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めでたしめでたしの後に続くもの―トゥーランドットの罪と、カラフの罰│鳳凰伝

『鳳凰伝』千秋楽からしばらく。
とっちらかしていた感想をまとめながら、ふと、ひとつの疑問が脳裏をかすめました。

“トゥーランドットは良心の呵責に苛まれなかったのか?”

惨殺された祖先の復讐のため、国の繁栄のためという大義名分のもと、多くの男たちの命を奪ったトゥーランドット。
カラフが現れるまでは、その行為に何の疑問も抱かなかったでしょう。

しかし、カラフと出会い“愛”を知ってからは?

大団円を迎えた『鳳凰伝』の物語、その後どうなったのか?
「あくまでもお芝居」「無粋な解剖」とは思いますが、頭から離れません。
ご興味のある方、しばしお付き合いくださいませ。

* * *

「死はいつだって他人のものだった」
いみじくも北京の民が歌った言葉ですが、トゥーランドットにとっても“死”はいつだって他人事でした。
しかし、“愛”を知り、“命”の重さを知ってからはどうでしょう?

“死”の対極、“命(生/愛)”が身近なものになったとき、自分が当事者となるのです。
カラフの愛を得て、目覚めたトゥーランドット。

いままで軽々と、無慈悲に奪ってきた命。
愛を担保に多くの命を奪った罪は計り知れません。
ましてや、カラフとの間に新しい命が宿り、その限りない愛おしさ、かけがえのなさを知ったとき、その想いは一層深まるでしょう。

命の重さが平等ではなかった時代。
古代のお姫様は、このようなものの考え方はしないのかもしれません。
確かに他国の後継者の命を奪うことにより、自国は栄えました。
しかし、国と国の戦いではなく、愛を弄んで他国を滅ぼすその方法は極めて理不尽と言わざるを得ません。

もしもトゥーランドットが罪を自覚し、贖罪の気持ちを抱くとすれば、それはとてつもない重さで彼女の身にのしかかってくるはずです。

それは何より辛い地獄の責め苦となるでしょう。
生きながら毎日肝臓を大鷲についばまれ続けたプロメテウスのごとく、昼となく夜となく、彼女の命ある限り、絶え間なく続くのです。

愛を知る前、夢枕にペルシャ王子たちが立ったことを考えれば、潜在意識では罪を自覚していたのかもしれません。
しかし、悪夢に苛まれるくらいなんだと言うのでしょう?

彼女はいつまで謎かけを続ける気だったのか?
王子たちを惹きつける美貌が衰え、その魅力を失ったときは?
あの淫夢はやはり、自分を止めてくれる何か(誰か)を求める心の叫びだったのではないでしょうか?

カラフの愛を得たことはトゥーランドットへ下された罰である、とも言えます。
愛と引き換えに彼女が得るものは罪の自覚です。
殺戮によって軽々奪ってきた命の重さに気づく時、彼女の胸に去来するのは何でしょう?

逃げることは許されません。
忘れることも許されません。

彼女にできることは犯した罪を償うことのみ。
ひとときも休まず、二度と同じ悲しみを味わう人が現れないよう、国を富み栄えさせることが使命となります。
それしか彼女が罪を贖うすべはありません。

天は、彼女の孤独な闘いに伴走者を与えました。
カラフ王子です。
彼がすべきは、愛する女の罪を共に引き受けること。

トゥーランドットの心に平安が訪れるのは、その生涯を閉じるときでしょう。
「よく生きる者は、よく死ぬ」
彼女の命が尽きる瞬間まで、良き王として国の発展に尽くし、彼女の罪を共に背負うのがカラフの務めとなるのです。

果たして、トゥーランドットは赦しを得られるのか?

* * *

『鳳凰伝』の“その後”はどうなったか?
めでたしめでたし、とはいかなかったのではないかというのが私の考えです。
皆さまはいかがでしょうか?

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痛ましきサロメに慈悲を-アデルマ(麗泉里)について│鳳凰伝

『鳳凰伝』はコラサン国の王女、アデルマ姫(麗泉里)の妄執も見どころのひとつ。

「私はあなたの男ではなく、あなたは私の女ではない」
手ひどく拒絶されたカラフ王子(珠城りょう)に対し、「たとえ首だけになっても、あなたが欲しい」とすがるアデルマ。

サロメの求愛を拒み、首を刎ねられたヨカナーン。
銀の皿に乗ったヨカナーンの唇に口づけるサロメ。

アデルマが夢見たのは、カラフの首を貰い受け、思うままに愛撫することでしょうか?

「あなたの命は、私の愛に値しない」
カラフの愛が得られぬならばいっそ、と自身の喉元に刃を向けたアデルマにかけたカラフの言葉。
カラフはアデルマという女を見抜いていたのです。

懇願や脅迫によって得られる愛など無価値。
幼稚で自己中心的なアデルマの想いは、カラフの求める愛とは最も遠いところにあるものでした。

アデルマからカラフに向けた「たとえ首だけになっても、あなたが欲しい」は、カラフがトゥーランドットに告げた「あなたが得るのは私の首ではない。私だ」と対になる言葉です。

愛しい男の身も心もすべて他の誰かに渡すくらいなら、首だけでも自分のものにしたい。
王子の名前さえ明らかになれば、彼の想いがトゥーランドットへ届くことは永遠にない。

唯一、王子の名を知る奴隷タマル(海乃美月)へ凄惨な拷問が加えられます。
しかし、王子を密かに慕うタマルは決して口を割りません。
痺れを切らし、鞭打ち役人から取り上げた鞭を振るい、狂ったようにタマルを打ち据えるアデルマ。

「言えっ!言えーーーっ!」
癇癪を起こした幼子のように甲高い声を上げる彼女。
MY初日に観た時は、正直ちょっと迫力不足かな…と思ったのですが、次の観劇でハッと気づいたのです。

アデルマはそんな子ではなかったのですよね。
他人を憎んだり、こんな風に金切り声を上げたことだってなかっただろうに。
蝶よ花よと育てられたお姫様なのです。
何不自由なく育った彼女の人生が変わったのは、トゥーランドットの謎かけにより兄を失い、国が滅んだ時。

兄を奪い、故郷を奪った女が、今度は自分の愛しい男を奪おうとしている…
そんなことは許せない。
自分からすべてを奪った女が、愛しい男の腕に抱かれるなんて許せない。
これ以上、あの女(トゥーランドット)に髪ひとすじだって奪われてなるものか。
朝が来る前に、どうしたって王子の名前を明らかにしなければならない。

アデルマの心に思いが至った時、彼女が急にちっぽけで弱々しい存在に思えたのです。

箸より重いものは持ったことがないであろう彼女。
ましてや、鞭なんて触れたことすらなかったでしょう。
か弱い小さな体で、鞭に振り回されるように、よちよちとタマルを打ち据えるアデルマ。

可哀想な子です。
哀れな子です。

もしかしたら、アデルマはカラフに兄の面影を見たのかもしれません。
家族を失くし、国を失くし、寄る辺ない身の彼女が見つけたただひとつの希望、カラフ。
ただ、カラフの愛欲しさに、あのような行動に出ただけなのに。

「これは慈悲だ。西へ向かって歩け。西には中国さえ果てる土地がある。浄土があると思うな」
皇帝の言葉は残酷です。
自分の娘がしたことを思えば、アデルマの幼さが招いた行動などいかほどのものでしょう?
むしろトゥーランドットこそ地の果てで頭を冷やさせるべきでは?と思いましたが…

“与える愛”のタマル、“奪う愛”のアデルマ。
その形は対極ですが、どちらにもそれぞれ共感するところがあり、単純に尊卑で括れないところが『鳳凰伝』という作品の魅力と言えます。
アデルマの魂が西方浄土に辿り着けることを願ってやみません。

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その名もまた“愛”である―可愛いタマル、海乃美月について│鳳凰伝

ウェブはおろか音声の通信手段すらなかった太古の昔から、世界には共通するモチーフを軸とする物語が多くありました。

たとえば、オルフェウスとエウリュディケ。
そして、イザナギとイザナミ。

妻を亡くした夫が冥界(黄泉国)へ妻を迎えに行くが、「決して後ろを振り返ってはならない(覗いてはならない)」の禁を犯し、永遠に妻を失ってしまう。
あまりに似通ったふたつの物語。
遠く離れた『ギリシャ神話』と『古事記』にみられる、この相似性は何でしょう?

これだけではありません。
「決して○○してはならない」で、ぱっと思い浮かぶ物語(ほんの一例ですが)。
決して見てはならない→エロスとプシュケー、オオモノヌシとヤマトトトヒモモソヒメ、鶴の恩返しetc.
決して開けてはならない→パンドラの箱、浦島太郎、舌切り雀etc.
他にも、喋ってはならない、聞いてはならない、食べてはならない…
古今東西、枚挙に暇がありません。

禁じられれば禁じられるほど強く惹かれてしまう心理を扱った物語の多いこと。
『カリギュラ効果』という言葉もあるくらいですから、人間がタブーに弱いのは世の常なのかもしれません。

「秘すれば花」と言いますが、思い切って「見ろ!」「聞け!」「開けろ!」と秘密を白日の下にさらしてしまえば、神秘性が薄れ、タブーはタブーでなくなりますね。

「○○してはならない」の結末はたいてい悲劇ですが、狂言の『附子』(食べてはならない)はユーモラスでお気に入り。
うちでは夜遅くに美味しい(カロリーが高い)ものを食べる時などに「まだ死なぬー」と言い合ってます。

* * *

さて、ご多分に漏れず『鳳凰伝』にも「○○してはならない」が登場します。
それは、タマル(海乃美月)が犯した禁。
“奴隷は王族の顔を見てはいけない”。

凱旋したカラフ王子(珠城りょう)の横顔を、好奇心に駆られて盗み見た彼女。
彼女は自らが犯した禁を生涯かけて償います。

しかし、理不尽な掟ですね。
顔を見ずして、表情を読まずして、どうやってお世話をするのでしょう?
王族の機嫌は声色で判断するしかないのでしょうか?

それはさておき。
タマルが犯した禁で“王族の顔を見たこと”より深いのは“その王族を愛してしまったこと”でしょう。

たった一目でカラフに恋したタマル。
おそらく、側近くに仕え、彼の人柄を知るにつけ、恋が愛に変わったのではないかと推察しますが…

アデルマ姫(麗泉里)との違いはここ。
恋に恋して、想いが破れた時、その恋が妄執へと変わったアデルマ姫。
恋が愛に変わり、愛する人の幸福を望み、身を捨てたタマル。
他者を欲するエネルギーが、内に向いた(アデルマ)か、外に向いたか(タマル)の違いとも言えます。

「これが“愛”です!」
タマルが命を賭けて、トゥーランドットへ示したもの。

愛とは何でしょう?
愛とは希望の光であり、すべての善なるものの源であると定義すれば、タマルはカラフへ、トゥーランドットへ、そして北京の民へも“平和”という限りない未来への希望を与えたとも言えます。

“カラフが誠の愛を得る時、世界は平和に満ちる”

カラフが得た“誠の愛”は、トゥーランドットの愛だけではなかったのです。
タマルの愛もまた“誠の愛”。

なぜ、タマルは自らの肉体を貫いたのでしょう?
いくつか理由を考えてみました。

タマルがトゥーランドットに物申すには命を賭けるしかなかった。
アデルマに見返りを求めない愛を示したかった。
カラフがタマルを救うため、自ら名を明かしてしまうかもしれないと考えた。
正気を保てなくなり、カラフの名を口走ってしまうことを怖れた。

何より、この場でカラフの名を知るただひとりの人間がいなくなれば、彼の名前は誰にも分からない。
名前が分からなければ、カラフは生きながらえ、トゥーランドットはカラフのものとなる。
愛する人と自分以外の誰かの愛を成就させるために、自らの身を捨てる。

「我が主人が愛するトゥーランドット様、あなた様なら分かるはず」
私(タマル)が愛してやまないカラフ様の愛に値する人ならば、必ず“愛”というものが分かるはず。
タマルは自分の愛をトゥーランドットに託したのです。
トゥーランドットの愛がカラフに幸福をもたらすならば、それが自分の幸せとなる。
献身、自己犠牲、無償、これがタマルの愛でした。

「よく生きる者は、よく死ぬ」
カラフの言葉が、タマルに少なからぬ影響を与えたのではないかとも思います。
決して、自ら選ぶ死を美化するわけではありませんが、タマルは愛(命)の使いどころを誤りませんでした。
自身の意志により、よく生き、よく死に、その命を永遠のものにしたと言えます。

「清い血だ、たとえようもなく清い血だ」
タマルの尊い血によって、無残に流されたローウ・リン姫や異国の王子たちの血は浄められ、北京の都に平和が訪れたのです。

* * *

タマルは良い役です。
観客の共感を得られにくいトゥーランドットやアデルマに比べ、従来の宝塚のヒロイン像に合致するタマルは娘役さんにとって、演じ甲斐のあるキャラクターでしょう。
心優しく可憐、皆に愛され、愛のために命を捧げ、主人公の腕の中で死ぬ。

「可愛いタマルや」
ティムール王(箙かおる)の気持ちは、そのまま私の気持ちでもありました。
儚げで清らか、しかし、主のために物乞いまでする健気で芯の強い娘。
子守唄のシーンでは柔らかな母性すら感じさせて…

「もったいない、でも、もうタマルは、あなた様の貴いお顔が見えませぬ」
密かに慕うカラフの腕に抱かれ、しがらみ多き現世から飛び立とうとするタマル。
しかし、もはや愛しい人の顔を見る力すら残されていない。
このシーンは私の視界も霞んでしまい、美しいふたりの姿を見ることができませんでした。

「せめて、命尽きるまで」
薄れる意識の中で、ティムール王のために歌うタマル。
その無邪気さ。

最期まで他者のために尽くしたタマル。
くらげちゃん(海乃)の透き通るような美しさが忘れられません。

様々な愛の形を提示する『鳳凰伝』の女性たち。
その三本柱の一本、タマル。
その名もまた“愛”だったのでしょう。

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宝塚で『さらば、わが愛/覇王別姫』を演るなら?明日海・珠城・愛希・鳳月【妄想キャスティング】

以前「みりおさん(明日海りお)で『さらば、わが愛/覇王別姫』を観たい」と書いた私。
過去記事>“項羽と虞美人”を思わせる“鳳月杏と仙名彩世”│金色の砂漠

月組の『鳳凰伝』を観て、ますますその意(宝塚で京劇ものを観たい)を強くしました。

近代中国を舞台に、文化大革命や日中戦争など、時代の荒波に翻弄されるふたりの京劇俳優の愛憎を描く、チェン・カイコー(陳凱歌)監督の『さらば、わが愛/覇王別姫』。
「お薦めの映画は?」と訊かれたら、迷わず挙げる大好きな一本です。

レスリー・チャン(張國榮)、チャン・フォンイー(張豊毅)、コン・リー(鞏俐)ら、そうそうたる役者が繰り出す、叩きつけるような愛、憎悪、保身、背信…
登場人物が受けた痛みが、スクリーンを通して観客の身をも引き裂くような、凄まじいエネルギーに満ちた作品です。

初めて観たのは十代の終わり。
多感な年頃には強すぎる刺激でしたが、えぐり出すように描かれる人間の業に魅せられ、取り憑かれたように幾度も映画館に足を運んだものです。

* * *

紅と金に彩られた華やかな舞台。
甲高く、もの悲しい鳴り物の響き。
虚ろな役者稼業の、身に沁み通るような侘しさ、やり切れなさ。
きな臭い革命と戦争の足音の中で、愛し合い、憎み合い、傷つけ合う男と女。
弱く小さく哀しい人間たちの姿に、限りない愛おしさを覚える作品です。

現役の生徒さんでキャスティングしてみました。

女郎の母から捨てられるように俳優養成所へ預けられ、のちに女形として大成する京劇役者の程蝶衣(チョン・ティエイー)に、明日海りお。
蝶衣が想いを寄せる相手役(立役)の段小樓(トァン・シャオロウ)に、珠城りょう。
小樓の妻となる女郎の菊仙(チューシェン)に、愛希れいか。
蝶衣のパトロンの袁四爺(ユアンスーイエ)に、鳳月杏。

* * *

薄々お気づきでしょうが、ストーリーはぶっちゃけドロッドロです。
文化大革命で京劇が弾圧され、『自己批判』を強制される蝶衣と小樓。
物語のクライマックスはここ。

異常な状況下で追い詰められ、互いの心をずたずたに引き裂き合うふたり。
長年に渡る愛憎の果ての結末は…

蝶衣は救いのないキャラクターではありますが、だからこそみりおさんに演じていただきたいのです。
艶やかに、たおやかに美しい外面とは裏腹な骨太さ。
繊細さの奥に秘めた激情。
過酷な生い立ちと職業的環境により形成された複雑な内面。
みりおさんならば素晴らしい蝶衣をみせてくれることと思います。

また、本来女性である彼女が男役として舞台に立ち、男性が女性を演じる女形に扮する。
微妙な性のあわいを行きつ戻りつ、おぼろな霞のように存在することができる。
男性性や女性性をも超越したところに、みりおさんの魅力が活きるのではないでしょうか。

蝶衣と共に育ち、『覇王別姫』で名コンビとなる小樓には珠様(珠城)。
堂々たる体躯、明るく頼もしい兄貴肌。
蝶衣の気持ちは知っているが応えられない。
珠様の男役としての真っ直ぐさ、健康さ、朴念仁的な単純さが上手く作用すると思います。

日中戦争の激化と共に、小樓にも変化が訪れます。
芝居を忘れ、賭博に熱中し、身を持ち崩す。
『自己批判』の場面では、愛を裏切り、醜い保身で何もかも失う。
後半部は“堕ちていく男、珠城りょう”の真骨頂を期待できそうです。
(むしろ、とてつもなく観たい)

女郎稼業から抜け出し、小樓の妻となる菊仙にはちゃぴちゃん(愛希)。
母親と同じ元女郎、そして小樓の愛を受ける女性として、蝶衣の憎悪を一身に浴び、ライバル視される彼女。
生臭さと清らかさ、ちゃぴちゃんならギリギリのバランスで演じてくれるでしょう。

金と知性と権力と包容力、そしてわずかな怪しさをまとった大人の男を演じさせたら絶品のちなつさん(鳳月)。
蝶衣を庇護する袁四爺にぴったり。

* * *

物語のキモは、泥中の蓮のごとく煌めく愛のひとしずく。
このポイントが押さえられていれば、決して宝塚歌劇に不向きな素材とは言い切れないと思うのですが。

ちなみに、過去に外部で舞台化されています。
キャストは東山紀之(蝶衣)、遠藤憲一(小樓)、木村佳乃(菊仙)。

私の薦めで映画版を観た連れ合いは好みに合わなかったらしく「よく7回も観られたね」と半ば呆れてましたが…
なぜか舞台へは足を運んだのです。
(こちらは楽しめたようです)

私も誘われましたが、食指が動かず…
いま、猛烈に後悔しています!
観ておけば良かった!当時の自分を叱りたい!
舞台はナマモノ、迷ったら観ておけ!ですね。

* * *

映画とはまた違った、ほろ苦い味わいの原作もお薦め。
李碧華(リー・ピクワー)が著した『覇王別姫』をAndrea Lingenfelterが英訳(“Farewell to My Concubine”)、それに基づき田中昌太郎が訳したものが早川書房から出ています。

私の手元にあるのはハヤカワ文庫版ですが、これは絶版のようです。
『さらば、わが愛/覇王別姫』の中古と“Farewell to My Concubine”はAmazonにあるようです。
ご興味がありましたら、どうぞ。

余談ですが、友人に「『覇王別姫』が面白い」と申しましたら「Hello Becky??」と返されたのが忘れられません。
あの胸を掻きむしられるように美しい作品が一転、あっけらかんと陽気なハリウッド映画みたいになってしまった…

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珠城りょうが発する「お前の男はここだ=I'm Yours」の破壊力│鳳凰伝

『鳳凰伝』市川公演が今年の宝塚最終観劇でした。
月組ジャンプで一年のヅカ活動を締めくくれて幸せです。
最後の幕が降りる瞬間まで全力の舞台を届けてくださった生徒さん、スタッフや関係者の皆さま、ありがとうございました!
完全燃焼の素晴らしい千秋楽でしたね。

熱演の余韻冷めぬ本日、ティムール王役で作品に温かな父性を添えてくださった専科のチャルさん(箙かおる)の退団発表がありました。
私の宝塚初観劇の時から雪組子として活躍されていたナガさん(飛鳥裕)に続き、チャルさんまでも…
寂しい限りです。
しかし、集大成の男役姿を拝見でき、嬉しく思います。

永きにわたり、重厚な存在感で舞台を引き締めてくださったチャルさん。
新たな人生が健康で充実した楽しいものでありますよう、心よりお祈り申し上げます。

* * *

「お前の男はここだ!」
雄叫びと共に激しく銅鑼を打ち鳴らすカラフ王子(珠城りょう)。

MY初日で度肝を抜かれたシーンです。

珠様の口から「お前の男」って!!

いやー、もう…たまげましたね…
「お前の男」
「私の女」
妙に直訳感のある、ストレートな台詞。
珠様演じるカラフの口から出ると、めっぽう熱く、猛々しく、生々しく。
そして、セクシー。

「あの女は私のものだ」
うっかりすると“支配/被支配感”や“所有感”が感じられる台詞ですが、舞台に乗るとド直球な愛の言葉に聞こえるのが不思議。

私がお前の男だ=I'm Yours

極めて、原始的かつ根源的な愛のメッセージです。
北京の大観衆の前で、何のてらいもなく堂々と、高らかに愛を告白する男、カラフ。

改めて、珠城りょうという男役の個性にピタリとハマる主人公だと感じます。
堂々たる体躯から放たれる熱く湿った粘度の高い色気と、太く温かくまろやかな声の美丈夫。

カラフが発する「お前の男」「私の女」の印象は、極めてプリミティブ。
愛や性に大らかだった時代、遥か古代の神話を紐解いたような美しさがありますね。

水が低きに流れるがごとく、花が日輪へ向くがごとく(『月雲の皇子』の台詞にありましたね、この言い回し)、男が女に、女が男に惹かれる。
真っ直ぐで情熱的な言葉が心に響きます。

お前の男=トゥーランドットのカラフ。
私の女=カラフのトゥーランドット。

これらの台詞が珠様の口から発せられるのが何とも言えず好きですね。
飾り気のない、素朴な愛の言葉。
これ以上の言い回しはない、と思わせるのが『鳳凰伝』というシンプルな愛の物語の魅力なのかもしれません。

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プロフィール

野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
月組/星組比重高めの全組観劇派。
美丈夫タイプの生徒さんが好み。
宝塚歌劇観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。
◇更新情報はこちら◇
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