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血と炎と狂気に彩られた『ロミオとジュリエット(ハンガリー版)』感想

いったい何がどうしてこうなった!?
濃い!濃すぎる!
目に映るもの、耳に聞こえるものすべてが過剰なハンガリー版『ロミオとジュリエット(Rómeó és Júlia)』。

曲は同じなのに、演者や演出で印象が180度変わる。
宝塚版とはまるで別物。
ミュージカルって面白いですね~~

血と炎と狂気に彩られたロミジュリ


まず驚いたのが、ベンヴォーリオ(Meszaros Arpad Zsolt)のキャラクター。
え?これがベンヴォーリオ!?
アニメや格闘ゲームの登場人物のような金髪ツンツン頭にワイルドなコスチューム。

ベンヴォーリオに限らず、全体的に過激で感情表現が濃いハンガリー版。
血と炎と狂気に彩られたロミジュリというか…
比喩ではなく、本当に。
文字通り「血にまみれて」「燃えて」「狂って」るんですよね。

エグい、クドい、エロい、グロい。
三拍子どころか四拍子揃ったロミジュリ。

友だちは「北斗の拳みたいなロミジュリ」と言ってましたね。
わかる 笑
世紀末感あるもんね。

マッチョでパワフル。
病みつきになる味わいは嫌いじゃないです。
むしろ好き!

宝塚版をフルーツパフェとすれば、ハンガリー版は火に炙られた肉。

ふわふわなめらかなクリームと色とりどりの甘酸っぱい果物に彩られ、ところどころにビターチョコレートのアクセントが効いた口当たりのよいスイーツ。
血がしたたり、にじみ出す脂でぬらぬら光り、焦げた臭いが鼻をつく獣肉。

やっぱり同じ作品とは思えない 笑
シェイクスピアもびっくりです。

キャストひとことメモ


甘いマスクと歌声のロミオ(Dolhai Attila)。
積極的を通り越して肉食系なジュリエット(Szinetar Dora)。

デヴィッド・ボウイ似でハンサムなマーキューシオ(Bereczki Zoltan)。
どちらかと言えば彼の方がベンヴォーリオっぽいような…
しかし、このマーキューシオはロミオにのしかかってキスしたり、なかなかやんちゃ。

全体的にとんがったキャラクターの中でもピカイチの危険人物ティボルト(Szabó P. Szilveszter)。
魔王を思わせる高貴でダークな美貌。
台詞と曲が一体化した歌いっぷりが素晴らしい。

Németh Attilaのヴェローナ大公はロックシンガーのようなカッコよさ。
咆哮する「Verona」は幕開きにふさわしい迫力。

他国版をほとんど観てない私にも、ハンガリー版が異端であることは薄々分かります。
一口にロミジュリと言っても色々あるなーと。
ベースさえしっかりしていれば、いかようにもアレンジできる作品の懐の深さを思い知りました。

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上川隆也の「包容力」│『魔界転生』明治座感想

日本テレビ開局65年記念舞台『魔界転生』を観てきました。
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ぶっ飛んだストーリー!派手なアクション!ダイナミックな演出!笑いあり涙ありのノン・ストップ超大娯楽作品!
200分の長丁場にもかかわらず、中だるみせず一気にラストまで持っていかれました。
面白かった!
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「魔界転生」という死者再生の術で蘇った天草四郎(溝端淳平)率いる魔界衆。
幕府への復讐を企む彼らを阻止しようと動く剣豪・柳生十兵衛(上川隆也)一派。
妖魔VS人間の血みどろの戦いの決着やいかに…?

あらすじだけ抜き出すとキワモノっぽいですが、激しいバトルと人間ドラマのバランスが絶妙で、演劇ならではの興奮を味わうことができました。

今年はなぜか天草四郎づいていて、先日も宝塚花組の『MESSIAH(メサイア) -異聞・天草四郎-』を観たばかり。
ユネスコの世界文化遺産に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の登録が決まった影響でしょうか。

宝塚版の四郎(明日海りお)はハライソにたどり着いて「めでたしめでたし」でしたが、こちらの四郎は一度死んでからが「本番」。
この世にたっぷり恨みを残し、妖魔となって蘇り、大暴れする。
同じモチーフを扱いながら、ここまで趣の異なるストーリーに仕上がるとは。
これがフィクションの面白さ。

「神の子」と祭り上げられた早逝の美少年「天草四郎」。
隠れキリシタンの総大将として若干16歳で散った彼の本当の姿は?本当の想いは?
クリエイターの創作意欲を刺激してやまない「天草四郎」。
そのひとつの答えが『魔界転生』の舞台で見つかりました。

* * *

今回のお目当て、柳生十兵衛役の上川隆也。
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カッコよかったーーー!!!
朗々と響く、太くまろやかで、ハリのある声。
おおらかで温かくて、ちょっと茫洋として。
独特のにじみ出る愛嬌がたまりません。

一番の魅力は「包容力」。
十兵衛は、上川隆也の劇場をまるごと包み込む懐の深さが最大に活きる役でした。

死闘を繰り広げ、命果てようとする四郎を抱きしめ、「3万7千人もの命を預かるのは恐ろしかっただろう。俺の中は空っぽだ。俺が受け止めてやる(俺の中に入ってこい)」と諭すシーン。

これにはぐっときました。
「人間の大きさ」がないと言えない台詞です。
素晴らしい説得力でした。

柳生衆のひとり、戸田五太夫役の丸山敦史もカーテンコールで「上川さんの胸の中で死ねて幸せ。いい匂いがする」と仰ってました。
「男が惚れる男」という感じでしょうか?

父・柳生宗矩役の松平健との立ち回りは迫力満点。

息子への歪んだ想いから魔性に堕ちた宗矩の「人間はタガが外れると…」の台詞は妙に心に残りました。
私自身にも思い当たる節がある言葉だからでしょう。

親子別れの場面は、ぐっと引き込まれました。
黙って立つだけで舞台がキリッと引き締まる松平健の存在は大きかったです。

ラストシーンは桜舞う春。
妖刀を携え、ひとり旅立つ十兵衛。
すべてを飲み込み、悠然と去る大きな背中。
十兵衛に置いてけぼりにされて、ほんの少し寂しいような、しかし、爽やかな幕引きでした。

* * *

最近、宝塚か歌舞伎ばかりで男女が同じ舞台に立つのを観るのは久しぶり。
最後に男女共演を観たのが、2016年の霧矢大夢さんの『マイ・フェア・レディ』以来、2年ぶり。
いろいろな面で新鮮でした。
(宝蔵院胤舜の禁欲とか、荒木又右衛門の立ちションとか…これはすみれコードですね)

以下、思いつくままに。

・松井るみの装置が良かった。
廻り盆に乗った巻き貝状の装置が立体的で、空間が広く感じた。
斜めに回り込む土台が生み出す奥行きと高低差のおかげで、アクションに迫力とスピード感が加わった。
映像とのマッチングも抜群。
松井さんは宝塚の『MESSIAH』でも装置を担当。
こちらは一転、華麗さが勝り、良かった。

・「島原の乱」で原城が落ちる間際、姉のお品(高岡早紀)を長崎に逃がす四郎。
「本当の自分を知る人がひとりでも生きていて欲しい」という言葉を残し。
『MESSIAH』でも南蛮絵師の山田右衛門作(柚香光)がひとり生き残り、後世に四郎らの最期を伝える役割を果たした。
『魔界転生』と『MESSIAH』には共通点が多く、楽しめた。

・天草四郎役の溝端淳平は、悪になりきれず、揺れ動く様がよく出ていた。
現世では触れられなかった肉親の愛を、魔性になってから得られたのは複雑。

・浅野ゆう子と高岡早紀の「ふたりの母の愛」がぶつかり合う芝居には思わず涙。

・北条主税(松田凌)と田宮坊太郎(玉城裕規)の複雑な関係が良かった。
充実したサブストーリーのおかげで3時間20分もあっという間。

・根津甚八役の村井良大はパキッとしたハリのあるいい声。
華があり、いかにも役者らしい役者の芝居を見せた。

・由比正雪役の山口馬木也はクールなヴィジュアルとお笑いキャラのギャップが最高。
サラサラなロングヘアをかき上げ、大仰なアクションで舞台をかき回す。
十兵衛に刀鍛冶の居所を問い詰められるシーンは絶妙な間で笑わせる。
もともと好きな役者だが、さらに好きになってしまった。

・一幕が終わり、「休憩」とデカデカ書かれた幕が下ろされる。
客席後方から上川隆也が現れ「30分!」と叫ぶ。
このためだけにわざわざ出てくるとは贅沢!
休憩時間が残りわずかになると「残りXX秒」と表示される。
このサービスはありがたい。
(1階席 右上段 2列 9番)

○読売テレビ開局60年記念舞台 魔界転生(山田風太郎原作/マキノノゾミ脚本/堤幸彦演出)
・福岡公演 2018年10月6日(土)~28日(日) 博多座
・東京公演 2018年11月3日(土)~27日(火) 明治座
・大阪公演 2018年12月9日(日)~14日(金) 梅田芸術劇場メインホール
公式サイト

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三月大歌舞伎初日を観て来ました│夜の部:於染久松色読販/神田祭/滝の白糸

年下の友人に「歌舞伎を観て来た」と話したら「高尚な趣味ですね」と返されました。
「そんなことない、気安い娯楽よ」と言いかけた私。
続く言葉で腑に落ちました。
「台詞とか難しくないですか?」と。

武家社会などを扱った時代物は難しい台詞も多いですが、江戸時代の庶民の日常を扱う世話物や、近年新たに書かれた新作歌舞伎ならぐっと親しみやすく、現代劇を観る感覚で楽しめます。

しかし、歌舞伎のハードルは決して高いものではありません。
『三月大歌舞伎』の『滝の白糸』は、「難しい」「とっつきにくい」といった歌舞伎に対するマイナスイメージを払拭するのに最適な演目と言えます。

* * *

泉鏡花原作(『義血侠血』)、坂東玉三郎演出『滝の白糸』。

明治初期。越中高岡から石動(いするぎ)に向かう馬車に乗った水芸一座の太夫滝の白糸は、文明開化の誉れ高い馬車が人力車に追い抜かれたので馬丁に文句を言います。すると、馬丁の村越欣弥という青年は白糸を抱いて馬に跨り、人力車を颯爽と追い抜いてみせるのでした。欣弥のことが忘れられない白糸は、金沢の卯辰橋(うたつばし)で再会を果たすと、法律を学びたいという欣弥の話を聞き、学費の仕送りを申し出ます。3年後、白糸は欣弥への仕送りのために太夫元で借りたお金を南京寅吉らに強奪され錯乱してしまい…。
滝の白糸を5度にわたり演じた坂東玉三郎が演出を勤める、歌舞伎座での上演は昭和56(1981)年以来となる泉鏡花の名作にご期待ください。[歌舞伎総合公式サイト:歌舞伎美人より抜粋]


玉三郎と鏡花は縁が深く、『天守物語』や『外科室』の映画化を自ら手がけています。
『外科室』の撮影場所となった小石川植物園を訪れると、つつじの花影の向こうから主演の吉永小百合がふと姿を見せるような、そんな幻想に囚われます。

滝の白糸を演じるのは今回初主演となる中村壱太郎。
彼女が愛する村越欣弥は尾上松也。

恋人のため殺人を犯した滝の白糸。
しかし、彼女は捕まりません。
その罪を、自分の金を奪った南京寅吉らにかぶせるのです。

殺人、そして冤罪。
サスペンス・ドラマを観ているようにハラハラドキドキ。

圧巻は、終盤に繰り広げられる法廷シーンの心理戦!
滝の白糸の援助により判事となった欣弥。
証人台に立つ滝の白糸こと、水島友(とも)。

判事席の片隅。
西日に照らされ、浮かび上がる欣弥の顔。
自らを裁く人々の群れに、愛しい人の姿を認め、思わずよろめく滝の白糸。
「具合が悪いなら椅子を用意させる」との裁判長の申し出に「光がまぶしくて…」と答える彼女。
この演出は見事でした。

愛する人のため、法廷を欺こうとする女。
いとしい男の前で、自らを偽り続けることができるのか?

傾きかけた陽の光。
温かなオレンジ色が、足元から崩折れそうな滝の白糸の絶望をしらじらと照らし出し、ひどく寂しい空間を作り上げていました。

愛と罪のはざまで揺れる心を、背中で語る壱太郎。
法廷シーンで観客に見せるのは後ろ姿のみ。
最もよく感情を表す視線と表情を封じられ、声色と背中だけで演じなくてはならない。
それにより、観客は滝の白糸と同じ視界を共有することができるのです。
すなわち欣弥の座る裁判員席。
自然と私たちの心はヒロインに同調します。

自分のために罪を犯した女を裁く、松也の張り詰めた声。
松也はやはり“舞台”の人ですね。
劇場の屋根にカーンと当たって跳ね返るような力強さ。
ハリのある豊かで明晰な声。
口跡も抜群で聞いていて気持ちいいです。

しかし、法廷では苦しげに絞り出される声に変わります。
愛と正義の板挟みの煩悶が、腹の底から火を噴き、喉元を焼き焦がすよう。

仄暗い舞台に対峙する滝の白糸と欣弥。
それを俯瞰する私。
世界にたった三人だけ取り残されたような錯覚を覚えます。

結末は「これぞ、悲劇」。

緊迫した台詞の応酬。
幕切れのカタルシス。
芝居好きな方に是非観ていただきたい作品です。

* * *

ざっとこのような感想を友人に話したところ、興味を持ってくれたようです。
「そういえば、ワンピースとかもやってますもんね」と。
そうそう!そうなの!
歌舞伎って案外、間口が広いの。
ゴージャスで古典的な“ザ・歌舞伎”演目も良いけど、ビギナーには親しみやすさも大切。
『滝の白糸』は歌舞伎デビューにも最適な作品としてお薦めしたいですね。

他、素晴らしかった方々。
滝の白糸の一番弟子、桔梗を演じる中村米吉。
桔梗が口を開いた瞬間「歌舞伎はいつの間に女性が舞台に上がるようになったの?」と錯覚してしまうほど、自然な美しい声で驚きました。

そう言えば、『日本振袖始』の稲田姫でも「可愛いなぁー」と思ったのでした。
これから米吉さんの出演作をこまめにチェックしたいと思います。
あまりの可愛さに、すっかりファンになってしまいました。

○歌舞伎関連記事はこちら。
猿若祭二月大歌舞伎:昼の部『四千両小判梅葉/扇獅子』を観て来ました!
十二月大歌舞伎:第三部『二人椀久/京鹿子娘五人道成寺』を観て来ました!

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猿若祭二月大歌舞伎:昼の部『四千両小判梅葉/扇獅子』を観て来ました!

週末、家族の祝い事で銀座に集まりました。
食後の腹ごなしに銀ブラしましょうと中央通りをぶらぶらお散歩していたら、いつの間にか四丁目の交差点。
三越の角を曲がれば、すぐそこは歌舞伎座!
サクッと幕見してっちゃう!?と話は決まり、チケットを入手。
開演時刻ギリギリだったので、演目もろくに確認しないままだったのですが、これが大当たり!
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江戸歌舞伎三百九十年・猿若祭二月大歌舞伎と銘打たれた今公演。
夜の部の『門出二人桃太郎』では勘九郎のふたりの息子さん、三代目中村勘太郎と二代目中村長三郎の初舞台とのことで、密かにこちらを狙っていたのですが、当然完売!
万にひとつの可能性を期待して行ったのですが甘かったようです(当たり前ですよね)。

思いがけず観ることができたのは『四千両小判梅葉』と『扇獅子』。
何の予備知識もなく飛び込みましたが、ハードボイルド風味の白浪物と華やかな舞踊の二本立てで、とても楽しめました。

河竹黙阿弥作の『四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)―四谷見附より牢内言渡しまで』は、幕末に実際に起きた江戸城の御金蔵破り事件がモチーフ。
今で言うなら三億円事件みたいなものだそう(古い?)。
裏世界の男たちの姿をリアルに写し取ったこの作品。
いわゆるピカレスク物ですが、妻や子への情など人間臭い部分もしっかり描かれ、見応えがありました。

主人公、野州無宿富蔵は菊五郎。
どこか憎みきれない魅力的な悪人っぷり。
くっきりした口跡、素晴らしく良く通る声はさすがです。

護送中の富蔵が籠に入ったまま家族と別れを惜しむ『中仙道熊谷土手の場』。
富蔵の舅、うどん屋六兵衛を演じた東蔵の温もりある芝居が印象深かったです。

富蔵の娘お民(菊地慶/醍醐陽)のあどけなさ。
「悪いことをすればお仕置きを受けるのは私でも分かるのに、なぜ、とと様は悪いことをしたの?」
こう言われて、さしもの富蔵の意地もついえます。

始めは家族に塁が及ばないよう「縁切りをした」と言い張っていた富蔵ですが、やがて「おとっつぁんが死んだら線香の一本も立てておくれ」「父親が罪人と知れたらいじめられるから、おとっつぁんは三年前に死んだとお言い」など涙ながらに説くのです。

本当になぜ人間はこんな結末を迎えると薄々知りながら悪事に手を染めるのでしょうね。
その弱さ、愚かしさこそがドラマの根源なのですが。

そして、ハイライトの『大牢(たいろう)の場』。
当時の牢獄の様子が克明に描かれ、非常に興味深い場面でした。
それもそのはず、初演の千歳座の興行師は前職が牢に勤める役人だったそうで、その知識や経験が牢内の演出に活かされているそう。

幕が開くと、板敷きの隅っこに縮こまる囚人たちと、積み上げた畳の上でふんぞり返る牢名主の姿が見えます。
牢名主松島奥五郎は左團次。
“牢名主”という言葉で浮かぶイメージ通りの牢名主でした。
熱烈な左團次ファンの友人に、もう観た?と訊いたらまだですって。
これは是非生で観て欲しい。

罪人の中にも身分制度があり、一番権力を握っている牢名主が「地獄の沙汰も金次第」と言って、新入りからお金を巻き上げたりするんですよ。
お気に入りには目をかけて、牢内で楽に過ごせるよう計らってやったり。
掏摸(すり)の寺島無宿長太郎(菊之助)のように垢抜けたルックスと世渡りの上手さがあれば、牢内でもうまい汁を吸える。
牢獄という場所はそのまま社会の縮図でもあるのですね。
当時の牢は囚人たちの自治制が敷かれ、役人たちでさえ手が及ばなかったとか。

外の世界(いわゆる娑婆)であれば自分の才覚でいかようにも生きられますが、不自由な牢内で心地よく過ごせるかそうでないかは大きな違いです。
窓がなく不衛生で栄養状態も悪く、ろくに体も伸ばせない生活。
そんな江戸の牢内の様子が克明に描かれた舞台。
歴史資料としても貴重な内容です。

面白かったのは、新入りが入牢する際の儀式。
着流しの裾をパッとまくった菊五郎(富蔵)。
牢の小さな入り口から、四つん這いで進んできた囚人はそのまま富蔵の股ぐらをくぐって牢内に入るのです。
間男をして牢に入れられた若い男は『すってん踊り』と呼ばれる恥ずかしい踊りを皆の前で披露させられます。
股くぐりといい、最初に屈辱的な目に遭わせるのは反抗心を削ぐ目的でしょうか?

最期は、市中引き回しのうえ磔の刑を言い渡される富蔵。
牢名主より仕立ておろしの唐桟の着物と博多帯、紙で作った数珠を与えられます。
死出の旅に、せめてもの仲間たちの心尽くしでしょうか。
悪事を働いたらジタバタせず潔く裁きを受けるのが、江戸の悪人の矜持だったのかもしれません。

刑場へ向かう前、大牢の仲間たちに向かって「お題目を頼むぜ」と叫ぶ富蔵。
応えて「日本一の大泥棒!」との声が掛かります。
仲間たちの餞を受け、お仕置きを受けに去る富蔵の背で、幕。

大金を奪った男たちの末路の描き方は、なんとなく高村薫の『黄金を抱いて翔べ』を彷彿させました。

10分の休憩を挟んで、舞踊劇『扇獅子(おうぎじし)』。
獅子舞に見立てた扇を手に舞う鳶頭(梅玉)と芸者(雀右衛門)。
短い中に四季折々の風情を楽しめる華やかな演目で大満足。
お芝居の結末のやるせなさを払拭してくれました。
雀右衛門の艶やかなこと!
目の保養です。

気まぐれで偶然観ることのできた演目ですが、思いがけず満喫できました。
たまにはこんな行き当たりばったりもいいものですね。

そうそう、中央通りでとっても可愛いものを目撃したんですよ!
松屋の前あたりだったかな?
道端に人だかりができているので何事かと覗き込んだら…
なんと、花壇にうさぎが!

なぜこんな町中にうさぎ?まさか野良!?
それにしては毛並みがつやつや。
くりくりおめめに、ふかふかのおしりとしっぽ!
可愛いーーー!!!
連れて帰りたい!と思いましたが、残念ながら近くに飼い主らしき紳士が。
どうやらお散歩だったようです。
歩行者天国のアイドルうさちゃんですね。
はからずも色々と面白いものに触れられた一日でした。

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坂東玉三郎の琴・三味線・胡弓弾き分け│シネマ歌舞伎『阿古屋』を観て来ました

東劇で公開中のシネマ歌舞伎『阿古屋(あこや)』を観て来ました。

『阿古屋琴責め』とも呼ばれるこの演目。
ヒロイン阿古屋が琴・三味線・胡弓の三つの楽器を実際に演奏するのが最大の見せ場。
さらに傾城(上級遊女)の品や艶やかさ、恋人への思慕も表さなければならない手強い役です。
それゆえ女方屈指の難役・大役と言われ、現在演じられるのは坂東玉三郎ただひとり。

なぜ、阿古屋は三種の楽器を弾くのか?
平家が滅亡した後、代官・重忠は源頼朝を狙う平家の武将・景清(舞台には登場しない)の行方を探そうと、景清の恋人だった遊君・阿古屋を取り調べます。
答えない阿古屋に、嘘をつけば音色が乱れるはずと、琴・三味線・胡弓を演奏させるのです。
見事に弾きこなした阿古屋は許され、幕となります。

ちなみに、『阿古屋』は全五段ある『壇浦兜軍記』の三段目。
現在上演されるのは、ほぼこの『阿古屋琴責め』のシーンのみ。
ハイライトシーンだけピックアップされるのでしょうか?
宝塚でいうと『ベルサイユのばら』の『今宵一夜』や『バスティーユ』だけ上演するようなものかしら?(違いますよね…)

シネマ歌舞伎の利点は、最前席さながらに楽器を操る玉三郎の手元までしっかり観られること!
普段見られない稽古場や舞台裏のドキュメンタリーも併せて上映され、一層理解が深まります。

数年前の歌舞伎座公演を観た両親が、一足先にシネマも観て「わかりやすくて良かった」と申しておりましたので、私も足を運んで来ました。

* * *

上映時間は約90分。
前半は稽古場の役者や舞台裏のスタッフたちの様子を伝える特別映像。
玉三郎の静かなナレーションが心地よいです。

大道具や衣装、床山など普段なかなか知ることのできない人々の動き。
舞台稽古では化粧を済ませた玉三郎が客席から照明や台詞の通り具合を確認し、改善の指示を出します。
細かいことですが、手に塗った白粉で周囲を汚さないよう白手袋をはめてらっしゃるのが印象的でした。

稽古場では悪代官・岩永を演じる亀三郎に人形振りのコツを指導する玉三郎。
両腕を動かすタイミングを少しだけずらす、ちょっとしたことで本当に見違えるのですね。
ご自分が演じられる阿古屋の稽古だけでも大変でしょうに、他の役や舞台進行まで目を配られて…
誰よりも『阿古屋』に深く関わってらした玉三郎の経験あってこそですが。
後継者を育て、伝統演目を次世代に引き継いでいくこと。
様々な思いが画面を通して伝わってきます。

“二十歳までに女方の型を身につけるように”
こう教えられたという玉三郎。
男性として成熟していく時期に、異なる性を演じるため身を削る。
宝塚歌劇と同じですね。
女性として最も輝く時期を“男役”に捧げる、彼女らに通じるものを感じます。

しかし、彼らは決して本来の自分を押し殺しているわけではありません。
魅力的な女方は男性としても魅力的、また魅力的な男役は女性としても魅力的です。
本来の性で他者を惹きつけられない人間が、舞台で異なる性を演じて観客を魅了することはできないでしょう。

優れた女方・男役はアンドロギュヌス的存在である。
また、性に左右されない部分、その人そのものが秀でているのだと言えましょう。

* * *

定式幕に『阿古屋』のタイトルが浮かび、いよいよ本編が始まります。
花道の奥で出番を待つ玉三郎の姿をカメラがとらえます。
伊達兵庫の鬘、打掛、俎板帯、堂々たる傾城の正装。
きりりと引き締まった表情。
あたりを払うような神々しい阿古屋です。

シネマだとお衣装の細かいところまで本当によく分かりますね。
豪華絢爛な刺繍に彩られた打掛や帯。
梅、孔雀、蝶、どれも立体的で、そこに息づいているよう。
非常に繊細で美しいものです。

配役は、遊君阿古屋=坂東玉三郎、秩父庄司重忠=尾上菊之助、岩永左衛門=坂東亀三郎、榛沢六郎=坂東功一。

菊之助の鷹揚としたさま、対して亀三郎のコミカルさ。
特にギクシャクと大仰でユーモラスな人形振りには思わず笑ってしまいました。
生身の人間なのに、黒衣に操られるように存在する(台詞も太夫が代弁します)。
元は人形浄瑠璃だったという『壇浦兜軍記』ですが、なぜ岩永のみがこのような動きを強いられているのでしょうか?
気になるので調べてみます。

琴や三味線を弾き唄う玉三郎。
特に心に残ったのが、この部分(うろ覚えですが)。
〽羽織の袖のほころび、時雨の唐傘、雪の朝(あした)の煙草の火、寒いにせめてお茶一服
景清との出会いから、次第に心が通い合っていく様子が伝わってきます。
言葉の調子が美しく、湿度や温度がリアルに感じ取れて秀逸です。

玉三郎のお顔が大写しになる瞬間があるのですが、その美しいこと。
単に美しいのではなく、何と言うか、ちょっと怖いような。
恍惚とした表情、焦点の定まらない瞳。
魔に魅入られたような、向こう側の世界に足を踏み入れてしまったような。
瞬間を切り取るカメラワークの素晴らしさに拍手。

最も印象的だったのが胡弓の音色。
琴や三味線は実際に弾いたり、演奏を聴くこともありますが、胡弓はなかなか接する機会がありませんので新鮮。
心にしみとおるような嫋嫋たる音色です。

演奏が佳境に入ると、映画館の空気が変わるのが感じられました。
ものすごい速弾き。
哀しげな叫びのような旋律に、映像の中の歌舞伎座の観客も映画館で観ている私たちも息を詰め、胡弓の響きを全身で受け止めます。
演奏が終わり、阿古屋が許された瞬間の脱力感と言ったら…
阿古屋の緊張を疑似体験できたような気分でした。

何が凄いって、傾城の扮装のままこれだけの演奏をこなす玉三郎!
櫛や簪、笄などの飾りで埋め尽くされた伊達兵庫の鬘+幾重にも重ねた衣装、打掛、全面に刺繍が施された俎板帯…
これらの総量は30kg近くにもなるそうですが、そんなことはおくびにも出さず涼しい顔。

宝塚の象徴、トップスターが背負う大羽根もかなりの重量と聞きます。
疲労が頂点に達するショーの最後に満面の笑みを浮かべ、あまつさえ尻尾の羽根が躍り上がるほど深いお辞儀をするタカラジェンヌ。
役者って本当にすごいです。

シネマ歌舞伎『阿古屋』。
目で楽しめ、耳で楽しめ、素晴らしいひとときを過ごすことができました。
おすすめです!

* * *

ところで、阿古屋(あこや)って真珠を採るアコヤ貝と関わりがあるのでしょうか?
調べたところ、阿古屋は愛知県知多半島にあった古地名で、近海で採れた真珠を阿古屋珠(あこやだま)と呼んだそうです。
転じて、真珠のことも阿古屋と呼ぶようになったとか。
なるほどー、アコヤ貝=阿古屋貝だったのですね。
真珠のような気品と神秘的な美しさの遊君・阿古屋、まさに傾城に相応しい素敵なお名前ですね。

ちなみに、こちらは先日訪れた『世界らん展』に出品されていた“阿古耶姫”と名付けられたエビネ(海老根)。
0872_1.jpg
表記が“阿古[耶]”ですので、宮城県に伝わる松の精と恋をした阿古耶姫の伝説にちなんでいるのでしょうか?
しっとりと品の良い姿ですね。

◇シネマ歌舞伎『阿古屋』
シネマ歌舞伎│公式サイト『阿古屋』
上映劇場:東劇
上映期間:上映中~2月24日(金)まで

※3月4日(土)からは全国の映画館で、玉三郎・勘九郎・七之助の『二人藤娘/日本振袖始』が上映されます。
こちらもとても華やかで目に保養になりますよ。
シネマ歌舞伎│公式サイト『二人藤娘/日本振袖始』

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プロフィール

野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共に30年(ブランクあり)。全組観劇派。美丈夫タイプの生徒さんが好み。谷正純・酒井澄夫・木村信司・大野拓史作品が好き。観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。

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