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交錯するジェンダー、ルイ(愛希れいか)とリュリ(佳城葵)│All for One

私にとって月組の珠城りょう×愛希れいか時代の最高傑作『All for One』。
トップコンビのみならず組子全員がどんぴしゃ当て書き。
誰も死なず、誰も傷つかず。
最高に幸せなハッピーエンド。

成功の要因はキャラクター造形の確かさ。
なかでも、ルイ14世を演じたちゃぴちゃん(愛希)の功績は大きいです。
男役から娘役に転向した彼女ならではの“ヒロイン”ルイ14世がどのようにして生まれたのか?

「もしも、ルイが男女の双子だとしたら?」
「しかし、誰がルイ(ルイーズ)の二役を演じられる?」
「そうだ、愛希が居る!」
小池先生の頭に、男女の双子という構想が先にあったのか?
それとも、愛希れいかという役者ありきだったのか?
いずれにせよ、ちゃぴちゃんが作家の想像力を掻き立て、多大なインスピレーションを与える役者であることは間違いないでしょう。
わくわくするような大スペクタクル“小池版三銃士 All for One”の誕生です。
愛(希れいか)あればこそ、小池三銃士+宝塚“キスの流儀”│All for One より抜粋


“役割としての男性”を演じるルイ(愛希れいか)


男装の女性である「男役」が演じるダルタニアン(珠城りょう)と、本来の性が女性である「娘役」が男装した女性を演じるルイ14世(愛希れいか)の恋。
一見ややこしいですが、物語としてはシンプル。

ルイの肉体と性自認は女性、恋愛対象は男性。
一般的なシスジェンダーの恋愛劇に過ぎません。

家庭の事情により、望まぬ「男の生活」を余儀なくされただけのルイ(ルイーズ)。
“役割としての男性”を演じていただけなのです。

生まれたときから男として育てられたルイに、女性の自我が目覚めたのはいつだったのか。
どこかの時点で「あなたは女だ」と告げる者があったはず。

公の場では男性、私の空間では女性の二重生活を送っていた彼女。
しかし、結婚適齢期を迎え、これ以上のごまかしは無理と爆発します。

女の姿で王宮を逃げ出し、飛び込んだ酒場で出会ったのが、三銃士の一員ダルタニアン。
ルイーズとして出会ったダルタニアンと再会したのがルイだったことが騒ぎの始まりです。

「男装の麗人」ものはなぜ面白いのか?


男性として生きるヒロイン。
宝塚ではそう珍しくはありません。
『ベルサイユのばら』のオスカル、『紫子』の紫子など。

なぜか?
単純に「物語として面白い」からでしょう。
「男装の麗人」が「男装の麗人」を演じる宝塚歌劇においては尚更です。

ショーやレヴューで男役の女装がもてはやされる理由と根っこは同じでしょう。
固く閉じた男の鎧の隙間からこぼれ出す女の色香。

男役ד男装した女性を演じる男役”のラブシーンは、男役×娘役のそれとは異なる倒錯したエロスがあります。

男性の主人公が、相手(ヒロイン)を同性と思い込むことで生じる誤解や混乱も作品のスパイスになります。
『All for One』でもルイが女性と知ったダルタニアンが起こす騒動が物語を動かす起点になります。

また、男装のヒロインはあるがままの姿で生きられないことに苦悩し、そこにドラマが生まれます。
きっかけは自発にしろ、強要にしろ、どこかで必ず自身の女性性に目覚めるのです。

ルイの場合はダルタニアンと出会って一気に開花したと考えられます。
すったもんだの末、女の姿に戻り、恋人とハッピーエンドを迎えて、めでたしめでたしとなる『All for One』。
カラリと明るく健康的な珠ちゃぴコンビにふさわしい物語でした。

交錯するジェンダー、ルイとリュリ


男として育てられた女は必ず女に戻り、男を求める。
そしてふたりは結ばれ、ハッピーエンド。
結末の固定化には異論がありますが、『All for One』はそれに当たりませんので別な機会に。

ひとつ気になるのは、わーわー大騒ぎの人々をよそにダルタニアンへ熱い視線を送る青年。
やすちゃん(佳城葵)演じる作曲家リュリの存在です。

快男児ダルタニアンに心惹かれた様子のリュリ。
彼は三銃士の一員アトス(宇月颯)に対しても「タイプ」という言葉をかけています。

この台詞は『Le CINQ』に載っていません。
やすちゃんの役作りの一環なのか、後から付け足された設定なのか。

同様の役を演じた『A-EN』の脚本の意図は明確でした。
まゆぽん(輝月ゆうま)演じる大型犬男子マイルズに恋する少年アダム。
恋の芽生えから成就を丁寧に描いたやすちゃん。

やすちゃんの不思議なところは、どんな人物を演じても、ふわっとそこにいてしまうこと。
力みなく、自然体に。

ことさら強調しなくても、視線や身のこなしでリュリという人物を観客に印象づけられるやすちゃん。
もしかしたら「タイプ」という台詞すら必要なかったかもしれません。

ルイとダルタニアンの恋と同時進行するリュリの恋。
多様なジェンダーが交錯し、宝塚歌劇の可能性が広がったのも『All for One』の面白さのひとつです。

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人のセックスを笑うな―パブロ(暁千星)とフェリックス(風間柚乃)のピンクライト│I AM FROM AUSTRIA

「パブロとフェリックスのピンクライトについて、どう思うか?」とお尋ねがありました。
パブロ(暁千星)がフェリックス(風間柚乃)に一目惚れした瞬間、ふたりがピンクライトに包まれる演出(東京公演のみ)のことですね。

「同性愛を揶揄するものではないか?の声が一部に上がっている」とのことですが、それは違うと思います。
あのピンクライトに“特定の性的指向で笑いを取ろう”との意図は感じません。
単なる「分かりやすさのための演出」でしょう。

宝塚の観客層は厚く、東西合わせて二桁を観るハードリピーターから、一回限りの団体客まで、個人差が大きいですね。
みんながみんな予習ばっちり、何度も繰り返し同じ演目を観るわけではないですから、「いま、ここで恋が生まれた」ことをハッキリ悟らせないとラストシーンで盛大に「???」に陥ってしまう恐れがあります。

サッカー選手とホテルマンが?いつの間に?なんで??…と。

『IAFA』のように常に大人数が舞台に乗りっぱなしの作品は尚更。
一回こっきりの観客が出演者全員に神経を配るのは難しいものです。
特に、生徒の見分けがつかない宝塚初心者にとっては。

私の結論は「ピンクライトは演出家の親切であり、それ以上でもそれ以下でもない」です。

人のセックスを笑うな


『IAFA』のピンクライトに同性愛をネタ化する意図はなかったと思います。
しかし、いい機会なので、同性愛を含むLGBTsと宝塚歌劇について思うところをまとめます。

LGBTsを扱った宝塚作品で思いつくのは、『ニジンスキー』『グランドホテル』『A-EN』『王妃の館』『BADDY』『蘭陵王』などなど…

今回は宙組の『王妃の館』の黒岩源太郎(蒼羽りく)を例に挙げます。
ツアー仲間の近藤誠(澄輝さやと)と恋に落ちる源太郎。

彼女の台詞「あたしなんて、おかまよ!」への観客の反応はさまざま。
眉をひそめる方、拒否反応を示す方。
そして、笑う方。

マコちゃん(澄輝さやと)の恋と、宝塚におけるセクシャリティの表現│王妃の館

“おかま”というセンシティブな単語をあえてチョイスする真意。
それは何か?

言葉は単独で存在することはなく、必ず前後に別の言葉がつながるものです。
黒岩源太郎という人物がどんな意図で、この言葉を使ったか。
芝居の文脈をなぞれば、その意図は明白です。

演劇に限った話ではありませんが、文脈を無視し、単語ひとつを取り上げて「差別」「不謹慎」「不適切」と非難するのは、単なる言葉狩りですね。

問題は「あたしなんて、おかまよ!」で爆笑する客席にあります。
なぜ笑いが起きるのか?

山崎ナオコーラのデビュー作『人のセックスを笑うな』。
初めて聞いたとき、いいタイトルだな、と思いました。

「他人の性別、性自認、性的指向、性行為を笑いで消費するな」を端的に示す言葉。
それらを笑いものにする描写に触れるたび、頭に浮かぶフレーズです。

なぜ笑うのか考えてみよう


誤解を恐れず言うなら、笑う人がいてもいいのです。

ピンクの照明で強調される男同士の恋の始まり。
内股で歩き、小指を立て、女言葉を話す男性振付家や美容師のキャラクター設定。

それらが舞台に現れたら、笑う。
それがエンターテイメントにおけるセクシャルマイノリティへの“正しい反応”であるという刷り込み。
しかし、社会はもはや、そのフェーズにありません。

“おかま”“オネエ”“ホモ”というワードに、条件反射で笑うのもいいでしょう。
しかし、アハハと声を出した後に、ちょっと考えてみることが必要です。

なぜ笑ったの?
なにが可笑しいの?
一体なにが自分の笑いを引き出したの?
冷静に考えれば何も滑稽なことはないでしょう。

自分が望む姿で生きたいと願う人。
自分が望む相手を愛したいと思う人。
ただそれだけ。

誰かが誰かを愛してる。
誰かと誰かが愛し合っている。
ただそれだけのことです。

LGBTsに対する意識は、世代間や地域間、個人を取り巻く環境により、温度差が大きい現在。

宝塚歌劇でLGBTsが取り上げられることは、そのギャップを埋めるのに一役買っているのもしれません。
前回の記事で書いた通り、パブロとフェリックスの恋が適切に描かれたのは、演じ手の暁千星さんと風間柚乃さんの功績によるところが大きいですね。

ふたりの役者としての知性が、パブロとフェリックスを舞台に息づかせたのです。

パブロ(暁千星)とフェリックス(風間柚乃)―当たり前に存在するひとつの愛の形│I AM FROM AUSTRIA

他人の“セックス”を笑ってもいい。
しかし、笑いっぱなしで終わってはいけません。

なにがどう可笑しいのか考えてみることが大切です。
もしかしたら、可笑しがるあなたこそが“おかしい”のかもしれませんよ。

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パブロ(暁千星)とフェリックス(風間柚乃)―当たり前に存在するひとつの愛の形│I AM FROM AUSTRIA

パブロ(暁千星)とフェリックス(風間柚乃)の結末。
宝塚における愛の表現のターニングポイントと言ってよいでしょう。

男と女が出会って恋に落ちるのと同じように、男と男が出会って恋が始まる。
そこに何のエクスキューズもないことに新鮮な感動を覚えました。

暁千星と風間柚乃の芝居に唸る


「大切な人を見つけた、セニョール・フェリックス・モーザー」
満場の中、高らかに宣言するパブロ。
一瞬のためらいをみせつつ、やがて彼を受け入れるフェリックス。

印象的だったのは、パブロが真正面からフェリックスを抱きしめる瞬間。
力強い抱擁に息を呑むフェリックス。
彼が感じた胸の高鳴りが、私の心にもしっかり届きました。

この時点でふたりの仲はどのくらい深まっていたのでしょうか?
舞台から受ける印象では、ある程度までは進んでいたように思います。
少なくとも「フェリックスの気持ちもパブロに傾いている」と言えるほどには。

しかし、それからどうなるか?
フェリックスの心を想像してみました。

パブロが自分に一目惚れをした。
自分も満更ではない。
でも、この先はどうなる?
自分たちはどこへ向かうのか?
パブロは何を考えているのか?どうするつもりなのか?

その答えが出たのが舞踏会のシーン。
パブロの宣言により、恋の方向性が定まりました。

人気サッカー選手であるパブロが、世界に向けて「フェリックスを愛している」と発信する。
これは彼自身のカミングアウトでもあります。
その決断と覚悟。

パブロの愛は真実であり、フェリックスはそれを感じ取った。
だから、フェリックスはパブロの気持ちに応えた。

フェリックスの不安や迷いをひとつひとつ解きほぐそうとするように根気強く愛撫を続けるパブロ。
固かった表情が次第にほどけ、おずおずとパブロに応えるフェリックス。
しっかりと受け止め、さらなる熱量で返すパブロ。
その姿勢に、この先ふたりの間に何が起ころうとも真摯に向き合い、問題を乗り越えていくだろうことが容易に想像できました。

この間、台詞は一切なし。
しかし、ふたりの間にどんな感情の動きがあったかは、互いに向ける視線や表情、仕草を見れば明らかです。

愛のキャッチボールの中、ふと、何かの確信を得たように明るい笑いを浮かべるフェリックス。
ふたりの心が溶け合い、ひとつの愛が生まれる瞬間が余すところなく伝わる、こまやかな愛の表現に唸りました。

特に、幕が下りきるまでの短い時間でフェリックスの心の変化をきちんと表したおだちん(風間)の芝居には恐れ入りました。
巧い!

パブロの宣言が意味すること


魅力的なキャラクターいっぱいの『IAFA』。
なかでも心惹かれたのが、ありちゃん(暁)演じるパブロ・ガルシア。

フェリックスをリードするパブロ。
ここまで強く、匂い立つような男役の色気を、ありちゃんに感じたのは初めてです。
いつの間に、こんなにもエレガントな紳士を演じられるようになったのか?
男役の色気=包容力であると再認識しました。

以前の記事にも書きましたが、パブロの人柄を示すふたつの台詞が好きです。
「エマ、好きな人がいるんでしょ?」
「僕は君の味方だよ」
美園さくら、満開になる!+キャスト個別感想(光月/鳳月/風間/夏月/輝月/暁)│I AM FROM AUSTRIA

他人を包み込む優しさはあるが、決して必要以上に踏み込まない。
繊細な心の持ち主、パブロ。
また、非常に怜悧な一面も魅力です。

パブロは舞踏会の宣言で三つの目的を果たしました。

ひとつめは、愛する人を守ること。
サッカー界の花形である自分は常に人目にさらされている。
フェリックスとの関係を「スクープ!」という形で汚されるのは避けたい。
ならば、先んじて自分の口から宣言してしまおう。

ふたつめは、エマの恋の後押し。
自分には愛する人がいるので、エマとは結婚しない。
ジョージとお幸せに。

みっつめ、これはパブロにとって最も重要な意味を持っていたかもしれません。
先程も書いた“カミングアウト”です。

ひとつめとも通じますが、望まぬ形でアウティングされるより、自らの手でクローゼットの扉を開けることを選んだ。
これは彼の尊厳の問題です。

ナブラチロワの頃とは時代が変わったとはいえ、スポンサーへの配慮などもあったでしょう。
パブロほどの選手ならば、あの宣言は彼の一存ではなく、エージェントらと協議を重ね、慎重に行われたことと思います。
決して一時の激情にかられての行為ではないのです。

その決断の重さ。
だからこそ、フェリックスが「否」と言わないほどに自分に気持ちが傾いているという確信を得ていた、と推察できるのです。
そして、パブロは一世一代の公開告白に踏み切った。

断られない保証があったから愛を告げる。
これは決してパブロの保身ではありません。
すべてはフェリックスを守るためです。

フェリックスの答えが「否」だった場合、心ならずも彼が世間の好奇にさらされてしまう。
そもそもフェリックスが「否」を告げようにも、衆人環視の中、意志薄弱の傾向がある彼にそれができるはずがない。
愛する人に無用な苦しみを与えるのはパブロの本意ではないでしょう。

当たり前に存在するひとつの愛の形


聞くところによると、ウィーン版では彼らはカップリングされないとか。
パブロとフェリックスのエピソードは宝塚版独自の設定なのですね。

ふたりの描き方についてはウィーンサイドからかなり細かい要求があった、とも。
それが真実ならば、表現の繊細さに合点がいきます。

同性同士であることに取り立てて言及せず、当たり前に存在するひとつの愛の形として描写する。

これはありちゃんとおだちんの力によるところが大きいですね。
彼女らは自分たちが演じる役をよく理解しています。
宝塚という特異な集団の中で、どのように演じるか、どこまで演じるか。
緻密な計算の上に成り立つ、パブロとフェリックスだったのです。

目に見えぬ制約をクリアし、ひとりの人間として舞台に息づかせる。
作品と役への敬意が為せる業でしょう。
それゆえ、深く観客の心に刻まれたのです。
いいお芝居をみせていただきました。

ありちゃん、おだちん、月組の皆さま、齋藤吉正先生。
ありがとうございました!

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美園さくら、満開になる!+キャスト個別感想(光月/鳳月/風間/夏月/輝月/暁)│I AM FROM AUSTRIA

一日遅れのクリスマスプレゼントは月組の『I AM FROM AUSTRIA-故郷は甘き調べ-』。
これにて2019年の観劇納め。
月組(ON THE TOWN)で始まり、月組(IAFA)で終わった一年。
今年も沢山の素晴らしい作品に出会えて幸せでした。

一年の締めくくりにふさわしいハッピーストーリー。
登場人物の誰もが愛しくなる『IAFA』のざっくり感想を。

美園さくら、満開になる!


いやー!もう!
今までどこに隠れていたの!?ってくらい美園さくら全開でした!
あなたは「エマ・カーター」という役を待っていたのね、と腑に落ちました。
それほどエマとさくらちゃんがぴったりフィット。

周囲と一線を画す、歯切れよくウィットに富んだ台詞回し。
“女優”を感じさせるゴージャスな仕草。
なにより、歌!

一曲目の歌い出し。
え?何?何?誰が歌ってるの?
さくらちゃん!?

こんな声が出せるの?
こんなふうに歌えるの?

いわゆる“娘役歌唱”とは完全に別物。
『IAFA』のナンバーをモノにし、エマと同化するまで、どれほどお稽古を積まれたか…
思わずそんなことに思いが至ってしまうほど、今までと格段に違う、新しいさくらちゃんでした。

まさに「飛躍」という言葉がぴったり。
いいお役に出会え、役者冥利ですね。

愛すべきエードラーの住人たち


○エルフィー・シュラット(光月るう)
るみこさん(光月)最高ですね!大好き!
「だって、ミュージカルだもの!」の象徴のようなキャラクター。

彼女は何者ですか?
みんなを幸せにする妖精?魔法使い?

気になって調べてみたら、ドイツ語の女性名「Elfi」には「妖精、不思議な力」の意味があるらしく…
えーっ!?もしかして本当に…?
まあ、あれこれ追求するのも野暮ですね。
だって、ミュージカルなのですから!

事あるごとに繰り出されるオーストリアン・ギャグ。
個人的にはヨハン・シュトラウス父子のくだりでありえないくらい笑っちゃいました。

彼女のようにチャーミングに年齢を重ねていきたいものです。

○ヴォルフガング・エードラー(鳳月杏)
高田純次風味なパパ。
ちなつさん(鳳月)は舞台にいるとき、「あ、ちなつさんだ」と思わないんですよね。
「○○さんが演じてる役」ではなく、その人物が居る。
イメージの固定しない役者、好きです。

○フェリックス・モーザー(風間柚乃)
可愛い人たらし。
あのほっとけない感が演技だとしたら恐ろしい。

“そこに居る”人々


○ヘルタ・ヴァルトフォーゲル(夏月都)
なつこさん(夏月)が現れた瞬間、「おぉっ!」とのけぞりました。
なんなんですか、あの実存感。
いるいる、こういう人!
エマの名前を聞いて、キオスク(なのかな?)から出てきたときのただならぬ空気。
「この女性はエマにとって深い関わりのある人物に違いない」と瞬時に悟らせる力。

山小屋からの電話を受け、ささやくようにつぶやく「アデーレ…」の限りない温かさ。
あれは“母親”の声です。
(無性に自分の母の顔が見たくなりました)

母子の間に何があったか、そして何が起きようとしているのか。
おぼろげながらすべてを観客に納得させ得る芝居。

『IAFA』のMVPは、なつこさんに決定!

○ライナー・ベルガー(輝月ゆうま)
この人はどうして何を演ってもカッコいいんでしょうね~~
ピンクの長髪とか…反則。
(「ちょうはつ」と入力したら「挑発」と出たけど、あながち間違いではない)

どんなにゲスな男を演じても、にじみ出る知性と艶。
なぜゴシップ記者になったのか、彼の半生が気になります。
だって絶対只者じゃない!
人生に倦んだような態度の源はどこにあるのか…
『IAFA サイドストーリー・ライナー編』希望。

○パブロ・ガルシア(暁千星)
繊細でとてもいいお役でしたね。
「エマ、好きな人がいるんでしょ?」
「僕は君の味方だよ」

傷ついたエマの心に優しく沁み入る言葉。
他者に対する誠実。
ありちゃん(暁)の澄んだお芝居がピタリとハマったパブロ。

フェリックスへ向ける視線も情熱的でありながら、こまやかに優しく、パブロの愛の形を物語ります。
ラストはふたり並んで生きる未来が思い浮かぶような素敵なシーンでした。

怒涛の発表あれこれ


昨日から怒涛の発表ラッシュ。
ちょっと早い劇団からのお年玉でしょうか!?

なかでも注目は『ピガール狂騒曲』のヴィジュアル解禁。
深呼吸してから見てね、な画像

珠城りょうが新しい扉を開いた!

男と女のあわい、ギリッギリの妖艶を突いてきましたねぇ…
本当にあのジョージお坊ちゃまと同一人物ですか??

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美弥るりかという「価値」―男役集大成の佐々木小次郎│夢現無双

正統派男役から異端の女役まで幅広い人物を演じてこられたみやさん(美弥るりか)。
宝塚集大成のお役は剣豪・佐々木小次郎。
劇中で本阿弥光悦(千海華蘭)が小次郎の剣を「まばゆい」と評しますが、それはみやさんその人への評価に他なりません。

併演のショー『クルンテープ 天使の都』。
シンプルな黒燕尾をまとったみやさんの、ダイヤモンドの粒子をまぶしたような煌めき。
照明や衣装の力ではなく、体の内側から発光するような輝き。
千穐楽が近づくにつれ、どこか、この世の者ではないような神々しさすら感じられます。

美弥るりかという「役者」


初めてみやさんのお芝居に注目したのは、2012年秋の『愛するには短すぎる』のアンソニー。
華奢で小柄な体から発せられた、思いがけず太い声が印象に残っています。

声色や台詞回しが星組の柚希礼音さんそっくりで、やはり育ってこられた組のトップさんに似るのかな?なんて思いながら観ていました。
しかしまもなく、誰でもないみやさん自身の魅力に気づかされたのです。

まさおさん(龍真咲)演じるフレッドとの息ぴったりの掛け合い。
軽妙洒脱な持ち味が合うのか、まさるりコンビは観ていて楽しい気持ちになりますね。

時は過ぎ、珠様(珠城りょう)がまさおさんの後を継いで、月組に新たな名作が次々に生まれました。
『グランドホテル』『All for One』『BADDY』…
作品の成功に大きく貢献したのは、みやさんです。

みやさんをひとことで表すなら、“フェアリータイプ”の男役さんでしょうか?
みやさんがお好きな涼風真世さんもこのタイプでした。

中性的な容姿に反して、芸風は骨太。
そんなところもよく似た二人であるように思います。

新生月組第一作は涼風さんの卒業公演となった『グランドホテル』。
みやさんのお役は涼風さんが演じられたオットー・クリンゲライン。

華やかで溢れんばかりの色気が魅力のみやさんが瀕死の簿記係?
初めはそう思いました。
しかし、蓋を開けてみれば、そこにいたのは限りある命を精一杯に燃やし、明日への希望を信じるひとりの人間でした。
愛を信じ、友を信じ、やがて生まれる新しい命を慈しむことができる男。

色気も美貌も封印して挑んだオットー役。
男役の垣根を超えた「人間」を演じたみやさんの芝居が心の奥深くに染み入りました。

「役」は「中の人」の写し鏡


オットーの真逆がスイートハートです。
宝塚ファンを熱狂の渦に巻き込んだ『BADDY』。
最大の立役者はみやさん演じるスイートハート。
初めて観た日の衝撃は忘れません。

色香も美貌もフルスロットル。
男役・美弥るりかの魅力、唯一無二の個性を最大限に活かしきった役と言えるでしょう。

スイートハートというキャクター無しで、果たして『BADDY』はあそこまでの狂乱を生み出し得たのか?

美しく妖艶でありながら骨太。
男性と女性の粋を集めたようなキャラクター。

オットーとスイートハート。
自由自在に色気を出し入れする変幻自在の役者、美弥るりか。
「役者」というより「人」ですね。

役は、それを演じる「中の人」以上の存在にはなれない
優れた役を演じるには、役者自身が優れた人間でなければならない。
そう思います。

観るのはひたすら舞台だけ。
スカイ・ステージはおろか、紙媒体もごくまれにしかチェックすることのない私ですので、みやさんの人となりは存じませんが、お人柄は演じる役に表れると感じます。
そういう意味で好きな役は『雨に唄えば』のコズモかな?

「MAKE 'EM LAUGH」の笑いを含んだいたずらっぽい目つきが忘れられません。
くりくり動く猫のような瞳、軽やかな身ごなし、豊かな表情。
前向きな心、抜群のひらめき、逆境にくじけぬ明るい強さ。
さりげなく誰かに手を差し伸べることができる優しさ。
観ていて自然に心がうきうき軽くなる、自然体で力みのない芸。

本名のみやさんもこんな感じの方かな?と想像してしまいます。

美弥るりかという「価値」


集大成の佐々木小次郎。
端的に言えば「美弥るりかだから成立した役」ですね。

より多くのエピソードを描くことに筆が割かれた分、中心となる人物たちの書き込み不足が否めない『夢現無双』。
しかしながら、わずかな点と点を結んで線と成し、主人公・武蔵の人生を遠隔的に支配する佐々木小次郎という男を強く印象づけたみやさんの手腕は見事です。

武蔵の憧れであり、友であり、好敵手であった小次郎。
主人公に「この頂まで上がって来い」と言えるだけの度量。

なにより、劇場中の空気を一気に「美弥るりか色」に染め上げる存在感。
姿、声色、佇まい…
出てくるだけで「只者ではない」「物語の芯となる人物であろう」と思わせる説得力。

言ってしまえば、小次郎は美弥るりかという特異なタカラジェンヌの在り方に、すべてが委ねられた役なのです。

ただそこに在るだけで多くのものを観客に与えることができる役者。
それこそが美弥るりかの「価値」です。
舞台を通して沢山の喜びと希望をくださったことに感謝の気持ちしかありません。

ご卒業までまもなく。
完全燃焼の晴れやかな千穐楽となりますように。
そして、その先も、より豊かな輝きに満ちた道を歩まれますように。
心より、ありがとうございました。

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野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
月組/星組比重高めの全組観劇派。
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宝塚歌劇観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。

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