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たった一日半に生きる喜びを凝縮した男爵│グランドホテルに感じる無常

「エリザヴェッタ、僕はここだよ」

フラムシェンの部屋。
彼女に乱暴しようとしていたプライジングと揉み合う男爵。
一発の銃声が鳴り響く。
撃たれたのはどっちだ?

ほの暗い舞台の真ん中。
赤い薔薇の花束を抱えた男爵が立っている。
あぁ、良かった、彼は生きている。
では撃たれたのはプライジングなのか?
いや、そうではない…

「僕は、エリザヴェッタ、ここだ」
「薔薇を抱え待ってる」
約束通り、この駅で。

もしも男爵がプライジングを撃ったなら大変な騒ぎになっていたはずだ。
洒落者の彼がどうしてルパシカ(泥棒ルック?)のままで駅にいるんだろう?
追手を振り切り、着の身着のまま駅までやって来たのだろうか?
愛する人との約束を果たすために。

違う、そうじゃない。
男爵は既にこの世の人ではないのだ。

* * *

今回新しく加わった男爵のナンバー『Roses At The Station』。
あまりに悲痛で、胸が苦しくて、いっそ聴かずに済めば良かったとすら思うほど。
「エリザヴェッタ、僕はここだよ」
「約束の駅で薔薇を抱え待ってる」

生きたかった、もっと生きたかった。
ようやく自分の人生を見出したのに、その矢先に命を落としてしまうなんて。
「君はどこだ?光が見えない」
エリザヴェッタという光を見失った男爵の無念が、自分の事のように胸に迫ります。

一体、男爵の人生とは何だったのか?
きらびやかに取り繕っただけの空虚なものだったのか?
いいえ、そうではありません。
たった一日半で男爵は愛と友情を得、男爵自身の人生を生きたのだと、そう思えます。

エリザヴェッタの干渉は男爵の人生にとって予想外の出来事でした。
男爵の人生にエリザヴェッタが思いがけず関わることにより、彼の運命は大きく変わります。
彼女がいなければ首飾りを盗みに入ることも、それに失敗してプラウジングの部屋に忍び込み、返り討ちに遭うこともなかった。
そして、命を落とすことも。

根っからの悪人ではない男爵は、フラムシェンのピンチに思わず手を差し伸べます。
しかし、プライジングの部屋から姿を現したことを咎められ…

約束通り、腕いっぱいに情熱の赤い薔薇を抱えてエリザヴェッタを迎えたかったでしょう。
初めて知った恋の甘い喜び。
愛する人と共に生きることを、どれだけ欲したでしょう。

花束を抱え、駅に佇む彼自身の姿は、心臓が止まり脳が死に至るまでのわずかな間、男爵の心が見せた夢だったのでしょうか。
野原を駆けた少年時代、戦場で戦った青年時代。
男爵なりの喜びも哀しみもあったであろう人生が浮かんでは消えていく様を見て、彼に対するどうしようもない愛おしさがこみ上げました。

* * *

男爵を演じた珠様(珠城りょう)の舞台姿から感じられるもののひとつに、深い孤独の影があります。
どんなに大勢の仲間に愛され慕われ、その中心に居ても拭うことのできない孤独。
寂寥と呼ぶのでしょうか。
時々感じませんか?そんなこと。
家族や友人やパートナーに囲まれ、楽しく過ごしているはずなのに、ふと感じる寂しさ。
この時間は永遠には続かないという思い。

生田先生が珠様を評し「光が強いゆえに陰が深い、それが大きな魅力」と仰ってましたが、彼女が発する強く温かな輝きに潜む寂寥や無常は、男爵のこのシーンで顕著でした。
スポットの中に浮かび上がる男爵はなんだか寒そうで、寂しそうで。
母を見失った幼子のように不安気で。

「エリザヴェッタ、僕はここだよ」
この詞の中から言外に“早く見つけてよ、愛してるよ、寂しいよ、君を見つけられない”との男爵の声が聴こえてくるようでした。

私は男爵に感情移入して観ておりましたが、しかし、ドクターの視線(俯瞰)から観れば、ひとりが死に、ひとつの命が生まれ「相変わらず」なのです。
一体、男爵のあの激しい想いはどこへ掻き消えてしまったのでしょう?
やがて皆、彼のことを忘れてしまうかもしれません。
エリザヴェッタでさえ。
フェリックス・フォン・ガイゲルンという男が確かに存在した証はただひとつ。
オットーの手からエリックの息子に委ねられたシガレットケースのみ。
時々はそれを眺めながら、美しく快活で魅力的だった彼の思い出を語ってくれる人はいるでしょうか?
(ホテルマンが職場外で顧客について語るのはタブーですが)

では、男爵はエリザヴェッタと出会わなかった方が良かったのか?
それは違います。
彼女と出会ったことで男爵は人生の輝きを取り戻したのです。
恋人を愛し愛され、友と笑い酒を酌み交わし…
たった一日半に生きる喜びを凝縮したのです。

男爵もエリザヴェッタもオットーもフラムシェンも、そしてこの舞台を観ている私たちも“淀みに浮かぶうたかた”であり、消えては現れ、永遠にとどまることはできないのです。
だからこそ、男爵の“一日半”のように、せめていくばくかの人生の喜びを手に入れたい。
そんなことをつらつら考えた『グランドホテル』MY初日でした。

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野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共に30年(ブランクあり)。全組観劇派。美丈夫タイプの生徒さんが好み。谷正純・酒井澄夫・木村信司・大野拓史作品が好き。観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。

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