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金で幸せは買えないが、金で手に入る幸せはある│グランドホテル

前回の記事の続きです。

男爵(珠城りょう)の運転手兼借金取りのとしさん(宇月颯)。
「刻限までに金(カネ)を持ってこなければ命の保証はない」
男爵に最後通牒を突きつけた彼ですが、果たして男爵が不慮の事故で死なずに返済期限を迎えたとしたら。
運転手は男爵を撃つと思いますか?

これは、撃たないでしょう。
軽く痛めつける(顔以外を)くらいのことはやりかねませんが。
金の卵を産む鶏をむざむざ殺してしまっては元も子もないですからね。
投資した分は利子も含め、きっちり回収するでしょう。

首飾り盗難未遂事件の顛末からして、男爵に泥棒の才能は無さそうです(あっても問題ですが)。
それこそ男爵の美貌を活かしてジゴロ稼業に精を出させるか。
それとも“マグロ漁船に乗せる”的な手段を取るか。

物語冒頭、支配人(輝月ゆうま)に「出ていくなら6ヶ月分の滞在費の精算を」と求められ、すかさず「7ヶ月だ」と切り返す男爵。
これには思わず声を出して笑ってしまいました。

7ヶ月分の宿泊費ってどれだけ滞納していたのでしょうね?
気になったのでざっくり計算してみました(あくまで目安ということで現代日本に置き換え)。
東京宝塚劇場に隣接する某老舗のスイート(プレミアムタワー)は約155,000円(1名利用の場合)~。
155,000円×210日=32,550,000円
おおよそ3,250万円。
当時のベルリンに当てはめても、結構な額が未回収となったと推察されます。
さらにお召し物の仕立て代やら日々の食事代、ランドリーサービス、他諸々…
運転手が属する組織からいくら借りていたのでしょう?
宿代も含め、すべては“男爵”としての体裁を整えるための必要経費だったわけですが。

「男爵なの?じゃ本当にお金が無いのね」
エリザヴェッタのこの台詞、私はこれがとても好きなのです。
彼女は当時の貴族の懐事情をよく知る側の人間なのだと、端的に表しています。
オットーやフラムシェンは男爵が本当に金を持っていると信じていましたが、その対比も面白く感じました。

実は首飾りを盗みに来た、との男爵の告白にも「あら、そう!」と、さして動じないエリザヴェッタ。
「それ欲しいの?なら、あげるわ」
このちゃぴちゃん(愛希れいか)の物言いは絶品ですね。
カネにも物にも頓着しない。
カンパニーのギャラの心配はしても(首飾りを売却しギャラを捻出しようとした)、自分のことはお構いなし。
留守中に部屋へ忍び込んできた男の怪しげな口説にも、心底疑う様子も見せません。

有り体に言えば、やや世間知らずな彼女。
マネージャーのウィット(光月るう)や付き人のラファエラ(暁千星)の庇護がなければ、日常生活を送ることすら難しそうに思えます。
踊ることだけが彼女の半生を占めていたのでしょう。
そんなエリザヴェッタのある種の無垢さ。
それが、ちゃぴちゃんの台詞から感じ取れたのです。
なんて巧いんでしょうね。
演技としての超絶技巧なのか、エリザヴェッタとして舞台に息づくちゃぴちゃんの心が露出しているのか。
嫌味なく、イノセントな様子にノックアウトされました。
恐らく、男爵も年上のバレリーナの無垢に心を動かされたのではないかと想像するのですが…

オットーから株の儲けの一部を受け取った男爵。
しかし、すかさず運転手に奪われます。
「お前たちにとっては端金でも、私には全財産なんだ!」
今までどこかいい加減に、湯水のように他人の金を使ってきた男爵。
愛する人を得て、金の重みを知ったでしょうか?

この金が無ければウィーンへ行けない、エリザヴェッタと共に居られない。
しかし、もっとも遠ざかったのは輝くような自分の未来でしょう。
“グランドホテル”という豪奢な檻から抜け出した自分。
エリザヴェッタと始める人生の朝。
なんとしても金を作らねばなりません。
そこへまた運転手の囁きが響きます。
「プライジングの部屋には金がたんまりあるぞ」と。
そして、自分から全てを奪うことになる拳銃を手にした男爵。

男爵の助言により更なる大金を手にしたオットー。
望みどおり、札束を撫でながら安らかに永遠の眠りにつけるでしょう。

かたや男爵は自分の未来を買う金を奪いに行き、命を落とします。
たかが金、されど金。
金に翻弄され、引き起こされた騒動で、愛も命も全てを失うことになった男爵。
さぞかし無念だったことでしょう。

他にも、愛する女の為にコツコツ金を貯め続けてきた女。
会社が倒産の危機にさらされている男。
様々な懐事情を抱える人間たちがホテルに集まります。

金で幸せは買えないけれど、金で手に入る幸せはある。
金が無ければ幸せのきっかけを掴むことすらできないこともある。
“カネ”をキーワードに観てみると、また違った面白みを感じられる『グランドホテル』です。

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Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共に30年(ブランクあり)。全組観劇派。美丈夫タイプの生徒さんが好み。谷正純・酒井澄夫・木村信司・大野拓史作品が好き。観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。

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