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『グランドホテル』屈指の難役ラファエラ・オッタニオ│変化する愛の形

エリザヴェッタの付き人であり、友人でもあるラファエラ・オッタニオ。
この役を演じる難しさはエリザヴェッタへの思慕の念を、どのように“宝塚的”な形に落とし込んでいくかという点にあります。

男性同性愛を描くことには比較的寛容とも言える宝塚歌劇ですが、女性間となると(私の知る限り)前例が浮かびません。
他者への愛は、時代背景や両人の属する環境に左右されることはあるにしろ、相手を求めてやまないという一点において異性間・同性間で本質的な違いは無いと考えますが、なぜか宝塚の舞台で(娘役による)女性同性愛が取り上げられることはない。
宝塚の男役至上主義な側面がここに表れているのか、はたまた別な理由があるのか。

もっとも男性同性愛も作中での描かれ方は、あくまでも史実またはエピソードのひとつといった形に留まりますが(物語のメインではない)。
共に女性が演じる男役と女役とで成り立つ宝塚の舞台において、同性間の愛を描くことはなかなか難しいことのようです。

* * *

さて、ラファエラがエリザヴェッタに対して抱く想いは一体どのようなものなのか?
窺い知ることは難しいですね。
だからこそ、深く知りたい、彼女の心に分け入ってみたいと思わせる。
『グランドホテル』の登場人物の中で、強く興味を惹かれるキャラクターです。
また、どのような女性像を組み立てていくか、最も演じ甲斐のある役であるとも言えます。

異性(と言うかエリザヴェッタ以外の人間)を寄せつけないように見えるラファエラ。
22年もの間、エリザヴェッタの一番近くで、最も深く長い愛を彼女に捧げたラファエラ。
その愛の形は一体どのようなものなのか?

偉大なバレリーナへの敬愛と崇拝の念が、やがてエリザヴェッタ本人への愛に変容したのか。
今以上に強い精神的な結びつきが得られれば満足するのか。
肉体的にも結ばれたいと願う、性愛を伴ったものであるのか。

仮にラファエラが非性愛者(他者に恋愛感情を抱くが性的衝動は抱かない)である場合を除き、愛する人と性的関係を望むことは自然と思いますが、その場合ラファエラのエリザヴェッタへの愛はフィリアではなくエロスとなります。
しかし、このエロスは単に“性愛”としての意味ではなく、自己に欠けているものを相手に求める愛(プラトンのエロスの愛)だと考えられます。

22年間、ラファエラの心を捉えて離さなかったものは何なのか。
ちゃぴ(愛希れいか)エリザヴェッタから感じられたのは、輝くような無垢でした。
これはひとりの人間が生涯かけて欲するに値するものでしょう。

“人生の嵐から守り続けた 愛しい人 行きましょう”
“見つけましょう 平和と安らぎを 二人だけの丘の上”
ラファエラの歌う『Twenty-Two Years~Villa On A Hill』からは、愛する人を守りたい、自分以外の他者や世間の垢で穢したくない、自分の腕の中に収めて離したくない。
様々な想いが読み取れます。

同じ性であるがゆえに遂げられない想いを抱え、愛する人が自分以外の他者に向ける愛の視線を傍観し続ける。
これは耐え難いものであったでしょう。
この苦しみが彼女から表情を奪ったのか、ラファエラは一見感情の起伏が乏しいように見えます。
唯一彼女が生の感情を覗かせるのは「私は強くもなければ賢くもない…」の独白です。

強くもなく賢くもない自分が愛する人を守るためにできることは何か?
いざという時、エリザヴェッタの生活を支えられるだけの金を貯めること、これもまた現実的に正しいひとつの愛の表現ですね。
ラファエラは銅貨をちびちび貯めたのではありません。
給金すべてをつぎ込んだのです(運用もしていたかもしれない)。
お金だけではありません。
心も時間も労働も、彼女が持てる全部をエリザヴェッタに捧げてきたのです。

これだけの情熱を注いで、ラファエラはエリザヴェッタに見返りを期待していたと思いますか?
エリザヴェッタの無垢が自分だけのものになること。
自分がエリザヴェッタに向けるのと同じ愛を返してもらうこと。

ラファエラの幸福とは何でしょう。
丘の上のヴィラでの生活でしょうか?
そんな桃源郷を夢見て、長い年月をエリザヴェッタの側で過ごしたのでしょうか。

思うに、どこまで歩いてもそんな夢の街にたどり着けないことはラファエラ自身がよく知っていたのではないかと思います。
エリザヴェッタと親友以上の関係になれることは決して無い。
では、エリザヴェッタへの想いをどのように収めるのか。

ひとつの手段として、見返りを求めない無条件の愛、いわゆる無償の愛(アガペー)へと昇華させる。
花組公演『金色の砂漠』の登場人物、ジャーとビルマーヤの愛もエロスからストルゲーに変化しましたね。
愛は一定ではなく移ろうものである。
これは私たちにも理解しやすい心の動きです。

エリザヴェッタが誰かを愛するならば、その相手を愛するエリザヴェッタをまるごと愛する。
エリザヴェッタにとって最も幸せであるように力を尽くす。
「マダムが幸せなら、私も幸せ」という境地でしょうか。
これは苦しみや忍耐も伴いますが、同時に最も安らぎを得られる愛の形でもあります。
ふたりで暮らすヴィラは実現しなかったとしても、彼女にとって不滅の拠り所となるでしょう。

* * *

冒頭に戻り、もしも娘役がラファエラを演じたらどうなるか考えてみました。
そもそもなぜ男役が演じるのか?
『若手スターに宛てる役が少ないから』以外で浮かぶのは“生々しさの回避”。
若手男役を配することで、(現在の宝塚ではイレギュラーな)女性から女性へ向けられる愛にぼかしをかけたのでしょうか。

描かれるのは女性A(ラファエラ)から女性B(エリザヴェッタ)への愛、しかし女性A=男役であることを観客は知っている(ご存じない方もいらっしゃいますが)。
女性A(本来の性:女性、舞台での性:男性、役柄:女性)、女性B(本来の性:女性、舞台での性:女性、役柄:女性)…混沌としてますねー。
頭の中がぐるぐるします。

個人的に、ラファエラはある程度経験を積んだ娘役が演じるべき役柄だと思います。
なぜなら、彼女もまた22年間エリザヴェッタと等しく年齢を重ねてきた女性だからです。
感覚的には、エリザヴェッタよりわずかに年嵩な感じを受けますが。

スケジュールの都合で役替りは一パターンしか観ていないのですが、ラファエラの第一印象は「若い」でした。
見た目云々ではなく、芝居が若いのです。
ちゃぴちゃんは演技によってエリザヴェッタの年輪を表しましたが、ラファエラには感じられませんでした。
生々しさを除外するため、あえて年齢不詳感を出す手法かもしれませんが、それは不要だと思います。

ラファエラのイメージは蕾のまましおれてしまった薔薇。
想いを閉じ込めて閉じ込めて、花開く時期を逸したように感じられるのです。
どことなく生硬な印象がそう思わせるのでしょうか。

では、誰で観てみたいのか?
すーちゃん(憧花ゆりの)で想像してみました。
かなり人間臭く血の通った女性像が浮かびますね。
“引退間近のバレリーナと彼女に人生を捧げた付き人”の図式にピタッとハマるお芝居を観られそうですが、二人の関係が濃密になりすぎてしまうでしょうか?
余談ですが、おかっぱにチャイナテイストの衣装のすーちゃんは『舞音』のマダム・チャンを思い出させますね。

* * *

エリザヴェッタに魅入られたひとりの人間、ラファエラについて思うことを書き連ねましたが、やはりまだ謎めいたところが残ります。
千秋楽を迎える頃には彼女の心に少しでも近づけるでしょうか?
東京公演で他パターンを観られるので、そこでまた印象が変わると思います。

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コメント

No title

ラファエラの愛情について、素晴らしい考察ですね!
観劇しながら感じ、観終わった後、繰り返し思い出しては、私の心の襟で醸成されるのだけど、言葉にしようとすると、霞のごとくつかみどころなくぼやけてしまう想いを、それこそ、隅から隅まで的確に表現して下さっているようで、
「読ませて頂き本当にありがとうございます!」
という気持ちになりました。

私は、2回観劇しましたが、どちらも朝美ラファエラでした。
諦念に包まれてはいるけど、その中にはやっぱりエリザベッタに負けない〝無垢な憧れ”と、色濃い愛情、また同じだけの傷口があって、丘の上のヴィラでの生活が、夢で終わろうと、現実になろうと、彼女のスタンスは、決して変わらず続いていくのだろうな、と思いました。

すーさんラファエラ!本当に彼女なら生硬かつリアルなラファエラを、見事に演じてくれそうですね!
でも、珠様とのエピソードが霞むほどの存在感になる恐れが…

とにかく今回、「グランドホテル」を、観劇できて、本当に幸せでした!

Re: No title

>haruse様
こんばんは!
こちらこそお読みくださった上、温かいコメントまでいただき、本当にありがとうございます!
私も初見で受けたインパクトがだいぶ落ち着き、心の奥底に沈んだ澱だけを抽出して書いたような感じなのですが、共感いただけて嬉しいです。

[エリザベッタに負けない〝無垢な憧れ”]、これは盲点でした!
ラファエラの真っ直ぐで濁りの無い愛情の源はここだったのか、と深くうなずきました。
彼女もまたエリザヴェッタと呼応し合う無垢の持ち主だったからこそ、あそこまでの愛情を捧げることができたのかもしれませんね。

『グランドホテル』という作品は90分の中に、それぞれの人生の断片がきちんと描かれていて素晴らしいなぁと思います。
朝美ラファエラは未見なのですが、またどういったアプローチで観せてくれるのか楽しみです。

実は私も、すーちゃんラファエラに対してはharuse様と全く同じことを感じました…
珠様とのエピソードが霞みそうですよね。

同感です!私もこんなに素晴らしい舞台を観られて本当に幸せです!
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プロフィール

野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共に30年(ブランクあり)。全組観劇派。美丈夫タイプの生徒さんが好み。谷正純・酒井澄夫・木村信司・大野拓史作品が好き。観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。

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