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私・僕・俺、一人称に隠された男爵の心とは│グランドホテル

私(わたし)、俺(おれ)、僕(ぼく)。
男爵(珠城りょう)の一人称使い分けが密かにお気に入りな私。

日本語って不思議で、『自分』と『相手』の関係によって一人称が変わるんですよね。
公の場で『私』と自称する人が、家族や親しい仲間内では『僕』『俺』になる。

社会的立場、相手との親密度や力関係、場の空気etc.
諸々の事情に合わせ、瞬時に器用に使い分ける。

小説や映画や演劇においては、一人称で多くの情報を読者や観客に示すことができます。
時代物の登場人物が『拙者』や『某(それがし)』と称したら「この人はお侍さんなのね」とか、『朕』なら「王様か皇帝か…身分の高い人ね」みたいな?

男爵の一人称の変化によって、彼の心が手に取るように感じられるのです。

【私】
エリザヴェッタに対して→あなたを愛していると言っても完全に信じてもらえないと思って。
オットーに対して→あなたにこれ(財布)を預けたでしょう。

【僕】
エリザヴェッタに対して→は Elizaveta ここだ

【俺】
フラムシェンに対して→君(きみ)に会いたくてここへ来たんだ。
運転手に対して→金は無い。の部屋から出て行け。

相手への敬意や友情、愛情の有無も推し量れますね。

身分はあるのに金が無く、金が無いのに見栄を張ってベルリンの一流ホテルで暮らしている。
かと言って、美貌を活かしたジゴロ稼業はプライドが許さない。
なのに、借金返済のためコソ泥になるのはいとわない(“俺の仕事”とまで言っている)。

気軽なガールハントは朝飯前なのに、本気の愛情に心震わす初心さも持ち合わせている。
なかなか複雑な男です。
この一人称の定まらなさは、同時に男爵の人格の揺らぎも表しているのではないかと。

まあ、相手によって態度を変えるのは誰しもあることですが。
口先三寸で調子よく生きてきた男が、ひとりの“女性”に出会った時、初めて自己(私)が定まったのではないかと。

エリザヴェッタの台詞「男爵なの?じゃ、本当にお金に困っているのね」。
当時の、爵位を持った人々の内情を知る彼女ならではの言葉に、男爵の心がほどけたのではないでしょうか?
「私には金が無いんだ」
素直にこう言えたのは、相手がエリザヴェッタだからこそ。
(運転手にも言ってますが、それは別)

お金が無いの?
そんなことは問題じゃないわ。
一緒にウィーンへ来て。
あなたがいないと踊れない(生きられない)の。

もう虚勢を張らなくてもいい。
僕自身の持ち物はこの命だけ。
それでも君を愛しているよ。
一緒にウィーンへ行こう。


プライジングの手に掛かり、そのたったひとつの命さえ失った男爵。
この世とあの世の狭間の暗闇で怯える彼の一人称は『僕』。
不安をたたえた迷子のような目つきが忘れられません。

生命と共に虚飾の鎧を脱ぎ捨てた男爵。
貴族としての体面を保つ必要がなくなり、借金取りに追われることもなくなった。
『私』と『俺』の役割から脱却したフェリックス。
まっさらな彼の一人称が『僕』だったことが妙に腑に落ちたのです。

本来の一人称“I”を、きめ細かに『私/僕/俺』と使い分けたのは、ひとえに翻訳の小田島雄志、訳詞の岩谷時子、演出の岡田敬二と生田大和諸氏のお力によるものでしょう。

他者から男爵への“I”と“You”の関係が面白いなぁと思ったのはこちら。
フラムシェン一人称→あたし、二人称(対男爵)→あんた
男爵一人称→俺、二人称(対フラムシェン)→君(きみ)

運転手一人称→あっし、二人称(対男爵)→あんた
男爵一人称→俺、二人称(対運転手)→不明

フラムシェンの、自分の魅力を十分に知り、ちょっと男を軽く見ている感じ。
運転手の粗野で下卑た感じ。
男爵との距離や力関係もよく表れていますね。

運転手に至っては男爵から「おまえ」とすら呼ばれていません(よね?どこかで呼ばれてましたっけ?)。
名前はおろか、二人称でさえ呼ばれない関係。
いかにも希薄ですが、あえて口にしないことにより男爵にとってどのような人物なのか示しているとも考えられます。
『ハリー・ポッター』の“He who must not be named(=ヴォルデモート卿)”みたいな扱いですが…

そう言えば、運転手が劇中で交わるのは男爵だけなのですよね。
支配人やエリックからは何と呼ばれてるのか気になります。
『男爵のお抱え運転手』かな?

余談ですが、うちのパートナーは「宝塚で赤×黒のドレスを着た一人称『あたい』の女は絶対、密かに慕ってる主人公の男のために命を落とす」という法則を見出してました。
それは柴田侑宏先生の作品限定の法則な気がする…

それでは皆さま、良い週末を!

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コメント

No title

こんばんは。

一人称、二人称の検証、面白いですね!
流石noctilucaさん!!

日本語ならではの微妙なニュアンス、
いままでは当たり前のように聞いていたけれど、
先生方が深い考えを持って使い分けていたんですねー!
男爵が最初のグルーシンスカヤの部屋では「私」とちょっとかしこまっているのも可愛いし、
「僕」となって等身大の自分をぶつけているのもキュンとしますね。
明日明後日観劇するので、一人称、二人称に注目しながら観たいと思います。

Re: No title

黒猫さん、こんばんは!
お楽しみいただけたようで幸いです!

細かいことが気になるのが私の悪い癖(杉下右京風)

本当に黒猫さんの仰る通り、一人称「僕」の無防備というか、素の感じがたまらなくいいんですよねー。
最初は気にならなかったんですけど、何度か観劇するうちに段々一人称の使い分けが気になっちゃって。
そういう目で観ると違った捉え方ができるなぁ…と。

是非また舞台のご感想聞かせてくださいね!
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プロフィール

野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共に30年(ブランクあり)。全組観劇派。美丈夫タイプの生徒さんが好み。谷正純・酒井澄夫・木村信司・大野拓史作品が好き。観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。

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