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少年よ、高く跳べ!―ライナス(和希そら)の「個」の魅力│オーシャンズ11

宝塚版『オーシャンズ11』といえば、「ひたすらカッコいい男役たちを愛で、きらびやかな大スペクタクルを味わう作品」と思っていた私。
しかし、その印象は宙組版により180度くつがえりました。
他でもないライナス・コールドウェル(和希そら)によって。

華やかなエンターテイメントを軸に、ひとりの少年の成長が鮮明に浮かび上がる『オーシャンズ11』。
宙組ならではのエッセンスが加わった、新鮮な味わいを楽しみました。

心揺さぶる、和希そらの芝居


雑踏からそらちゃん(和希)が現れ、歌い始めた瞬間、鳥肌が立ちました。
世をすねた目つき、どこかぎこちなく、周囲から浮き上がる存在感。
まぎれもない、ライナス・コールドウェルがそこにいました。

卓越したダンスと歌唱に注目が集まりがちなそらちゃんですが、芝居もなかなかのもの。
直近で印象深かったのは『WEST SIDE STORY』のアニータ。
男役ながら、物語のキーパーソンとなる艶やかで知的で感情豊かな女性を見事に演じきったそらちゃん。
“Somewhere”は何処に?―真風涼帆・星風まどか・和希そら評│WEST SIDE STORY

「いい芝居」に男も女もないと思わせた彼女が挑む少年ライナス。
その不器用な瑞々しさ。
「オーシャンズって泣くような話だっけ?」と思いつつ、父の旧友ソール・ブルーム(寿つかさ)とのやり取りから「JUMP!」への流れで不覚にも涙してしまいました。

ライナスの焦燥


ダニー、ラスティー、ソール、フランク、ルーベン、バシャー、イエン、リヴィングストン、バージル、ターク。
個性豊かなオーシャンズの面々で、ライナスだけが「子ども」なのです。
単に年齢の若さを指すのではありません。

リヴィングストンもモロイ兄弟も若いけれど、確固たる「自分だけの何か」を持っている。
犯罪すれすれ(というか完全にアウト)なクラッキングやヴィジュアルエフェクツの腕前。
決して褒められたやり口ではないけれど、それでも、彼らはその持てる技能を駆使して人生を謳歌している。
彼らには、自分の足で自分の人生を歩いている者たちの輝きがある。

でも、自分には何もない。
このままコソコソと他人の懐を狙い、小銭を稼いで、その日暮らしを送るのか?

自分はどうなる?
何者にもなれず、何も成し遂げず、ただ年をとっていくのか?

そんなのはイヤだ!
なんとかしたい!
どうすればいい?

くすんでちっぽけな自分に嫌気がさす。
俺だって、あの光の輪の内側に立ってみたい。

切羽詰まったようなそらちゃんの瞳から、ライナスの焦燥、煩悶、そして閉塞感がひしひしと伝わってきました。

跳べ!ライナス


鬱屈したライナスの心を揺すぶったのは、ダニー(真風涼帆)の「男にしてやる」。
突破口を開いたのは、ソールの「跳べ!ライナス」。

自分だって跳べる
あんたたちと一緒に跳んでみるよ!

オーシャンズの導きで、自分の進むべき道を探り当てたライナス。
それまでの怯えは消え失せ、目に輝きが宿る。
強く押さえつけられた分だけ、いっそう強く跳ね返すバネのような。
爽快感あふれる少年の成長。
見事な変貌ぶりでした。

血の通った人間が生きている。
その「熱」を観客に届けることができるのが、大勢の中で埋もれないそらちゃんの「個」の魅力
すごい武器です。

「男とはいかに生きるべきか」を問いかける『宙組オーシャンズ11』


ダニーやラスティー(芹香斗亜)を始め、ほとんどの登場人物のバックグラウンドが描かれない『オーシャンズ11』。
例外はテリー・ベネディクト(桜木みなと)とライナスのみ。
二人の共通点は、父親との確執。

ギャンブルで身を持ち崩し、家庭を破壊した父親への憎悪から裸一貫のし上がったテリー。
「伝説のスリの息子」のレッテルを持て余し、先の見えない暮らしに倦んでいたライナス。

自らの力で父親の壁を乗り越えたテリー。
オーシャンズが寄ってたかって跳び越えさせたライナス。
しかし、ダニーたちは手助けをするだけで、跳んだのはライナス自身の意志です。

少年が大人の男として立つとき、避けて通れないのは、ひとりの人間として父親と向き合うこと。
『オーシャンズ11』は「父と子の物語」でもあるのです。

ライナスの擬似的父親の役割を果たしたダニーとソール。
今回の宙組版の面白いのは、初演星組と再演花組でライナスを演じた真風さんとキキちゃん(芹香)が、それぞれダニーとラスティーとして和希ライナスに対峙するところ。

初代が拾い上げ、二代目が手を差し伸べる三代目ライナス。
和希ライナスにとって、真風ダニーは父であり、芹香ラスティーは兄であったのかもしれません。
(ラスティーのさりげないスキンシップ[肩ポンや鼻ツン]に、いかにも彼らしい親愛の情が感じられて良かったです)

少年から大人にJUMPしたライナスを取り巻く面々。
クールでスタイリッシュな見てくれの奥に、「男とはいかに生きるべきか」の熱い問いかけが渦巻く宙組オーシャンズでした。

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新解釈「モナリザの謎」観れば観るほど面白いスルメ作品―個人評(真風/星風)│異人たちのルネサンス

『異人たちルネサンス』は、観れば観るほどじわじわと面白さが増してくる不思議な作品でした。

テーマが明確で、起承転結がはっきりしており、脚本に過不足はない。
生徒の配し方は適材適所。
美しい衣装、耳馴染みの良い音楽。
舞台機構の使い方も巧み。
派手さはありませんが、しっとり落ち着いた良さがありますね。

最も印象的だったのは、レオナルド(真風涼帆)がカテリーナ(星風まどか)をモデルに「誰も見たことのない聖母の肖像」を描き始めるシーン。

宝塚の舞台で、あんなに長く無音が続くのって珍しくありませんか?
音楽もなく、台詞もなく。
ただ、木炭が板をこする音が響くのみ。

この沈黙が雄弁なのですね。

劇場中が固唾をのんで見つめる中、二人の想いが煮詰まっていく時間。
息苦しいほど凝縮された空気に、こちらの胸まで苦しくなりました。

物語の大きな軸は、歪められ押し込められたカテリーナの心の再生。
思いがけず再会した幼馴染のレオナルドと対峙することで、次第に心が動いていく様子が手に取るように伝わってきました。

ありもしない「罪」を押し付けられ、頑なに閉じていたカテリーナの心。
いまわの際に残した「もう何も怖くない」がひときわ胸にしみました。

独りぼっちで、絶えず自分を責め続けながら、一羽の白い小鳥だけを頼りに生きてきた寂しい少女。
花の盛りを生きているのに、心は既に死んでいた。

重い鎧を着せられ、狭い檻に閉じ込められていたカテリーナ。
彼女を再び羽ばたかせたのはレオナルドの言葉。
「君は何の罪も背負ってはいない。君はあの頃と何ひとつ変わってはいない」

鳥籠に閉じ込められていたのはカテリーナの心だったのです。

いらない子、嫌われっ子と蔑まれながら少年時代を送ったレオナルドは知っていたのです。
たったひとつ、心を奮い立たせるものがあれば、心を死なせずに生きていけると。
それは「愛」であったり、「何かを生み出すこと」であったり…
サライ(天彩峰里)に絵を教えたのも同じ理由でしょう。

小さく縮こまっていたカテリーナの翼。
「愛」を知ったから、飛ぶのが怖くなくなった。
呪縛から解放された途端に命を落としたのは気の毒でしたが…

わずかな間でも、「本当の自分」を取り戻し、生きられたこと。
愛に満たされ、神の国へ迎え入れられたこと。
カテリーナは幸福だったでしょう。

ロレンツォが問いかけます。
「なぜ彼女は微笑んでいるんだ?」
レオナルドの答えは「本当の愛を知っているから」。

レオナルドは愛によって、カテリーナに新しい命を与えたのです。
そして、絵筆によってもうひとつの命を。
カンバスに閉じ込めたカテリーナへの想いは永遠です。

物静かで、内なる情熱を秘めた若き天才、レオナルド。
真風さんは持ち前の恵まれたルックスと、立っているだけで様になる男役の味を活かし、この寡黙で熱い青年を立体的に浮き立たせました。

野望の道具にされ、自分を殺して生きてきたカテリーナ。
まどかちゃんはレオナルドと出会って徐々に心を取り戻していくさまを、きちんと見せてくれました。

ラストシーンの教会、ひとり祭壇の前に佇むカテリーナ。
その姿からは、すべてを受け入れ、包み込むおおらかさが感じられました。
「愛」がもたらした自我の目覚め、自信、強さ。
その変貌ぶりに目を見張りました。

田渕大輔先生の新解釈「モナリザの微笑」の謎。
芝居のテーマとして面白く、興味深く拝見しました。

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最高のクリスマス!2018年宝塚観劇納めは宙組で│異人たちのルネサンス
「人材豊富過ぎる」宙組の贅沢な悩み―個人評(芹香/愛月/凛城/澄輝/風馬)│異人たちのルネサンス
現代の“異類婚姻譚”『白鷺の城』がハッピーエンドである理由
東宝デザート「酢×ゼリー」に外れなし!│宙組『白鷺の城』公演デザート「美人たちも来るねッ酸酢」レビュー

最高のクリスマス!2018年宝塚観劇納めは宙組で│異人たちのルネサンス

Merry Christmas!
宙組さん、千穐楽おめでとうございます!
退団者の皆さま、ご卒業おめでとうございます!
新たな人生が輝きに満ちたものでありますように!

* * *

2018年観劇納めはSS2列目ど真ん中!
至近距離で観る宙組さん…眩しすぎる!

水もしたたる美青年っぷりの真風さん(真風涼帆)。
しっとり憂いを帯びた表情が素敵。
吉備真備の匂い立つ色気。
いつか中国王朝物を観てみたいですね。

傲慢で冷徹な中に、どこか憎みきれない愛嬌を滲ませるロレンツォ。
中の人(芹香斗亜)のお人柄でしょうか?
したたかでセクシーでカッコいい、大好きなお役です。

ひときわ心のこもった愛ちゃん(愛月ひかる)の保名。
乱れ髪も美しく、心ここにあらずといった風情で銀橋を渡る姿に涙が出ました。
愛ちゃんの歌にはドラマがあるんですよね。
短いシーンに、葛の葉との物語をしっかり紡いでくれました。

毎回、釘付けになったエビちゃん(綾瀬あきな)の腹筋。
惚れ惚れする美しいシックスパック。
かけるさん(風馬翔)との絡みは、目が離せません。
エビちゃんも凄いですが、かけるさんのホールドも素晴らしい。
娘役群舞で地毛をなびかせて踊るのが最高。
アダルトでカッコいいですよね~~

フィナーレ「マスケラータの夜に」。
大好きなそらちゃん(和希そら)が銀橋に現れ、幸せ最高潮!
キラッキラ笑顔とセクシーな歌声のギャップがたまらない!
ズバッ!キラーン!と音がしそうな指差しウィンクに射抜かれました~~
素敵なクリスマスプレゼントをありがとうございます!

そして、今年宙組配属となった身内の知人のお嬢さん。
パッと目につく華やかさ、あふれんばかりの笑顔が眩しい!
ロケットでフレッシュな魅力を振りまきます。
先日の試験でも良い結果を残せたそうで、これからの活躍が楽しみです。

* * *

観劇後は帝国ホテルへ。
連れ合いが予約してくれたレストランでお食事。
クリスマスの特別メニューは目で見て楽しく、お味も抜群。
舞台の感想を話しながらの楽しい時間でした。

かけるさんがお気に入りの連れ合いは「卒業を見送れて良かった」と嬉しそう。
「来年のクリスマスも宝塚を観て帝国で食事しよう」とも。
「気が早い!」と言いつつ公演スケジュールをチェックしたら、来年は月組でした。
是非とも有言実行してもらわなければ!

今年のヅカ活動を最高の形で締めくくる大満足の一日となりました。

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「人材豊富過ぎる」宙組の贅沢な悩み―個人評(芹香/愛月/凛城/澄輝/風馬)│異人たちのルネサンス
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恐怖の寿限無地獄!キックリさん(凛城きら)は救世主│天は赤い河のほとり

『異人たちのルネサンス』で、ピリリと芝居を引き締める色悪っぷりを発揮する、りんきらさん(凛城きら)。
「人材豊富過ぎる」宙組の贅沢な悩み―個人評(芹香/愛月/凛城/澄輝/風馬)│異人たちのルネサンス

前作『天は赤い河のほとり』でも、ぐっと目を引く働きをされていました。
そのときの感想です。

* * *

幼い頃から落語好きで、子ども向けの落語本を読み漁っていた私。
まんじゅうこわい、目黒のさんま、ねぎまの殿様、千早振る…
なかでも『寿限無』は言葉遊びの面白さが抜群でお気に入りでした。

先日観た宙組公演『天は赤い河のほとり』で、久々に寿限無が脳内を駆け巡りました。
ジュゲムジュゲム ゴコウノスリキレ カイルムルシリ ユーリイシュタル ウセルラムセス ウルヒシャルマ シュッピルリウマイッセイ サリアルヌワンダ…

これは生徒さんもスタッフさんも大変だったでしょうねー。
お互いの役名を覚えるのも一苦労です。

観る方もなかなか大変。
「新鮮な気持ちで観たい」との思いから、新作はいつも予習せずに挑む私。
次から次へと登場人物が姿を現し、名乗りを上げる前半部は海馬フル回転!
続々と襲ってくる情報を片っ端から取り入れ、消化せねばなりません。

ラムセスやネフェルティティなど、実在の人物はまだ良いのです。
固定のイメージがあるのでキキちゃん(芹香斗亜)や、あっきーさん(澄輝さやと)とすんなり結びつきました。
しかし、初めて耳にする名前(原作のオリジナルキャラクター)は大変!

ロシア語通訳の米原万里さんの著書に、そんな状況にぴったりな文章がありました。

通訳が大変悩まされるものに、固有名詞の羅列がある。
固有名詞というものは、実はそれを知っているときには、とても思い入れがあったり、特別な意味があったりするのに、まったく初耳の知らない固有名詞となると、意味のない音の羅列にすぎなくなる。


「それを知っているときには、とても思い入れがあったり、特別な意味があったりする」
原作ファンの方の頭の中でキャラクターと役者がすぐに結びつくのは、このためですね。

一方、私は。
「まったく初耳の知らない固有名詞となると、意味のない音の羅列にすぎなくなる」
脳みそを汗だくにしながら、必死に生徒さんと役名を結びつけたり、地図を思い浮かべてみたり。
原作ファンのヅカ友さんには「読まなくても大丈夫」と言われましたが、やっぱり読んでおけば良かったかな?

万里さんはこうも書いています。

無意味なものは覚えにくい。記憶のキャパシティーを食う。
それを知覚し記憶するために、他の重要な要素、たとえば文章全体の流れなどをつかむための注意力や記憶容量が減ってしまう。


問題はここ。
「それを知覚し記憶するために、他の重要な要素をつかむための注意力や記憶容量が減ってしまう」
固有名詞に翻弄され、肝心のストーリーや登場人物の心の動きを追うのがおろそかになっては本末転倒です。

過度な固有名詞の集中は、しばしば通訳をいたずらに苦悶させ、疲労困憊させ、通訳不能に陥れる。
親が長寿を願ってつけた寿限無のフルネームがあまりにも長ったらしかったために、救援が間に合わず、井戸で溺れ死んでしまった悲劇のようなことになりかねない。


「過度な固有名詞の集中は、しばしば観客をいたずらに苦悶させ、疲労困憊させ、理解不能に陥れる」という状況でしたね。
ちなみに私はカイルの兄弟全員集合シーンでギブアップ!
固有名詞を追うことを放棄。
このうえラムセスの姉妹までが名乗りを上げたらどうしようかと思いました。

しかしながら、こんな私でもなんとかストーリーについてゆき、楽しむことができたのは、ひとえに小柳奈穂子先生のお力。
20巻以上に及ぶ原作を一本物ならまだしも、わずか90分の一幕に仕上げる。
無茶な要求にも屈せず、よくまとめたなーというのが私の思いです。

とはいえ、ツッコミどころは多いし、足りないところは観客の脳内補完に委ねる箇所も見受けられましたが、まずまずの仕上がりでした。
芝居の組み立てが巧みでツボを押さえているので、説明的な台詞が多くてもストレスを感じないのが何よりですね。

MVPは怒涛の寿限無(固有名詞)地獄の唯一の救い、狂言回しのキックリを演じた凛城きらさん。

涼やかで明晰な語り口。
聞き手の耳にするする染みとおる水のような味わい。
観客に寄り添うように的確な彼の導きで、煩雑なストーリーが整理されました。

キックリ様様です!
彼が口を開くたび、謎の安心感を覚えました。

原作でのキックリはどのような役回りなのでしょうか?
やはり物語の語り部なのでしょうか?
もしそうではなく、あえてりんきらさんにこの役目を与えたのだとすれば、小柳先生グッジョブです!

※抜粋はすべて米原万里著『不実な美女か貞淑な醜女か(新潮文庫)』より

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○『天は赤い河のほとり』関連記事はこちら↓
星風まどかさんについて、組の名刺代わりのショー『シトラスの風』について
カッコいい あぁカッコいい カッコいい│『天は赤い河のほとり』の男たち(真風涼帆・芹香斗亜・愛月ひかる)
ダジャレ完成度の高さと美味しさは比例する?『天は赤い河のほとり』公演デザート「シトラスの果ゼリー-三倍酢-」

「人材豊富過ぎる」宙組の贅沢な悩み―個人評(芹香/愛月/凛城/澄輝/風馬)│異人たちのルネサンス

若き日のレオナルド・ダ・ヴィンチの淡い恋を、誰もが知る名画の誕生秘話に絡めたストーリー。
着眼点が面白いですね。
MY初日は「そうきたかー」と素直に驚きました。

作者は田渕大輔先生。
デビュー以来、6作品中なんと4作が宙組。
こんなことってあるんですね。

『異人たちのルネサンス』は画家たちのエピソードやパッツィ家の陰謀など史実を上手く織り交ぜ、綺麗にまとまっています。
が、いかんせん若手スターさんたちを活かしきれておらず、もったいないですね。

特に、レオナルドの工房の仲間たち。
ペルジーノ(澄輝さやと)、ボッティチェリ(蒼羽りく)、クレディ(和希そら)、フェルッチ(留依蒔世)、シニョレッリ(瑠風輝)。
全員新人公演主演経験があり、バウホール主演を果たした方もいます。

なのに…もったいない。

率直に言えば、居ても居なくても作品が成立するパート。
物語の大筋に関わり、主人公の運命を動かす役どころではありませんよね?

個々の役をじっくり観れば、それぞれに自分の色を出そうと工夫してらっしゃるのは分かります。
しかしながら、ひとりひとりの役割が薄く、「これ!」という見せ場に乏しい。
演技に優れ、歌唱に優れ、舞踊に優れたスターたちが単なる「賑やかし」に終始するのは、非常にもったいない。

主人公の人生に積極的に関わる人々だけピックアップしても、これだけの役があります。
ロレンツォ、グイド司教、ジュリアーノ、パッツィ、ヴェロッキオ、サライ…
それでもまだ役が行き渡らない。

90分で80人にまんべんなく場を与えるのは難しいにしても、せめて一作品の主役を張った経験のある生徒さんは、もう少しなんとかならなかったものでしょうか?

「人材豊富過ぎる」「層が厚過ぎる」
贅沢な悩みですが、上級生・中堅・下級生に至るまで優秀な生徒さんがひしめき合い、活用しきれてないのが宙組の現状と感じます。

* * *

○ロレンツォ・デ・メディチ(芹香斗亜)
世界を意のままに操るにふさわしい知力と胆力と政治力を持った男。
美を愛し、積極的に芸術を庇護した偉大な支配者。
とても好きなキャラクターです。
キキ(芹香)ロレンツォは、変に情に走らず冷徹・傲慢に徹したのが私好み。

ラストの不死身っぷりには笑いました。
「生きてたの!?」みたいな。

白い貴公子然としながらも、黒く、サディスティックな役を演じると格段に色気が増すキキちゃん。
ロレンツォはハマり役ですね。
カッコよかったです。

○グイド司教(愛月ひかる)
無垢な少女を飼い慣らし、メディチ家を内側から崩壊させようと企む野心家。

主演の『SANCTUARY』を含め、田渕作品の愛ちゃんはいつも魅力的。
得体の知れなさ、底知れない無気味さ、権力への執着。
作品世界を丸ごと飲み込むような存在の大きさはさすが。

黒幕が弱いと作品全体がスケールダウンしますので、愛グイドの起用は正解でした。

○フランチェスコ・パッツィ(凛城きら)
歴史に名高い「パッツィ家の陰謀」の中心人物。
堅実で、実存感のある芝居が舞台全体に厚みを与えます。
佇まいに壮年の色気が漂うのが何より。

見せ場はサライを買収するシーン。
言葉は優しくとも、拒否すればどんな目に遭わせるか分からないと思わせる酷薄さ。
芝居巧者ぶりを遺憾なく発揮しました。

○ペルジーノ(澄輝さやと)
無言でサライの肩を抱き、教会を去る姿にペルジーノという男のすべてが表れていたように思います。
温かく懐の深い、工房の兄貴分。
好きなシーンです。

○酒場の歌手(風馬翔)
エビちゃん(綾瀬あきな)とのアクロバティックなダンスが凄かった!
歌と踊りのインパクトが強すぎて、パッツィとジュリアーノの密談に意識が届きにくいのが玉にキズ。
今回ご卒業の翔さんのシーンですから自然と観客の注目も集まります。
この構成は上手くないです。

* * *

次作『オーシャンズ11』は男役さんの役が沢山ありますが、人材過多の根本解決にはなりません。
一刻も早く、生徒さんひとりひとりが持てる力を存分に発揮できる環境が整うことを切に願います。

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プロフィール

noctiluca(ノクチルカ)

Author:noctiluca(ノクチルカ)
宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
月組/星組比重高めの全組観劇派。
美丈夫タイプの生徒さんが好み。
宝塚歌劇観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。
◇更新情報はこちら◇
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