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魂は細部に宿る―星組『霧深きエルベのほとり』小道具展示│宝塚歌劇の殿堂

ちょっと間が空きましたが、『GODOFSTARS-食聖-/ÉclairBrillant』大劇場公演中に開催された「歌劇の殿堂」特別展示の感想の続きです。
紅ゆずるさんの特別企画「Memories of 紅ゆずる」はこちら↓
紅ゆずるの魅力、まるごと全部!宝塚歌劇の殿堂 特別企画展「Memories of 紅ゆずる」

公演展示は今年のお正月公演『霧深きエルベのほとり/ESTRELLAS』。
観劇回数最高記録を大幅に更新した思い出深い公演。
何度観ても新鮮な感動がある大好きな作品です。
霧深きエルベのほとり関連記事

○衣装展示はこちら↓
霧深きエルベのほとり/ESTRELLAS│歌劇の殿堂 星組ステージ衣装コレクション

霧深きエルベのほとり 小道具展示


左上から時計回りに。
ホルガー(美稀千種)お手製のパン、ビア祭りの女王(万里柚美)らの持ち物、オリバー(麻央侑希)が釣り上げた魚、ベティ(水乃ゆり)の婚礼のヴェールとブーケ、マルギット(綺咲愛里)のバッグ、カール(紅ゆずる)がもらった手切れ金、カールのジャックナイフ、カウフマン警部(天寿光希)の拳銃、マルギットのブーケとバッグ、アンゼリカ(音波みのり)が落としたグラス。
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左上から時計回りに。
デュッケ(瀬稀ゆりと)のご馳走(残り物?)、マルギットのトランク、オリバーのおやつ、カールとマルギットが食べたプレッツェル、フロリアン(礼真琴)の落ち葉、トビアス(七海ひろき)のパイプ、マルギットの写真。
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食品サンプル好きにはたまらない、手の込んだパンや料理の数々。
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このホットドッグが美味しそうで、11時公演のときはお腹が減って辛かったのを思い出します。
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オケピの方が毎回、一所懸命にオリバーの釣り糸の先につけていましたね。
たまに糸が絡まったりしてハラハラしました。
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カールがかつての恋人と鉢合わせする湖のレストランのシーン。
繊細な心理描写が見応えたっぷりで大好きでした。
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マルギットの写真は、公演グッズ(スチール写真)のモノクロ版。
スチールはかなり早い段階で撮影されるので、マルギットの髪は当初、短めの設定だったのでしょうか。
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未来からやってきたお金?


精巧に作られた20マルク(ZWANZIG MARK)紙幣。
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これは第二次大戦後に発行された東ドイツマルク(Mark der Deutschen Demokratischen Republik)ですね。
今回の『エルベ』の時代設定は1930年代なので、これでは未来からやってきたお金になってしまいます。
初演時の設定(1960年代)であれば、この紙幣で問題ないのですが。

…なんてことを、一緒に行った「五・七・五で語る宝塚~タカラヅカ川柳~」のみーさんと話していました。

もうひとつ時代のヒントを。
みーさんによると、カウフマン警部の銃は「ルガー P08(Ruger P08)」だそう。
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1908年にはドイツ陸軍に制式採用され、第一次世界大戦から第二次世界大戦を通じて1943年まで生産され続けた。1938年に後継モデルのワルサーP38が制式採用されるまでの約30年間、ドイツ軍の制式採用銃であった。[Wikipediaより抜粋]


こちらは『エルベ』の時代設定と矛盾しませんね。

○参考記事↓
激動の1930年代―『エルベ』の時代背景と、登場人物たちのその後│霧深きエルベのほとり

魂は細部に宿る―歌劇の殿堂見学の醍醐味


小道具担当は下農直幸さん。
ひとつひとつをじっと眺めていると、エルベの住人たちの息遣いが感じられるよう。

「魂は細部に宿る」と言いますが、小道具は舞台を彩る重要なファクター。
小さな持ち道具ひとつでも、物語を読み解くきっかけとなる
「歌劇の殿堂」を見学する楽しみはここにあります。
観劇中はなかなかじっくり観ることができませんので、こうしてゆっくり触れられる機会があるのは嬉しいですね。

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忙しかった星組祭りも、終わりと思うと名残惜しい―キャスト別感想(瀬稀/瀬央/天飛/朝水)│霧深きエルベのほとり
第三の男、ロンバルト(輝咲玲央)│霧深きエルベのほとり
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台詞からひもとく、フロリアン(礼真琴)の揺れ動く心│霧深きエルベのほとり
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紅ゆずるのぬくもりと、星組の輝きに包まれる『ESTRELLAS~星たち~』
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「夢の女」マルギット(綺咲愛里)の愛の形│霧深きエルベのほとり
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面白い芝居が観たい!―『霧深きエルベのほとり』を観て
奥深きエルベのほとり―さまざまな愛の形
一文字違いで意味深に…輝咲ロンバルトと音波アンゼリカを結ぶ「赤い糸」│霧深きエルベのほとり
「輝咲ロンバルト×音波アンゼリカ」で妄想が暴走☆彡│霧深きエルベのほとり
伝統のバトンは紅ゆずるに託された―名作の復活│霧深きエルベのほとり
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霧深きエルベのほとり/ESTRELLAS│歌劇の殿堂 星組ステージ衣装コレクション

2019年 霧深きエルベのほとり/ESTRELLAS(エストレージャス) ~星たち~│歌劇の殿堂 星組ステージ衣装コレクション。

霧深きエルベのほとり 衣装展示


紅ゆずる/カール・シュナイダー
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綺咲愛里/マルギット・シュラック
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礼真琴/フロリアン・ザイデル
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有沙瞳/シュザンヌ・シュラック
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七海ひろき/トビアス
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天寿光希/カウフマン警部
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ESTRELLAS~星たち~ 衣装展示


「第1章 プロローグ」紅/エストレージャス男S
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同、綺咲/エストレージャス女S
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左:綺咲/エストレージャス女Sの頭飾り
右:「第8章 パレード」綺咲/パレード女Sの頭飾り
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「第4章 Back!」礼/流星S
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「第5章 アスタリスク・メドレー」七海/アスタリスク男A
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今年も大当たり続出!2019年上半期観劇ランキング│作品賞は雪組と星組、観劇率7割超えは○組!

2019年上半期の宝塚観劇データをまとめました。
対象は上期(1~6月)に東宝で初日を迎えた作品まで。

2019年上半期観劇率No.1は何組?


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花組6.89%月組17.2%雪組3.44%星組72.4%宙組0%[2019年6月30日時点]
星組の「72.4%」が突出してますね。
上半期は『霧深きエルベのほとり』『鎌足』『アルジェの男』と私好みの作品が多かったため、このような結果になりました。
雪組の『20世紀号に乗って』も観劇回数こそ多くはないですが、満足度はピカイチ!

公演スケジュールの関係で宙組が0%。
『オーシャンズ11』MY初日をまだ迎えておりませんのでご容赦ください。

ちなみに昨年の結果はこちら。
花組12.5%月組35.41%雪組6.25%星組33.33%宙組12.5%[2018年12月31日時点]

作品賞


●霧深きエルベのほとり(星組)
『霧深きエルベのほとり』は温故知新、宝塚105周年の幕開けを飾るにふさわしいお芝居。
『ESTRELLAS』は星組の“いま”がギュッと詰まった、温かくて楽しくてキラキラなショー。
甘辛バランスが絶妙で、何度観ても飽きない二本立てでした。
『霧深きエルベのほとり』 関連記事はこちら

●20世紀号に乗って(雪組)
底抜けに明るくハッピーなミュージカル。
だいきほ率いる雪組でこんな作品が観たかった!
そんな願いが叶った演目。
大満足です!
『20世紀号に乗って』 関連記事はこちら

●鎌足(星組)
「歴史」とは何か?「生きる」とは?「愛」とは?「志」とは?
中臣鎌足というひとりの男の人生を通して描かれる不変のテーマ。
この物語を、書きたい、伝えたい、残したい。
物語を編む人のほとばしる情熱、鬼気迫る想い、凄まじいエネルギーを感じる作品でした。
『鎌足』関連記事はこちら

主演賞


●紅ゆずる(星組)
『霧深きエルベのほとり』カール・シュナイダーにより。
カール・シュナイダーは、紅ゆずるの登場を待っていた│霧深きエルベのほとり

●柚香光(花組)
『花より男子』道明寺司により。
柚香光の魅力大爆発!道明寺司│『花より男子』個別感想前編(城妃美伶+F4/優波・聖乃・希波)

●真彩希帆(雪組)
『20世紀号に乗って』リリー・ガーランドにより。
熱狂を生む娘役、真彩希帆(リリー・ガーランド)│20世紀号に乗って

助演賞


京三紗(専科)
『20世紀号に乗って』レティシア・プリムローズにより。
劇場に「幸せの魔法」をかけた人たち(京三紗/真地佑果/縣千/望月篤乃)│20世紀号に乗って

英真なおき(専科)
『霧深きエルベのほとり』ヴェロニカにより。
愛の難破船、ヴェロニカ(英真なおき)―すべては揺るぎない土台あってこそ│霧深きエルベのほとり

華形ひかる(専科)
『鎌足』蘇我入鹿により。
※関連記事未掲載

●白雪さち花(月組)
『ON THE TOWN』ヒルディにより。
強く、逞しく、美しく―カンパニーを牽引する娘役たち(白雪さち花/叶羽時)│ON THE TOWN

●輝咲玲央(星組)
『霧深きエルベのほとり』ロンバルトにより。
100の台詞よりも雄弁―ロンバルト(輝咲玲央)の芝居力│霧深きエルベのほとり

愛月ひかる(専科)
『アルジェの男』ジャックにより。
ジャック(愛月ひかる)が作品世界を支配する│アルジェの男

●音くり寿(花組)
『花より男子』三条桜子により。
音くり寿は宝塚の宝です/やっぱり気になる青騎司くん│『花より男子』個別感想後編(高翔/冴月/鞠花/華雅/美里)

脚本・演出賞


●生田大和
『CASANOVA』『鎌足』により。
愛!愛!愛!明日海りおと仙名彩世の愛があふれる大人のおとぎ話│CASANOVA
生田大和、会心の一作!紅ゆずる率いる星組に新たなる傑作誕生!│鎌足

●原田諒
『20世紀号に乗って』により。
ブラボー望海風斗!ブラボー真彩希帆!ブラボー雪組!『20世紀号に乗って』で大満足!

2019年上半期まとめ


再演や翻訳物が多数を占めるなか、新作の『鎌足』が光った上半期。
下半期も座付き作家が存分に腕を振るえる機会がありますように。

本公演では『GOD OF STARS-食聖-』『A Fairy Tale -青い薔薇の精-』『El Japón -イスパニアのサムライ-』の3作。
小劇場公演では『チェ・ゲバラ』『ハリウッド・ゴシップ』の2作に期待が高まります。

本公演のうち2作はトップスターの卒業公演。
宝塚人生の集大成となる作品が素晴らしいものであるように願います。

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愛の難破船、ヴェロニカ(英真なおき)―すべては揺るぎない土台あってこそ│霧深きエルベのほとり

平成エルベを成功に導いた功労者、専科のお二人。
前回のヒロさん(一樹千尋)に続き、ハンブルグの酒場プローストの看板娘ヴェロニカを演じたジュンコさん(英真なおき)について。
父権社会の権化―ヨゼフ・シュラック(一樹千尋)のパターナリズム│霧深きエルベのほとり

愛の難破船、ヴェロニカ


海に出たまま帰らぬ夫を20年以上待ち続けるヴェロニカ。
どんな想いで日々を過ごしていたのか?

彼女の台詞にヒントがあります。
プロローグ(ビア祭)の「あたしの昔の亭主に似てる」。
ビア祭最終日の夜の「あたしの昔の亭主に似てるねえ」。

ほぼ同じふたつの言葉。
どちらもカール(紅ゆずる)に向けられたものです。

夫は生きているのか、死んでいるのか。

帰港予定日を過ぎても帰ってこない夫。
一日や二日の遅れならばともかく、一週間が一ヶ月になり、一年になり…
何の音沙汰もなかったとしたら?

こんなに辛いことはありません。
寂しくて、悲しくて、不安で、気も狂わんばかりだったでしょう。
ヴェロニカが幾度眠れぬ夜を過ごしたか。
考えるだけで胸が痛くなります。

何か手がかりはないか?
誰か夫の消息を知る人はいないか?
できることなら世界中の港を回って夫の行方を確かめたい。

いっそもう、この世の者でないなら、それはそれで良いのです。
諦めがつきますから。
『浅茅が宿』ではありませんが、愛する人の生死が分からないのが最も始末が悪い。

消えた男を忘れるには、新しい男を作るのが一番ですが、そうはせず待ち続ける。
一途で深く悲しい愛です。

やがて時は流れ…
よもや夫が帰ってくるとは彼女自身信じてはいないでしょう。
しかし、一縷の望みを捨てていないことは明らかです。

もしかして、自分が待つ港へ帰ってきてくれるかもしれない。

わずかな希望を胸にひたすら待ち続けるヴェロニカの心は、帰る港を見失い、永遠に海を漂う小舟のような頼りなさです。

これならば、愛する女を手酷く打ち捨て、すっぱり諦めさせたカールの方がまだ誠実です。
未練ほど厄介なものはありません。

「あたしの昔の亭主に似てる」
カールが本当に似ていたのかは分かりません。
ヴェロニカにとって「いい男」は誰でも「昔の亭主に似た男」なのかもしれません。

すべては揺るぎない土台あってこそ


この記事を書きながら初めて気づいたのですが、ヴェロニカは物語の最初と最後にしか登場しないのですね。
なのに凄いインパクト。

ロンバルト夫妻もですが、短い登場シーンで鮮やかな存在感を示す生徒さんの多いこと。
優れた演技で作品の土台を固める役者がいてこそ、作品全体が上向くのです。

ビア祭り最終夜、カールがヴェロニカにすがって本音を吐露するシーンは『霧深きエルベのほとり』のハイライトです。

カールは本当に酔っていたのか?
それとも、酔ったふりをしていただけなのか?

これは後者だと思います。
この夜は、どれだけ飲んでも酔えなかったでしょう。
飲んでも飲んでも酔えない苦い酒。

「幸福(しあわせ)に幸福に暮らせよ、なあ、幸福になれよマルギット!幸福になれマルギット、幸福になれ、幸福になれ、幸福に…マルギット…マルギット…」

ただただ愛する人の名前を呼び、幸福になれと繰り返す。
不器用で飾りがないだけに、想いの深さが際立つ言葉。
真摯な響きに胸を打たれます。

心からの愛、心からの願い。
ただ愛する人に幸せになって欲しいと望む心。

紅さんの張り裂けるような叫びに、何度も貰い泣きしました。

女は港、かりそめの恋人、かりそめのお母さん


「ヴェロニカ、あんたを、マルギットって呼んでもいいか」
「いいよ、呼んでみな」
昔の亭主に似た男に言い寄られる。
悪い気はしないでしょう。

ほんの軽いいたずら心で引き受けた身代わり。
一瞬、昔を取り戻したような華やいだ気持ちもあったかもしれません。

しかし、そんな甘い夢はすぐさま破られます。
「俺あ、ほんとうはねえ、お前が好きで好きでたまらねんだよぉ」
酔っぱらいの戯言とは思えぬ、真に迫ったささやき。
ヴェロニカの顔から世をすねたような笑みが消え、怪訝な表情が浮かびます。

「お前のためなら死んでもいいと思ってるんだよ」
切々と掻き口説くカールの言葉に、ヴェロニカの顔色が見る見る変わっていくのですね。

カールの目の前には本当にマルギット(綺咲愛里)がいて、彼女へ思いの丈を伝えているのです。
その目はヴェロニカを見てはいず、ただ中空に浮かぶ愛する人の幻を追っている。

カールの想いが存外、真摯なものだったと気づいたときのヴェロニカが見せるなんとも言えない表情。

憐れむような、愛おしむような。
永遠に愛を失った者同士、カールの内に自分の姿を見たのでしょうか?

カールは客席に背を向けている。
しかし、観客はヴェロニカの表情の変化で、カールの心を読み取ることができる。

芝居とは少なからず、「こうあって欲しい」と思いながら展開を見守るものです。
しかし、その意識が消え、ただ登場人物の心に寄り添い、彼らの想いを共有するだけの境地に至ることがあります。
役の人生を共に生きるような、自分が透明になって舞台と一体化するような、そんな幸福な瞬間。
このシーンがまさにそう。

ままならぬことをすべて飲み込み、黙ってカールの背中をさすり、あやすように優しく語りかける。
幼子を包み込む母にも似た深い愛。

物語冒頭で「女は港さ、かりそめの恋人、かりそめのお母さん」と歌うヴェロニカ。
まさに、このシーンではカールを優しく迎える港になり、マルギットの身代わりとしてかりそめの恋人となり、温かく包み込むかりそめのお母さんとなったのです。

泣きそう、というか、泣きました。
ジュンコさんの膝のぬくもりが伝わってくるようで。

平成エルベのヴェロニカがジュンコさんで良かった。
ジュンコさんのヴェロニカが観られて良かった。
心よりそう思います。

一筋に道を定めた方の輝き。
若い枝にはない花実が咲くこともあるでしょう。
専科の存在意義と有り難みを再確認した公演でした。

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何せうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ│宝塚は夢まぼろしの如くなり

『霧深きエルベのほとり』の素晴らしさは幕開き。
「〽鴎よ 翼にのせてゆけ」の歌声と共に、銀橋に姿を現す紅カール。
ぐーっと物語の世界へ引き込まれます。

ところで「カモメよ~」ならカッコいいのに「スズメよ~」「アヒルよ~」「カラスよ~」がカッコつかないのはなぜ?
「ツバメよ~」は割とイケる?
この違いは何?と考えたところ「“渡り鳥”はカッコよく仕上がる」という結論に達しました。

カール・シュナイダーも港から港へ…の渡り鳥ですもんね。
男は船、女は港。
彼が錨を下ろせる港はあるのか?

観劇意欲が湧く作品タイトルってどんなの?


動物の名前を冠した作品は多くあります。
『ヴェニス、獅子たちの夢』、『黒豹の如く』、『Gato Bonito!!―ガート・ボニート、美しい猫のような男―』etc.
(ネコ科が多い?)

では、鳥は?
真っ先に朝海ひかるさんの『アルバトロス、南へ』が浮かびました。

Albatrusはアホウドリ。
警戒心が薄く、捕まえるのが容易なことから、阿呆と名づけられた渡り鳥。

『アルバトロス、南へ』の意味は想像でしかありませんが…
人を疑うことを知らない純真無垢な鳥が、愚直に、ひたすらまだ見ぬ世界(南)を目指す。
踊って踊って踊り続けたコムさん(朝海)の宝塚人生に重ねたのでしょうか?

男役を「翼あるもの」にたとえるならば。
己の夢または大義のため、愛する人のため、行き着く先は破滅と分かっていても、翼折れるまで羽ばたき続ける一羽の鳥。
「滅びの美学」を体現する男役のイメージにぴったりです。

心惹かれるタイトルであれば、ぐっと観劇意欲がかきたてられるもの。
「観たい」と思える作品名をピックアップしました。

・あの日薔薇一輪
・琥珀色の雨にぬれて
・真紅なる海に祈りを
・たまゆらの記
・白昼の稲妻

簡潔で、“その先”を知りたくなる、ポエティックな余韻が残るものに食指が動きます。
(念のため調べたところ、すべて柴田侑宏先生の作品でした)
(我ながら趣味が一貫している)

何せうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ


上記はあくまでタイトルだけの好み。
内容も含めてなら大野拓史先生の『NOBUNAGA<信長> ―下天の夢―』が好きです。

『夢の浮橋』に『一夢庵風流記 前田慶次』と、大野作品には「夢」がつくタイトルが多いですね。
(『一夢庵風流記』は原作通りですが)

「夢」は儚く、おぼろなものの象徴。
『NOBUNAGA』冒頭では信長(龍真咲)が「敦盛」を舞います。

“人間五十年 下天のうちを比ぶれば 夢幻の如くなり 一度生を享け 滅せぬもののあるべきか”

人の世の無常を謳う「敦盛」。
「夢」のキーワードで浮かぶのは、室町時代の歌謡集『閑吟集』の一首。

“何せうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ”

この場合の「狂う」は、現在で言う「精神に異常をきたす」ではなく、「脇目もふらず何かに熱中する」ことを指します。
拙訳すれば「まじめくさってどうする、人生はひとときの夢、ならば我を忘れて楽しめばいい」といった意味でしょうか。

祖母の蔵書から、この歌を知ったのは小学生の頃。
居直ったような投げやりと裏腹の、不思議な熱っぽさ、爽快感。
意味はおぼろげながら、ずっと心に残る言葉でした。

『閑吟集』が編纂された室町後期は乱世。
明日をも知れぬ命。
ならばこの瞬間、むさぼるように生を味わい尽くそうじゃないか。
“何せうぞ”には諦めとは真逆の、強い生への渇望が感じられます。

現代に置き換えても、仕事、趣味、人…
何かに熱中すること。
それは対象から生きるエネルギーを受け取り、また、自身の命を燃やすことに他なりません。

宝塚の魅力も「夢幻の如く」「一期の夢」。
夢のひとかけらを積み重ねて105年。

好きな生徒さんがいて、好きな組があって、好きな脚本家がいて。
“今の宝塚”を好きでいられることは奇跡なのです。

無理せず、できる範囲で、しかし一心に。
「ただ狂い」たいものですね。

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Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共にまもなく30年(ブランクあり)。
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