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全国ツアーご当地ジェンヌ紹介+月城かなとの四次元ポケット│鳳凰伝

先週末から『鳳凰伝』『ベルリン、わが愛』『鳳凰伝』…と、古代中国と近代ドイツを行き来している私。
感想はTwitterにもちょこちょこ上げていますが流れてしまうので、特に印象的だったシーンをこちらにまとめます。

まずは全国ツアー恒例ご当地出身ジェンヌさんの紹介。
山梨公演ご当地ジェンヌは、優ひかるちゃん。

憧花ゆりの組長「山梨県甲州市出身、研9にして初めての凱旋公演です!」
ここで大きな拍手。

山梨出身者はひとりだったので、たくさんのエピソードに触れられていました。
珠様(珠城りょう)のご挨拶でも。
「ここ(コラニー文化ホール)で初めて宝塚の公演を観て、受験を決意したそうです」

かつて客席で幼い胸をときめかせた少女が、長い時を経て、今度は舞台から客席を目にしている。
まぶしいスポットと、万雷の拍手を浴びながら…
感極まり、ちょっと顔を歪めたひかるちゃん(優)を見て、私まで目頭が熱くなりました。
こういう瞬間に立ち会えるのが宝塚ファンの醍醐味ですね。

ちなみに、ひかるちゃんが考える“山梨県の好きなところ(いいところだったかな?)”は「宝塚の創始者、小林一三先生の出身地」だそうです。
ひかるちゃん、あなたはタカラジェンヌの鑑だわ…

オリンパスホール八王子公演のご当地ジェンヌ(東京都出身者)4名は、全員娘役さん(組長は「女役」と仰ってました)。
江東区の早桃さつきちゃん。
渋谷区の茜小夏ちゃん。
文京区の花時舞香ちゃん(組長が「最下(級生)?最下?」と確認されていましたが、下から二番目でした)。

そして、東京出身者の中でも、ご当地中のご当地!
八王子市出身の夏風季々ちゃんには、この日一番かも?と思うほどのひときわ熱く大きな拍手が送られました。

難関を突破し、日々レッスンに励み、憧れの舞台に立ち、故郷に錦を飾る。
生徒さんご本人はもちろん、親御さん、ご家族、お友達、お教室の仲間たち…
皆さまが待ち望んでいた瞬間ですね。
会場の温かな空気に、私まで嬉しくなってしまいます。

* * *

そして、れいこさん(月城かなと)のポケットは四次元ポケットなんじゃないか疑惑。
ショー『CRYSTAL TAKARAZUKA―イメージの結晶―』、第2章『マーリンとMr.シンデレラ―愛の結晶―』。
れいこさん扮するダニーがポケットから出したパンを老人に与えるシーン。

日替わりでアドリブが飛び出します。
「これ、○○(ご当地名物)」と言いながら、パンを渡すのです。
例)これ、高尾山のお土産

甲府の14時公演は「ほうとう」でした。
開演前に「信玄餅かな?」と予想していましたが…外れた!
それにしても、れいこさんのポケットは四次元ポケットですか!?
どうして麺が出てくるの!?
なぜだか丼に入った調理済みのほうとうではなく、生麺をわしづかみするれいこさんを思い浮かべてしまいました。
シュールですね。
しかし、れいこさんにはなぜかこういう不思議なシチュエーションが似合います。

毎日せっせと、ご当地ジェンヌさんに各地の名物をリサーチするれいこさんを想像すると愉快な気持ちになりますね。
北九州、福岡、広島…明日からどんなアドリブが飛び出すか楽しみです!
(次は豚骨ラーメンかな?麺縛りで…)

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この世で一番怖いものって何だろう?│『怖い絵』展感想

前回まさかの210分待ちで挫折した『怖い絵』展に再挑戦しました。
あまりの人気っぷりに、とうとう平日を含む毎日20:00まで開館時間が延長されたみたい。
img-20171124_1.jpg
多少は空いたかな?と思いましたが甘かったですね。
祝日の昨日、朝から冷たい雨にも関わらずまたもや210分待ち!
ゆっくりランチして遅めの時間に入ろうと思いましたが、待ち時間100分を下回ることはなく…
覚悟を決めて行列に並びました。

17:35に私たちが並び始めた時点では110分待ち表示でしたが、館内に入れたのは18:45。
70分ほどで済んだようです。
状況により変動はあるかと思いますが、ご参考までに。
会期末に近づくにつれ、ますますの混雑が予想されますので、ご興味のある方はお早めに。

20:00の閉館まで1時間15分。
普段なら3~4時間かけて観る私にしてはかなりの駆け足でしたが、気になる作品はじっくり鑑賞でき、おおむね満足でした。

お目当ては、オーブリー・ビアズリーの『サロメ』。
オディロン・ルドンのお気に入りの作品も観られ、嬉しかったですね。

今回、特に心に残った作品はこちらの2点。
ポール・セザンヌ『殺人』。
ウィリアム・ホガース『娼婦一代記』。

まずは『殺人』。
不遇をかこっていた若き日の作品。
セザンヌと言えば、『サント・ヴィクトワール山』や『リンゴとオレンジのある静物』のように、抜けるように温かな光のイメージが強かった私。
二人がかりで押さえつけた被害者の体へ、今まさにナイフを突き立てんとする瞬間の、むき出しの暴力を描いたこの作品は衝撃でした。
印象主義と出会う前、しかし、確実に後年の作品群へのつながりを思わせる、初期の荒々しいタッチ。
画家の心の変遷の一端に触れられたようで、胸を打たれました。

そして、最も強く脳裏に焼き付いたのは『娼婦一代記』。
ロンドンへ出稼ぎにやって来た少女モルが娼婦に身を落とし、若くして亡くなるまでを描いた連作です。

仕事を求めて都会にやって来たモル。
女衒に騙され、金持ちの商人の愛人となった彼女。
浮気が発覚して商人の家を追い出され、自宅で身を売りますが、治安判事により逮捕されます。
感化院に入れられたモルが強いられた奉仕労働は、絞首刑に使う麻縄を作ること。
釈放されたモルは男児を産み落としますが、食い扶持が増えたことにより、貧困に拍車がかかります。
やがて、梅毒に冒され死の床に着くモル。
享年23歳。

展覧会テーマの“怖い”絵。
不気味、不安、グロテスク、暴力、災害、病気、死…
“怖い”にも様々ありますが、この作品が孕む“怖さ”の正体は何でしょう?

貧困、無知、自堕落、女性の地位の低さ。
感化院を出ても、身を売る以外に日々の糧を得る手段を知らず、更に救いのない道に足を踏み入れる。
搾取され、誰にも顧みられず、ボロ布のようになって死んでいく彼女。

女性が生きていくための選択肢の少なさ、食べていくための手段として選んだ仕事で死の病に罹患する。
モルのような女性は他にも数多くいたでしょう。
ジョージ・フレデリック・ワッツの『発見された溺死者』にも、その影を見て取ることができます。
逃げ場のない不幸の連鎖。
これこそが“恐怖”です。

最も弱き者に最大の犠牲を強いた当時の社会情勢を切り取った『娼婦一代記』。
彼女がどんな思いで世を去ったのか、やりきれなく、重苦しい気持ちになる一枚でした。

実は、この作品を観始めた時点で閉館20分前。
まだ展覧会の目玉『レディ・ジェーン・グレイの処刑』に辿り着いていません。
申し訳ないけど、このコーナーは飛ばして先に進みたいなぁ…なんて思っていたのですが、銅版画好きの連れ合いにその気配なし。
諦めて(?)一緒に並んだのですが、これが大正解!
観て良かった!
この作品が一番心に残ったのです。
連れ合いに感謝しなければ…

閉館時間を過ぎ、出口へ向かいながら横目で観た『レディ・ジェーン・グレイの処刑』。
目隠しをされ、自らの首を据える台へ伸ばされた左手の反対側。
不安そうに、何かすがれるものを探すように、宙へ浮かされた右手。
まだあどけないような肉付き、頼りなく、冷たく、心細げなその手をぎゅっと握りしめたくなるような気持ちに襲われました。

展覧会メインビジュアルに添えられた「どうして。」(画像参照)
秀逸なキャッチコピーです。

たった9日間の在位。
陰謀によって、わずか16歳で処刑されたジェーン。
どうして。
彼女が何をしたというのか。
どうして。

会場の外の壁に並べられたパネルで作品の背景が説明されています。
ジェーンの夫で、別々にロンドン塔に囚えられたギルフォード・ダドリー。
彼が牢獄の壁に刻んだ「JANE」の文字に、ふたりの愛と無念を感じました。
こちらも是非、お見逃しなく。

もうひとつだけ。
19世紀末ロンドンを震撼させた連続猟奇殺人の“切り裂きジャック”。
未だ未解決の事件ですが、犯人と目された人物は大勢います。
最も有力な容疑者のひとり、画家のウォルター・リチャード・シッカート。
彼が描いた『切り裂きジャックの寝室』も展示されています。
先入観を持って観るせいか、なんとも陰鬱で閉塞的。
禍々しい空気が画面から漂ってくるようです。

余談ですが、切り裂きジャック事件に新説を上げたこちらの本、お勧めです。
島田荘司著/切り裂きジャック・百年の孤独/文春文庫

100年の時を経て、「切り裂きジャック事件」がついに解かれる
1988年、西ベルリンで起きた謎の連続殺人。5人の娼婦たちは頚動脈を掻き切られ、腹部を裂かれ、内臓を引き出されて惨殺された。19世紀末のロンドンを恐怖の底に陥れた“切り裂きジャック”が、100年後のベルリンに甦ったのか? 世界犯罪史上最大の謎「切り裂きジャック事件」を完全に解き明かした、本格ミステリー不朽の傑作。[文藝春秋公式サイトより抜粋]


お時間に余裕のある方は音声ガイドをお使いになった方がいいかもしれません(閉館が迫っていたので私は借りませんでしたが)。
そのまま観ても面白い展示ですが、歴史背景や構図やモチーフに関して説明を聴きながらご覧になれば、より深く楽しめると思います。

○怖い絵展
会場/東京会場:上野の森美術館
会期/2017年10月7日(土)~12月17日(日) ※無休
開館時間/10:00~17:00 ※11月16日(木)以降、曜日に関わらず毎日9:00~20:00

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『フィンランド独立100周年記念 フィンランド・デザイン展』に行って来ました!

滑り込みで、府中市美術館の『フィンランド・デザイン展』に行って来ました。
観てよかった!
小規模ながら充実した内容、大満足の展示でした。
img-20171021_3.jpg
フィンランド独立100周年を記念して開催された本展覧会。
独立以前の装飾芸術から現在に至るまでのフィンランド・デザインが紹介されます。

マリメッコ・アラビア・イッタラ、そしてムーミン。
日本でも広く親しまれているデザインの数々。

そして、北欧と聞いて思い浮かぶのは優れた家具・インテリア・建築。
美しいプロダクトデザインの宝庫です。
アルヴァ・アアルト、カイ・フランク、イルマリ・タピオヴァーラらの仕事に触れるコーナーでは、時間を忘れて見入ってしまいました。

『用の美』『機能美』という言葉がありますが、フィンランドのデザインはまさにそれ。

実用的で、美しい。
機能的で、美しい。
心地よくて、美しい。

座ってみたいと思わせる椅子、身に着けたいと思うファブリック、使ってみたいと思わせる食器、そばに置いていつも眺めたいと思うオブジェ。

使いやすく工夫されたもの、無駄な装飾を省いたもの。
しかし、あまりに削ぎ落としすぎては味気ない。
あくまでも、明るく、楽しく、心地よいデザイン。

また、森や湖に囲まれたフィンランドは、デザインと自然の融和が日本人の感覚によく合うように思います。
水や氷、木々のぬくもり、澄んだ空気を呼吸するように、無理なく体にフィットするような感じがするのです。
img-20171021_1.jpg
最も心惹かれたのは、1900年パリで開かれた万国博覧会のフィンランド館の映像。
わずかに残る白黒写真から現代の技術でCGに起こし、当時の姿を鮮やかに甦らせたのです。

白夜や氷河や森林を思わせる、ホワイトとダークブラウンの建物。
すっきりと素朴で、しかし、どこか軽やかな意匠。
そこかしこに動物たちのシルエットが顔を覗かせます。
当時の万博会場を訪れたような気分。

フィンランドの独立は、それからすぐの1917年。
西はスウェーデン、北はノルウェー、東はロシアに囲まれ、特に欧州とロシアをつなぐ入口とも言える位置関係から、しばしば他国の干渉を受けたフィンランド。

アール・ヌーヴォーを代表する画家、アルフォンス・ミュシャがボスニア・ヘルツェゴビナ館の装飾を手がけたのも、この万博でした。
時を同じくして起きた、スラヴ民族の連帯と統一を目指す汎スラヴ運動。
ミュシャは万博のための取材を続ける中で、自らのルーツであるスラヴ民族と、その抑圧された歴史について知ることになるのです。
その後、16年の時をかけて描かれた大作『スラヴ叙事詩』の構想が生まれたのは、この時です。

フィン人、そしてスラヴの人々。
彼らが民族のアイデンティティに目覚めるのに、デザインの力が一役買った。
そんな勢いを感じられるパリ万博フィンランド館の映像でした。

アクセシビリティと美が完璧に融和したデザイン。
とても勉強になり、心地よい刺激を受けられた展示でした。
(ついでに物欲も大いに刺激されました!エーロ・アールニオのボールチェアが欲しいー!座ったが最後、立ち上がれなくなりそうだけど…)

↓ロビーに置かれた巨大ムーミンランプ(1mくらい?)
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○フィンランド独立100周年記念 フィンランド・デザイン展 100th Anniversary of Finland’s Independence Finnish Design2017
会期/2017年9月9日(土)~10月22日(日) ※月曜日休館
時間/10:00~17:00
会場/府中市美術館
※京王パスポートカードの提示で団体料金が適用されました。
※福岡市博物館・愛知県美術館・福井市美術館・宮城県美術館を巡回。詳細は公式サイトをご覧ください。

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したたかに強い女たちと小ネタと感想まとめ│神々の土地

『神々の土地』は、したたかに強い女たちの物語でもあります。
しなやかに強い、イリナ(伶美うらら)。
強さが目覚めた、オリガ(星風まどか)。

溢れる生命力、抜け目ない逞しさの筆頭は、皇太后マリア(寿つかさ)、そしてフェリックスの母ジナイーダ(純矢ちとせ)。
革命の手を逃れて、ピンシャン生き延びるしぶとさ、胸のすくような女傑っぷりに拍手喝采。
新大陸のシーンでは、ラスプーチンもびっくりの不死身っぷりに、思わず「生きてたの!?」と叫びそうでした。

お気に入りは、ヘビースモーカーのマリアが、オリガに喫煙を咎められ、自分で持ってきた婚約祝いの鉢植えで煙草をねじ消すシーン。
すっしーさん(寿)の喰えない婆さんっぷりが最高!

せーこちゃん(純矢)も魅力的。
十分脂っ気のある現役感溢れる女、熟女のエグみを出せる娘役さんは貴重です。
三拍子揃って美しく、頼もしいせーこちゃんを見ると、星組にいらした洲悠花さんを思い出しますね。

* * *

無自覚な子供の高慢さの描き方が秀逸。
酒場のギター弾きミーチャに対する皇太子アレクセイの態度。
その諌め方にドミトリーの人柄が、アレクセイの振る舞いに家庭環境が浮かび上がる。
宝塚の子役と言えば、甲高い声で喋る、首を傾げたぶりっこ(求められる子供らしい子供らしさ)を描く作家もいますが、そうではないところに爽快さを覚えました。

上田先生は、観客に印象づけたい台詞は反復させるのが癖なのでしょうか。
「ロシアの香り」と「美しいものを見ることは価値がある」。
他にもあったかな?

大きな声では言えませんが、ラスプーチンって、ドミトリーとイリナのキューピッドではありませんか?
ラスプーチンが空気を読んで黙ってたら(そんなのラスプーチンじゃない)、彼らは結ばれなかったのではないかと…

「ラスト2場面は不要では?」と以前書きましたが、両手を上下させながら舞台を高速で飛び跳ねつつ横切るラスプーチンと聖痴愚たちの姿はお気に入り。
シュールな光景ですが、なんだか妙に楽しそうで微笑ましいのです。

レヴューの『クラシカル ビジュー』に、真風(涼帆)君を中心とした『キャッツ・アイ』のシーンがある、と小耳に挟んだ私。
脳裏に浮かんだのは、紫のレオタード、腰に黄色のスカーフを巻いた真風君。
ロングヘアのウィッグをパッと脱ぎ捨てたら、カッコいい泥棒紳士が現れるのかなー?と。
私の考え過ぎでしたね…

* * *

『神々の土地』作中で効果的な小道具として使われるイコン。
都内では、御茶ノ水の東京復活大聖堂教会(ニコライ堂)で観ることができますね。
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正教伝道のためロシアから日本にいらした聖ニコライが最初に訪れた函館を始め、各地に60あまりの聖堂があるそうです。

こちらは、静岡県伊豆市の修善寺ハリストス正教会・顕栄聖堂
聖ニコライのご病気の快復を願って建てられたそうです。
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(ニコライ堂は5年前、修善寺は昨年末の画像フォルダから引っ張り出しましたが、まさかこんな風にご紹介できる日が来るとは!)

どこか素朴で、静謐な美しさに満ちた正教会。
機会がありましたら、皆さまも是非一度お運びくださいませ。

* * *

ニコライ二世(松風輝)と、皇后アレクサンドラ(凛城きら)の間には、長女オリガ(星風まどか)を筆頭に5人の子どもがいました。
しかし、劇中に登場したのは次女タチアナ(遥羽らら)と、長男アレクセイ(花菱りず)のみ。
残るふたりの娘、マリアとアナスタシアの姿はありません。

全員銃殺され、途絶えたとされるロマノフ最後の一家ですが、四女アナスタシアだけは生き残ったという説はご存知でしょうか?
アンナ・アンダーソンという女性が「自分は皇女アナスタシアである」と名乗りを上げたのです。
ロシア革命を描いた、池田理代子さんの漫画『オルフェウスの窓』でも、このエピソードに触れられていました。

後年、これは事実ではないと結論付けられたようですが、彼女を取り上げた物語でちょっと面白いものがありますので、ご紹介いたします。
島田荘司氏の『ロシア幽霊軍艦事件』(角川文庫/新潮文庫版も有り)です。

【湖から一夜で消えた軍艦。秘されたロマノフ朝の謎。】
箱根、富士屋ホテルに飾られていた一枚の写真。そこには1919年夏に突如芦ノ湖に現れた帝政ロシアの軍艦が写っていた。四方を山に囲まれた軍艦はしかし、一夜にして姿を消す。巨大軍艦はいかにして“密室”から脱したのか。その消失の裏にはロマノフ王朝最後の皇女・アナスタシアと日本を巡る壮大な謎が隠されていた―。[新潮社版解説より抜粋]


ミステリ仕立てのフィクションですが、なかなか説得力もあり、ロマンチックなストーリーに仕上がっています。

東京は今朝から一段と冷え込みが厳しくなってまいりましたが、明日はお天気に恵まれるようです。
晴れやかな千秋楽となりますように。

○『神々の土地』関連記事はこちら↓
ある朝夏まなとファンの話│神々の土地
美しいものを見ることは価値がある-麗しの伶美うらら│神々の土地
上田久美子作品、ミューズたちの“声”―イリナという女│神々の土地
ラスプーチンが動けば、物語も動く―愛月ひかるが果たした役割とは│神々の土地
美しき灰色の世界に灯る光―朝夏まなとの“愛(かな)しみ”│神々の土地

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美しき灰色の世界に灯る光―朝夏まなとの“愛(かな)しみ”│神々の土地

長くヅカ離れしていた私。
なつめさん(大浦みずき)時代以来、実に20年ぶりとなった花組の舞台は、蘭寿(とむ)さん率いる『復活―恋が終わり、愛が残った―』でした。

主人公ネフリュードフ公爵の旧友セレーニン検事を演じた“すらりと端正な男役さん”。
それが、まぁ様(朝夏まなと)の第一印象。

直後に異動された宙組での一作め『銀河英雄伝説@TAKARAZUKA』のキルヒアイスが素晴らしく、そこから順調にトップスターに登られたお披露目公演『TOP HAT』のジェリーは、今でも一番好きなお役です。

軽やかに明るく、洒脱。
“誰からも愛される”という言葉がぴったりな持ち味の男役さん。
根底にあるのは、誠実さ。
そして、紳士的な物腰。

『王家に捧ぐ歌』で見せた熱情も忘れがたいですね。
男役集大成となったドミトリーは、まぁ様の魅力がすべて詰まった男性像であるように思います。

抜けるような明るさは封印されていますが、それでも人を惹きつけずにいられないチャーミングさは健在。
酒場の場面、上着を肩に引っ掛け、真っ白なシャツの襟元をくつろげる姿に漂う色香。

余談ですが、このシーンでドミトリーの白いシャツと、オリガの白いブラウスが放つ色彩効果は素晴らしいですね。
くすんで薄汚れた土色の群れに、輝くような白がふたつ。
彼らは民衆の中では“異質”なのです。

もしもドミトリーとオリガがあのまま結婚していたら、どうなっていたでしょうか?
イリナへの想いは胸の奥深くへ沈め、オリガと温かで穏やかな優しさに満ちた家庭を築いたのではないかと思います。

が、しかし、絶妙なタイミングで“魔”がやってくるのです。
怪僧ラスプーチンの姿を借りて。

「お前はオリガを愛してはいない。お前が本当に愛しているのは誰なんだ?」

これはドミトリーの自問でもあったでしょう。
見ないふりをして押し殺していた胸のくすぶりを、公衆の面前で、あろうことか女とその家族の前で暴露される。

そして、もうひとりの女。
息も絶え絶えなイリナが転がり込んできた時、ドミトリーの愛の天秤は正しく傾いたのでしょう。

* * *

“愛しい”と書いて“かなしい”とも読みます。
ドミトリーの心は、イリナの哀しみや苦しみに、よく共鳴します。

「僕はあなたが可哀想だった」
この言葉に、すべてが込められているように感じます。

相手の痛みが、自分の胸をえぐる痛みとなる。
身にしみるほどの切なさが、ドミトリーの“愛”なのです。

本心を偽れない。
腹をくくったはずなのに、揺らいでしまう。迷ってしまう。

皇后の怒りを買い、遠く離れたペルシャへ向かう列車から飛び降りたドミトリー。
軍の服務規程を犯してまで駆け抜けた灰色の平原。

雷鳴の中、彼は何を目指して、ひた走ったのでしょうか。
かつて、愛しい人と暮らした家の窓辺から洩れる温かな光でしょうか。
それはイリナ、その人のぬくもりに他なりません。

生徒さんのご卒業にあたり描かれる役は、その方が培ってこられたもの、宝塚で歩んできた道のりの結晶のように思われます。
過去のトップスターさんの卒業公演を思い返せば、皆一様に“その方らしい”足跡を花園に残していかれました。

男の弱さやもろさを、こんなにも美しく“男役”として昇華できる。
まぁ様の“ドミトリー・パブロヴィチ・ロマノフ”は宝塚男役の型として、ひとつの完成を見たように思います。

まぁ様が蒔いた種が、芽吹き、蕾を膨らませる。
そんな春の景色は、私たちのすぐ目の前に広がっています。
季節はこれから冬に向かいますが、まぁ様の側で共に演じ、歌い、踊り、学んだ生徒さんたち。
彼女らが咲かせる花を楽しみに、また劇場を訪れたいと思います。

○『神々の土地』関連記事はこちら↓
ある朝夏まなとファンの話│神々の土地
美しいものを見ることは価値がある-麗しの伶美うらら│神々の土地
上田久美子作品、ミューズたちの“声”―イリナという女│神々の土地
ラスプーチンが動けば、物語も動く―愛月ひかるが果たした役割とは│神々の土地

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ラスプーチンが動けば、物語も動く―愛月ひかるが果たした役割とは│神々の土地

『神々の土地』の第一印象は“観る者に緊張を強いる舞台”でした。

玉虫色に輝く小さなタイルを緊密に敷き詰めたようなセリフの応酬。
一片たりとも聴き逃してはならじ。
水を打ったように静まり返る客席。
劇場を覆う、ひりひりした緊張感は上田作品ならでは。

ロシア革命に呑まれる人々とロマノフの終焉を描く物語。
紗幕に映し出される吹雪。
陰鬱な開演アナウンスが、これから始まる物語の行く末を暗示します。

* * *

一番印象深かったシーンは、ラスプーチン(愛月ひかる)の食べかけを、奪い合うようにむさぼる女たち。
聖痴愚のロフチナ夫人(花音舞)と、ゴロヴィナ嬢(瀬戸花まり)です。
競り負けた女の悔しそうな顔。

他人の唾液にまみれた食べ物を喜んで食う。
一見、浅ましいようにも思えますが、それはラスプーチンとの一体化を願う行為に他なりません。
これは、単なる狂信・盲信ゆえの姿と片付けてよいのでしょうか?

私には、聖痴愚たちの頭上から降り注ぐ光が見えました。
不思議な清らかさに満ちた、崇高な行為にすら思えたのです。
無条件の愛。
その凄まじさを、一瞬で浮かび上がらせる描写に息を呑みました。

上田久美子先生は時に、目を背けたくなるような人間の浅ましさを、素知らぬ顔でねじ込んできますね。
『金色の砂漠』で、王女タルハーミネの寝室に潜み、初夜の睦言の一部始終を盗み聞く教師の姿には戦慄を覚えました。

しかし、この場合は違います。
同じような浅ましく下劣な行為を描いても、受ける印象が異なるのはなぜなのか?
ラスプーチンと聖痴愚のふたりの関係に聖なるものを感じられたのはなぜでしょう?

ラスプーチンは、主人公ドミトリー(朝夏まなと)らに対抗する存在として描かれますが、彼は決して“悪”ではありません。
少なくとも、本作においてはそのような描かれ方はしていません。
ドミトリーを含む、皇太后マリア(寿つかさ)一派の立場からすれば、排除すべき対象ですが、皇后アレクサンドラ(凛城きら)から見れば“救世主”。
不治の病を抱える皇太子を癒やし、異国で孤立していた彼女の心の拠り所となったラスプーチン。

ユロージヴァヤ(聖痴愚)とは、俗世の姿を捨て、痴愚を装う(または痴愚である)ことにより、神の真理に近づこうとする者たちを指しますが、彼女らをそこまで駆り立てたのものは何だったのか?
ラスプーチンの中に“聖なるもの”を見出したからではなかったのか?

* * *

ラスプーチンを演じた愛ちゃん(愛月ひかる)には圧倒されました。
『神々の土地』の登場人物たちで、ラスプーチンの影響を受けてない者はいません。
表立って関わりのない人物でも、必ず彼の指先が紡ぎ出す糸に絡め取られ、翻弄されていく。

物語のすべてを、影に日向に支配する。
なんて面白い役なのでしょう。
ラスプーチンの不気味な影に、観客も、同じ板に乗る役者さえも、怯え、呑み込まれていくのです。

中途半端に演じては、狂うはずの運命も狂いません。
“怪物”とまで呼ばれた半人半聖の存在、ラスプーチン。
この役の機能不全は、作品の失敗を意味します。
愛ちゃんはよく期待に応えたと思います。

ラスプーチン登場のシーン。
オケボックスから、ぬるりと銀橋に這い上がる。
素晴らしく、気持ちの悪い演出でした。
有無を言わさず、劇場中の空気を震え上がらせるのです。
(初日のSS席のお客様はよく悲鳴を上げなかったと思います)

すすり込むような台詞回し、雲を踏むようなおぼつかない歩み。
他者との距離の近さも不気味さを増します。
薄気味悪く、薄汚く、胡散臭い。
しかし、なぜだか目を離せない。
それはなぜか?
彼は何者なのか?

物語に関係するところで言えば、ドミトリーとイリナ、それぞれの心を占めるのは本当は誰なのか?
その場では“不都合な真実”の言葉を吐いて、人々を惑わせるのです。

圧巻は“死”のシーン。
史実でも、毒物を飲まされた上に、斬られても、撃たれても、絶命しなかったそうですが、その底恐ろしさが舞台でも十分に表現されています。

何をしても死なない。
これは、恐怖です。
不死身のゾンビのように何度でも何度でも立ち上がる男。

なぜ死なない?
もしや、神の加護は、我々ではなく、ラスプーチンにあるのか?
ドミトリーらの焦りと狼狽は並大抵ではなかったでしょう。

凍りついたように動きを止める将校たちの視線はただ一点、なりふり構わずラスプーチンを叩きのめすドミトリーに注がれます。
叩き潰しても叩き潰しても、ぬらぬらと蠢きを止めないナメクジのようなラスプーチン。
ようやく命尽きてからも、いつまた、むっくりと体を起こすかもしれない。
そんな不安にかられました。
その得体の知れなさに、観客もドミトリーの恐怖を共有するのです。

精根尽き果てたように、一歩また一歩、かつて栄光と共に歩んだ赤い階段を踏みしめるドミトリー。
彼の胸に去来するのは何だったのか。
“暗殺者”の汚名を着ても、確かに自分はロマノフにとっての正義を行った、彼の背中にはそう書いてありました。

* * *

しかし、ラスプーチンの死は、単に肉体の死でしかありませんでした。
彼の肉体ひとつが消滅したところで、革命のうねりは止められるものではなかったのです。
ドミトリーらの動きは、決壊寸前だったロマノフ王朝という器に、最後の一滴を加え、溢れさせたに過ぎません。

暗殺の実行者であったことにより、革命の渦から逃れて生き長らえられたのは、ドミトリーにとって歴史の皮肉としか言いようがありませんが…
いずれにせよ、たいへんな強運の持ち主で、ドラマティックな運命を辿った人物でした。

聖なるものと俗なるものを身の内に同居させた男、ラスプーチン。
愛ちゃんのキャリアにまたひとつ新しい宝物が加わりましたね。
素晴らしいお芝居を、ありがとうございました。

○『神々の土地』関連記事はこちら↓
ある朝夏まなとファンの話│神々の土地
美しいものを見ることは価値がある-麗しの伶美うらら│神々の土地
上田久美子作品、ミューズたちの“声”―イリナという女│神々の土地

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恐るべし、世紀の色男アラミス。またひとり、女性を虜にした│All for One

週末はヅカ友さんとヅカランチ。
メンバーは、私と、先日『All for One』をご一緒したHさん、そして共通の友人のWさん。

宝塚以外にも共通点が多い3人。
話題は尽きず、素敵なカフェへ移動。
そこでも喋りに喋り、あっという間に夕暮れ!
楽しい時間が過ぎるのは早いものです。

先日のご観劇で、すっかりみやさん(美弥るりか)ファンになられたHさん。
実は以前にも別のご友人のお誘いで一度月組をご覧になられ、その時から注目してらしたそう。
どの演目か伺ったら、なんと『1789』!

アルトワ伯→アラミス!!

これは、もはや運命では!?

みやさんの“男役芸”に惚れ込まれたそうです。

醸し出す雰囲気や佇まい、長年の積み重ねによる男役の華について話してくださいました。
深く宝塚を楽しんでこられたHさんならではの視点で、頷けることばかり。
勉強になります。

個人的には、みやさんは役者としても勿論ですが、おひとりの女性としても、こだわりのない温かなお人柄が魅力だと感じます。
対人折衝能力が非常に高く、組子たちから愛されているのが伝わってきます。
月組全体が上昇気流に乗っているかのように、前向きで充実しているのも、みやさんの存在が大きいと思いますね。
(連れ合いは常々「みやちゃんが月組に新しい文化を持ち込んだんだよ」と申しております)

ちなみに、Hさん曰く、珠様(珠城りょう)は「明るく元気で、のびのびしている」とのことでした。
(前作までずーっと眉間にシワ寄せ系のお役ばかりだったんですけどねー笑)

ヅカトークの合間に、ウィーン帰りのWさんのお土産話。
王宮宝物館に展示されている代々の神聖ローマ皇帝の冠やローブの写真を目にした私たち。
口々に「キラキラが足りない!」
宝塚のお衣装と比べちゃいけませんね…

ウィーンと言えば、みんな大好き『エリザベート』。
それぞれ一番お気に入りのキャスティングで盛り上がりました。
Wさんと私のベストは、トータルバランスの良さで初演雪組。
Hさんが迷ってる間に「記念すべき10作目は誰トートを観たいか?」で、また盛り上がり…

喧々諤々。
結論は出ず。
100人のファンがいれば100通りの理想のトート像がありますものね。

ちなみに私は珠城りょうさんのファンですが、珠トートにはあまり惹かれません。
珠様はフランツ・ヨーゼフがいいなぁ。
愛する妻とすれ違い続ける虚しさ、観てみたいですね。
『夜のボート』から『最終答弁』で珠城節を炸裂させてくださるんじゃないかと期待。

次はHさんと『カンパニー/BADDY』をご一緒できるといいなぁー。

○関連記事はこちら↓
長くヅカ離れしてた方と『All for One』観劇!お気に入りはアラミス様ですって!

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上野の展覧会帰りにいかが?ショコラティエ・イナムラショウゾウの絶品チョコレートケーキ

日に日に秋も深まってまいりました。
高く澄んだ青空に色鮮やかな紅葉のコントラスト。
大好きな季節です。

皆さまは芸術の秋でしょうか?読書の秋でしょうか?それとも食欲の秋?
何をするにも心地よい気候ですね。
私は、先週の連休初日に上野の森美術館で開催中の『怖い絵』展へ向かいました。

ところが…まさかの210分待ち!

のんびりランチしてる場合じゃなかったです。
さすがに3時間半並ぶのは大変なので、日を改めることにしました。
(『怖い絵』公式Twitterの情報をこまめにチェックすれば済む話なのですが…週末はあまり時間を追いたくないのです)

金・土・祝は9:00から20:00まで開館しているので、夕方以降が狙い目かな?
月・火・水・木は10:00~17:00まで、日曜は9:00~18:00と、日によって開館時間が異なりますので、お気をつけくださいね。

大好きな国立科学博物館に寄り道。
お天気の日は地球館の屋上庭園(ハーブガーデン)もお勧め。
上野公園のど真ん中とは思えない静けさを味わえますよ。

お気に入りの常設展示だけをサクッと観て、次なる目的地『CHOCOLATIER INAMURA SHOZO ショコラティエ イナムラショウゾウ』へ。
本店(PÂTISSIER INAMURA SHOZO パティシエ イナムラ ショウゾウ)のケーキはたまに頂きますが、ショコラティエは初めて。
ブーランジェの友人(パティシエ歴有り)の勧めで、訪れてみました。

かなりの人が並んでいましたが、せっかくなので列の後ろにつきました。
ラストオーダーは17:30とのこと。
席数はそれほど多くなく、皆さまゆったりケーキを楽しまれますので、時間に余裕を持って伺うのが良さそう。
私たちは16:30くらいに並び始め、席に着いたのは17:10頃でした。
状況によると思いますが、ご参考までに。

並ぶ間も、どれを頂こうか楽しく迷えますので、あっという間。
悩んだ末、私は『ドームショコラ』、連れ合いは『涙のしずく』をチョイス。

これは『ドームショコラ』。
img-20171103_3.jpg
ひんやり滑らか、するりと舌で溶けるチョコレート。
驚くのは、その絶妙な温度管理。
冷たいチョコレートの層の下に、ふんわり軽いチョコレートムース、更にその下にきゅっと冷たいヘーゼルナッツクリームが閉じ込められているのです。
時折顔を覗かせる、ほんのり甘酸っぱいチェリーがアクセント。
食べ終わるのがもったいないほど素晴らしいハーモニーでした。

アールグレイが香る『涙のしずく』は鮮烈。
img-20171103_2.jpg
鼻腔に抜けるベルガモットのほろ苦さ、レモンの爽やかさが、ガナッシュやチョコレートムースの甘みと相性抜群。
一切無駄の無い、キリリと引き締まった味わい。
紅茶や柑橘の香りがお好きな方にはたまらないと思います。

ふたつとも、また食べてみたいと思わせるケーキでした。
心に残る味ってこういうことかしら?

甘くとろけるチョコレートで、展覧会巡りの疲れも吹き飛びます。
上野帰りのお散歩がてら、ちょっと足を伸ばしてみてはいかがでしょうか?

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上田久美子作品、ミューズたちの“声”―イリナという女│神々の土地

しばしば花に喩えられることの多い、宝塚の娘役さん。
清らかな白百合、明るいひまわり、控えめなかすみ草etc.

伶美うららを思わせるのは、どんな花でしょう?
私の印象は、ビロードのように艶やかな花弁を持つ、大輪の紅い薔薇。

一番好きな『SANCTUARY』のマルゴ役のイメージです。
口当たりのよいソフトカクテルではなく、どっしりしたフルボディの豊かさ。
ふわふわ儚げなレースではなく、持ち重りのするベルベットの滑らかさ。

『うたかたの恋』のステファニーも好き。
ただ居るだけで豪華、というのは得難い存在です。

そんな重厚なイメージを打ち消したのが『神々の土地』のイリナ。
汚れなく澄みきった白い肌の下に、熱い心をひた隠す女。
物語のほぼ終盤まで、その愛の在り処を見せません。

囁くような声で、ぽつりぽつりと惜しむように言葉を洩らす女。
上田久美子先生の紡ぐ物語に特有の女性像です。
以前書いた『金色の砂漠』の感想で、ヒロインの声について触れました。
こちらに詳しいので、抜粋します。

私、上田先生の作品によく登場する、密やかな声を発するヒロインが好きなのです。
か細く、ひっそりと、聴く者の脳髄に染み透るような声。
周囲の喧騒から浮かび上がる、ある種の異質を感じさせるような。

『月雲の皇子』の衣通姫や、『星逢一夜』の泉(中年期)ら、心を閉ざし、人生に対して諦めに似た気持ちを抱いている女が洩らす声です。
とは言え、彼女らは投げやりに生きているわけではありません。
心の奥底に秘めた深い情念が、いつしか溢れ出す時を待っているのです。

その感情の発露が、上田作品の見どころのひとつだと思います。
クライマックスでどれだけのものをさらけ出せるか?
上田作品がヒロインに要求するものは大きいですが、観客が得られる満足もそれに比例して大きいですね。


「教科書なんてクソ食らえよ!」
イリナのすべてはこの台詞に集約しているように思います。
ドミトリーを受け容れた夜、自分を縛るもろもろから彼女の心は解き放たれたのでしょう。

もうひとつ、言わせていただければ、ここまで一切イリナに歌わせなかったのがいいですね。
歌は胸の内の吐露。
歌わせれば、どうしたって彼女の感情の揺れが観客に伝わってしまいます。

彼女の心はどこにあるの?
この疑問が、イリナというキャラクターを神秘のドレスに包み、ドミトリーと共に彼女の奥深くへ分け入ってみたいと思わせるのです。
歌を与えないことにより、イリナに過剰な体温を与えない作劇のテクニックには唸りました。

沈静からの激情。
そして、互いが為すべきことを為すために袂を分かつ。
爽快な愛の帰結でした。

それだけに、取ってつけたようなラスト2場面がやや残念。
作者の意図は分かります。
ロシアの大地を形作る者たちの祝祭、そしてドミトリーとイリナの魂の再会。

しかしながら、客席で「皆まで言うな!」と叫びたくなったのは否めません。
劇中で10のうちの8、9までは語っているではありませんか。
親切にもすべての答えを用意する必要はありますか?

わずかな余韻。
残された1ないし2を想像することが、観客に与えられた楽しみです。
もう少し、観る者のイマジネーションを信頼して欲しい、というのが正直な気持ちです。

亡命を拒否し、シベリアで果てたイリナ。
若く美しい女性が僻地の牢獄で、いかに過酷な扱いを受けたか、想像に難くありません。
しかし、自分の行く末を十分に理解した上で身を処したことに、ドミトリーへの想いの深さと、歴史の変化に殉ずる意志を見て取ることができるのです。

最後はドミトリーの独白で、幕。
私の好みではこちらの方が、美しかった恋人たちの肖像がより強く心に刻み込まれるのではないかと思います。
影ソロはとても良かったです(桜木みなとさんだと教えていただきました)。

○『神々の土地』関連記事はこちら↓
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美しいものを見ることは価値がある-麗しの伶美うらら│神々の土地

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美しいものを見ることは価値がある-麗しの伶美うらら│神々の土地

“美しいものを見ることは価値がある”

『神々の土地』で繰り返される印象的な台詞。
美しいもの=伶美うらら演じる大公妃イリナ。

彼女が居なければ、この舞台は成立しなかったと言っても過言ではないでしょう。

ヒロインが“文句なく美しい”ことで成り立つ舞台。
冷静に考えると凄い話ですね。

女性の美醜の評価は、時代性や宗教観、個人の好み等の条件により左右されます。
しかし、大多数が認める圧倒的な“美”は、確かにその瞬間、存在するのです。

“美”とは何か?
難しい問題ですが、この場合の“美”は端的に言って“心地よい”ことであると思います。

初めて、うららちゃん(伶美)を至近距離で観た時。
銀橋の上から、そっと微笑みかけられた瞬間。
舞台の喧騒も、華やかな衣裳も、周囲にきらめく何もかもが消え、ただただ、その優しい眼差しばかりが私の視界を埋め尽くしたのです。
昔の人は“魂が憧れる”と言いました。
魂が肉体を抜け出て、ふらふらさまよう、まさにそんな感じ。

“まばゆいばかりに美しい”という言葉がありますが、“美”は“光”なのかもしれません。
温かく、きらきらした何かが降り注ぐような感覚。

人を幸福にするものが“美”だとすれば、間違いなくうららちゃんは“美しい”のでしょう。
それはひとつの才能であります。
しかし、不思議とご本人の印象は控えめ。
うららちゃん自身は意外と、自分の“美”に対して無頓着なのかもしれません。
(宝塚の生徒として、美しく在るよう努力することとは別に)

己の“美”に驕らず、謙虚。
それこそ、彼女の美しさが観る者の心へ真っ直ぐに届く所以でしょう。

ロシア語通訳者の米原万里さんの対談集(言葉を育てる 米原万里対談集/ちくま文庫)に、ロシアには『才能は神様からもらったもので個人のものではないという考え方』があると書かれています。
いわゆる『天賦の才能』ですね。
それでいくと、“美”という才能も神からの授かりものである、と言えます。

自分の所有物ではないからこそ、慎ましやかでいられる。
うららちゃんの濁りない美しさの秘密を紐解く鍵はここにあるのかもしれません。

* * *

“美しいものを見ることは価値がある”とは面白い台詞ですね。
“美しいものには価値がある”ではなく“それを見ることに価値がある”というのがミソ。

“才能を持っている人と同じ空間に生きていることを純粋に喜び、そのことを祝福するのです”とは米原さんの言葉。
神々しいばかりに美しいうららちゃんの舞台姿に触れる感覚は、まさにこれ。

ジナイーダ・ユスポワ(純矢ちとせ)とフェリックス・ユスポフ(真風涼帆)。
この唯美趣味の母子が象徴するように、作品全体を貫くのは“美は絶対的に尊い”とする価値観。

侵し難い“美”という軸を中心に、物語が回るのです。
“美”という幹から生え出るのは、愛・聖・醜・喜・怒・哀・悲・怖・畏…の枝葉。

しかし、イリナに関して言えば、中の人同様、己の“美”に対する無関心が彼女の性格を形成していると考えて差し支えないように思います。

イリナは単にみめかたちが美しいだけのヒロインではありません。
気高く、慈悲に溢れ、愛に対して誠実なひとりの女性です。

看護師となった彼女の手肌の荒れ。
どきりとするような生々しい描写です。
ドミトリーの心が完全に奪われたのは、この瞬間かもしれません。
“美の器”イリナの内面が、豊かな水に満たされているのを覗き見ることができる場面です。

* * *

話は変わりますが、美に淫するフェリックスをオリガがなじるシーンがありますが、エルミタージュを擁する国の皇女の言葉としては少々頷けない部分がありました。
財産を持った支配階級が文化の保持に務めるのは当然の義務とするフェリックスの弁明には溜飲が下がりましたが、これはオリガの目覚めの発端の一部であったと考えてよいのでしょうか?
ご覧になった方はどう感じられましたでしょうか?

(超余談ですが、せーこちゃん(純矢)を真風君が「ママ」呼びするのは、なんとも言えない淫靡な響きがありますね)

何はともあれ、「麗しの」という枕詞がぴたりとハマる娘役さんは稀です。
ご卒業にあたり、このような当たり役を観ることが叶い、観客としては大きな喜びです。

「うららちゃん、綺麗!綺麗!」だけで記事が埋まってしまいました。
中途半端で申し訳ございませんが、続きは後日。

○『神々の土地』関連記事はこちら↓
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プロフィール

野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
月組/星組比重高めの全組観劇派。
美丈夫タイプの生徒さんが好み。
宝塚歌劇観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。
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