を寄せ集めてひとつの大きな顔を形作る。
歌川国芳の『みかけハこハゐがとんだいゝ人だ』や『としよりのよふな若い人だ』が浮かびます。
洋の東西を問わず、このモチーフに魅力を感じる画家は少なくないようです。

人体で最も多くの情報量を抱える“顔”。
画家たちは解きほぐしては組み立て直す作業を繰り返しています。
“顔”に対する飽くなき探究心。

“顔”はどこまで分解しても“顔”と認識されるのか?
∵ このような記号にすら“顔”を感じてしまう人間の目と脳。
一番興味深いのは人間の頭の中なのかもしれません。

* * *

夏休み中ということもあり、かなりの混雑だった本展示。
少しでも快適にスムーズに鑑賞いただけるよう、気づいたことをまとめました。

【アルチンボルド展を快適に鑑賞する方法3つ】
(1)チケット売り場は大変混雑します。公式サイトやプレイガイドで事前に購入されることをお勧めします。
(2)作品保護のため、会場内はかなり冷えています。上着をご持参ください。
(3)併設のレストラン『CAFÉ すいれん』は11:00から食事メニューが提供されます。時間帯によってはかなり並びますのでお早めにどうぞ。

○アルチンボルド展
会期/2017年6月20日(火)~9月24日(日)
時間/9:30~17:30(金・土曜日は21:00まで)
休館日/月曜日、他
会場/国立西洋美術館(東京都台東区上野公園7-7)

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Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共に30年(ブランクあり)。全組観劇派。美丈夫タイプの生徒さんが好み。谷正純・酒井澄夫・木村信司・大野拓史作品が好き。観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。

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