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男役で最も難しい?「平凡な男」を「非凡なヒーロー」に変えた壮一帆│Shall we ダンス?

このお芝居大好き!
笑えて、泣けて、心温まって…
終演後ほんわか幸せな空気に包まれます。

2013年1月3日『Shall we ダンス?/CONGRATULATIONS 宝塚!!』の感想です。
もともと周防正行監督の原作映画がお気に入りで演目発表のときから期待大でしたが、それを上回る大満足!

男役で最も難しい?「平凡な男」を「非凡なヒーロー」に変えた壮一帆


仕事も家庭も満ち足りているはずの平凡なサラリーマンが、ふとしたはずみで社交ダンスの世界に飛び込み、新しい人生を知る。
展開は原作とほぼ同じですが、随所に宝塚ならではのシーンが盛り込まれ、ラストは嬉しいサプライズが待っています。

役所広司が演じた主人公(宝塚版ではヘイリー・ハーツ)は壮一帆さん。
華やかなミュージカルの舞台で、個性的な面々に囲まれても埋もれずに「平凡」を演じることの「非凡」。

「凡庸」という最も「宝塚のヒーローらしくない」男性像を表現するのは難しかったと思いますが、彼は誰に対しても誠実で愛あふれる人物として、堂々と存在しました。

宝塚の主役といえば「歴史上の英雄」「悲劇の主人公」「女を虜にする伊達男」がセオリー。
そういう役には、そうと見せる演技の「記号」があります。

ヘイリーにはそれが一切与えられない。
「平凡な」家庭を持ち、職場と家の往復で日々を過ごす「平凡な」男。
ドラマティックな要素の欠片もないこの役を、壮さんはごく自然に舞台に息づかせました。
ヘイリーの行動が周囲に幸福な変化を呼ぶ、という形で。

揺るぎなきヒロイン、愛加あゆ


ヘイリーの妻、ジョセリン・ハーツ(原作:原日出子)は愛加あゆさん。
舞台の成功は彼女の力によるところが大きいですね。

とにかく、可愛い!
母性豊かで包容力にあふれ、抜群にチャーミング!

夫が内緒でダンス教室に通い出したことに疑念を抱き、探偵事務所に浮気調査を依頼するジョセリン。
こんな可愛い奥さんがいて、本気で他の女に走るわけがない!という説得力に満ちてました。

ラスト近く、浮気の誤解は解けたが、踊ることをやめてしまったヘイリーに寄り添い「変化を恐れないで」と語りかけるように歌う場面。
長い年月を共に過ごした夫婦関係の確かさ・揺るぎなさを感じさせて秀逸でした。

もうひとりの主人公、早霧せいな


ヘイリーの人生を変えるきっかけとなるダンス教師エラ(原作:草刈民代)は早霧せいなさん。
過去のダンス競技会での不幸な事故により、心を閉ざしてしまった寂しき美女。

ヘイリーや仲間たちによって、彼女が自信を取り戻し、再生していくさまも物語の大きな柱のひとつ。
ピンと張った背筋、硬く張り詰めた表情…
騒々しいダンス教室の中で、ひとり異彩を放つエラ。

夜毎、教室の窓から虚空を見つめるエラの姿を、駅のホームから偶然目にしたヘイリーが「ビルの上のラプンツェル」と喩える。
原作にない表現ですが、閉塞感を抱えるエラの状況にマッチした名台詞でした。
塔に閉じ込められたラプンツェルを解き放つのは、ヘイリーと教室の仲間たち。

ヘイリーの同僚ドニー(夢乃聖夏さん)、気弱なサラリーマンのジャン(鳳翔大さん)、ホストのレオン(彩風咲奈さん)、シングルマザーのバーバラ(大湖せしるさん)。

彼らと触れ合ううちに、かたくなだったエラの心が解けていく。
ダンスを始めた頃の、純粋に楽しむ気持ちを取り戻したのです。
ヘイリーに競技会への出場を勧める場面の前後から、花が開くように表情が明るく豊かに変わっていきます。

ここから、ストーリーは一気に加速します。
バーバラをパートナーに、モダンはヘイリー、ラテンはドニーに振り分けられます。

愛すべき男ドニー、夢乃聖夏


映画で強烈なインパクトを残した竹中直人さん演じるドニー・カーティスは、夢乃聖夏さん。
演目発表時より「ドニー役は夢乃さんしかいない!」と思っていましたが…

完璧なドニーがそこにいました。
宝塚的にはギリギリなキャラクターですが、品を落とすことなく愛すべきドニーを演じきりました。

登場するだけで笑いを誘い、スーツ姿で直角歩きをすれば場内爆笑。
甲高い声で真面目に演じれば演じるほど、周囲から浮き上がって可笑しい。

なにより凄いのは、観客の視線を一身に集めながらも、決して独りよがりにならず、舞台を壊さない絶妙なバランス感覚。
仕事も男としても自己評価の低いドニーが輝けるのは、カツラを被り、派手な衣装をまとい、別人になってスポットライトを浴びて踊る瞬間だけ…

そんなドニーですが、競技会でバーバラに「あなたはもうそんなもの(カツラ)がなくても踊れる!」とハッパをかけられ、アフロを脱ぎ飛ばすシーン。
ここでまた、ドニーも脱皮したのです(精神的に)。

塔から下りたラプンツェル


競技会中のアクシデントが原因でダンスをやめてしまったヘイリー。
そこへ、ドニーとバーバラが訪ねてきます。
エラからの手紙を携えて…

競技の世界へ戻ることになったエラは、もう教室で会うことはできない。
その前に開かれるお別れパーティでヘイリーと踊りたい、と。
忘れかけていたダンスの楽しさを思い出させてくれた「あなたと私は踊りたい」。

一人佇むヘイリーの姿と共に、過去のエラの姿が浮かび上がり、すべてを賭けて臨んだ競技会での事故の模様が再現されます。
競技ダンスの最高峰ブラックプールの決勝で倒れた彼女を、当時のパートナーは助け起こさなかったのです。

夢破れ、相手に失望するエラ。
そんな彼女に、もう一度パートナーへの信頼を取り戻させたのはヘイリーでした。

ヘイリーたちが出場した競技会で同じアクシデントが起こったとき、転びそうなバーバラを守り抜いたヘイリー。
その姿がエラの心を動かしたのです。
もう一度ダンスを愛そう、と。
宝塚随一の芝居巧者である早霧さんですが、ストイックで硬質な声の魅力も相まり、このモノローグは出色の美しさでした。

宴もたけなわなパーティ会場。
ヘイリーの姿はありません。

やきもきする周囲をよそに「あの人はきっと来る」と語るジョセリン。
夫を愛し、支え、信じる妻の存在の確かさが、短い台詞に込められます。

ドラムロールが響き、皆が固唾を呑む中、エラのラストダンスの相手を照らすスポットライトが会場を舐め回す。
あきらめかけた頃、ヘイリーが現れ、彼女に手を差し出す。
「Shall We Dance?」

映画を何度も観て、分かりきっていた結末ですが…
温かなラストに目頭が熱くなりました。

名曲「Shall We Dance」に乗せて、誰も彼もが幸せそうに踊るエンディング。
ヘイリーと踊るエラに、新たな彼女のパートナー・アルバート(未涼亜希)が寄り添い、その手を取る。

ヘイリーからアルバートへのバトンタッチ。
台詞はありませんでしたが、もうひとつの「Shall We Dance?」が確かに聴こえました。
塔から下りたラプンツェルの物語、その先を予感させるシーン。
これは嬉しいサプライズでした。

ヘイリーはジョセリンと、エラはアルバートと踊る。
ドニーも踊る。バーバラも踊る。ジャン(鳳翔大)もレオン(彩風咲奈)も。
ジョセリンが雇った探偵(奏乃はると)までもが一緒になって踊る。
登場人物の全てが愛おしくなる大団円で幕。

注目した方々(未涼亜希/奏乃はると/大澄れい/月城かなと)


エラの新しいパートナー、競技ダンス界のトップダンサーであるアルバートは、未涼亜希さん。
少ない出番ながらも圧倒的な存在感。

とてもジェントルな描かれ方で、この物語をいっそう大人のお伽話へと導く役割を担います。
ヘイリーとは違う方向から、エラが新しい一歩を踏み出す助けとなるアルバート。

一度はエラからの誘いを断りますが、突き放すのではなく、彼女が再び踊る喜びを取り戻したならば、自分から改めてパートナーを申し込むと言うのです。

男性のリードがない限り、女性は決してステップの第一歩を踏み出せない。
逆に言えば、リーダー(男性)はパートナー(女性)を導き、尊重し、相手の美しさが最大限に活きるよう心を尽くす役割でもあるというのです。
「Shall We Dance?」の精神が垣間見えるこのシーン、反則級のカッコ良さです。

ダンスホールのエキシビションで「Sing, Sing, Sing」に乗せ、披露したダンスも必見。
歌声がまたいいですね。
どこから聴こえてくるのか分からなくなるような、劇場全体を包み込むまろやかさがあります。
ちょっとした台詞の端々まで、渋くていい男アルバート。
ドニー役の夢乃さんと共に、助演賞を差し上げたいですね。

ヘイリーの調査を進めるなかで、いつの間にかハーツ夫妻にシンパシーを感じるようになった探偵クリストファーには、奏乃はるとさん。
実は物語の重要なキーパーソンなのですが、朴訥とした雰囲気でストーリーに厚みをもたらします。

ダンス教室の生徒、エラに横恋慕(?)する中年男性の大澄れいさん。
レッスン中、さりげなくエラの尻を撫で下ろしては手を掴み上げられ、無駄に顔を近づけてはグキッと矯正されるセクハラ親父。
映画でもあったシーンがきっちり再現されて笑いました。
教室の場面は、あちこちで面白い小芝居が繰り広げられ、どこを観ていいやら悩みます。

エラが心を閉ざすきっかけとなった元パートナーの月城かなとさん。
一瞬の登場ですが、印象的な美貌。

いきいきと舞台を飛び回る登場人物全てに触れられないのが残念です。

華やかなダンスシーンが多く、芝居とショーを同時に観たような満足感を得られるこの作品。
人生を愛し、ダンスを愛する人々の笑顔が輝く舞台。
早くも今年のベストアクト、忘れられない大好きなストーリーとなりました。

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プロフィール

野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共に30年(ブランクあり)。全組観劇派。美丈夫タイプの生徒さんが好み。谷正純・酒井澄夫・木村信司・大野拓史作品が好き。観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。

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