FC2ブログ

謎の男(瀬央ゆりあ)が伝えたかったこと―汶族流・命のリスクヘッジについて│眩耀の谷

『眩耀の谷』の好きな台詞に「春の光は同じくして、人は同じからず」があります。
人の世がどう移り変わっても、季節はただ巡るのみ。
当たり前が当たり前でなくなりつつある今、ひとしお胸に迫る言葉です。

『眩耀の谷』と『阿弖流為』を比較する


『眩耀の谷』のテーマのひとつは「民族の融和」です。
主人公は、流浪の民・汶族をルーツに持つ、周国の若武者・丹礼真(礼真琴)。

汶族の聖地「眩耀の谷」の黄金を狙う周国。
そうとは知らず、異民族に豊かな文明をもたらそうと亜里の地へ向かう礼真。
やがて周王の真の狙いを知り、理想と使命、父の国と母の国の板挟みになる礼真。

同じ琴ちゃん(礼)主演の『阿弖流為』との相似が言われる『眩耀の谷』ですが、大きな違いは「戦わずして生き延びる」ことですね。
守りべきもののため命を懸けた阿弖流為(蝦夷)。
守りべきもののため戦わずして逃げた礼真(汶族)。

“肉体は滅んでも、志は不滅”散り際の美しさに心惹かれる物語│阿弖流為

『眩耀の谷』のキーマンとなるのは、礼真を谷へ導く謎の男(瀬央ゆりあ)。
配役発表時から宝塚ファンの注目を集めた役でしたが、その正体は大方の予想どおり汶族の先代の王・麻蘭でした。

この世に未練を残して死んだ麻蘭は礼真の前に現れます。
ただひとつのメッセージを伝えに。

どこか飄々と憎めない持ち味が存分に活きた、せおっち(瀬央)の麻蘭。
しかし、彼女の真骨頂は礼真を諭す、この言葉。

「俺は仕掛けられた戦に向かった。眩耀の谷を守り抜くことだけを考え…。しかしそれで多くの命を失った。先代たちが何故、戦わずして、その土地から逃れてきたのか、考えもせずに」

作品のキーポイントとなる台詞。
せおっちは観客の胸にまっすぐ届く芝居で物語の流れを大きく変えました。
彼女の価値は、この実直さにあります。

攻撃されるたびに逃げたからこそ、礼真が生まれた。
たとえ逃げ切れずに全滅しても、誰かがひとりでも生き延びれば、そこからまた命がつながる。
そうやって汶族の血と文化を守ってきた。

しかし、復讐に燃え、血にはやる汶族の若者たちはそれでは収まりません。
絶体絶命の窮地に追い込まれた彼らは口々に積年の思いを叫びます。

「俺は戦って、この地の土になる、それで本望だ」
「俺も、死すとも悔いはなしだ」
「父や兄の仇討ち」
「戦って汶族の誇りを見せてやる」

命と誇りを引換えにする。
玉砕主義とも言える彼らの価値基準は「阿弖流為的」です。

謎の男(瀬央ゆりあ)が伝えたかったこと


麻蘭王の言葉を聞いた礼真の使命は、彼らに王の言葉を伝え、新しい道を指し示すこと。
麻蘭王と同じ轍を踏ませてはならない。
生きて命をつなぐことが麻蘭王の望みである、と。

礼真の必死の説得。
汶族の心が解け、彼を新しい王に迎え、新天地を目指す終盤は感動的でした。

戦いはもう見たくはない。
守りべきものは尊き命。

力強く歌い、自らを励ましながら、一歩一歩地面を踏みしめ進む人々。
強い者が弱い者を支え、誰一人置いてけぼりにしない汶族の隊列。
遙か高みから、満足そうに微笑む麻蘭王の姿が心に残ります。

負けるが勝ち。
肉を切らせて骨を断つ。
汶族流・命のリスクヘッジが新時代の判断と描く『眩耀の谷』。

謝珠栄先生と星組生の熱いメッセージが詰まった作品が、今このタイミングで上演されたのは不思議な符合です。
世界が同じ病に苦しめられた今年。
まさに“あの流行り病”が蔓延する周国とオーバーラップし、舞台を観ながら様々な想いが頭の中を駆け巡りました。

↓ブログランキングに参加しています↓
よろしければ応援クリックお願いします

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 宝塚歌劇団へ
↓Twitter(ブログ更新情報)↓
‎@noctiluca94

○『眩耀の谷/Ray』関連記事はこちら↓
終わりよければ全てよし!『眩耀の谷/Ray』見納め!沢山の喜びと幸せをありがとう!
丹礼真(礼真琴)の希望の火―『出エジプト記』がオーバーラップする『眩耀の谷』
観劇って気持ちいい!ますますヒートアップする『眩耀の谷』&ボルテージ最高潮な『Ray』
悪人は楽しい!「最低↓」を「最高↑」に演じる役者、輝咲玲央(丞相)│眩耀の谷
黄金の価値がある台詞―『眩耀の谷』のキーパーソン、父(輝咲玲央)の教え
覇星現る!星を率いる者、礼真琴│眩耀の谷
ピンチをチャンスに!下級生チーム分けのメリット/BパターンMY初日の見どころメモ│眩耀の谷
信じるに足る男役、ひろ香祐―タカモクについて│眩耀の谷
父親力抜群!輝咲玲央は星組のパパ!?│眩耀の谷
百央(大輝真琴)の恩返し―優れた役者は想像力を刺激する│眩耀の谷
最高の幸せ!誕生日観劇してきました!│眩耀の谷
星男のチョンマゲの下には「遊び心」が隠れてる│Ray -星の光線-
宝塚は「観る点滴」!半年ぶりの星組で生き返った!│眩耀の谷
カイラ(綺城ひか理)とクリチェ(天華えま)、バディの言葉│眩耀の谷
宝塚がくれる幸せ―星組再開に寄せて│眩耀の谷
星組復活!セカンド初日を観てきました!│眩耀の谷
星組公演中止―再び幕が上がるその日まで
鬼才、現る!?「Love Ray ズン」東宝ダジャレデザート復活第一弾!│眩耀の谷
愛月ひかるさん、東京宝塚劇場にお帰りなさい! - 七夕、星に願いを -
ついに東京宝塚が動き出す!星組『眩耀の谷/Ray』初日は7月31日!
東京宝塚劇場再開は星組『眩耀の谷/Ray』からに決まり!?
2020年5月3日、幻の星組千穐楽│眩耀の谷
宝塚再始動!星組千穐楽と万里柚美さんのこと│眩耀の谷
公演再開!やっぱり宝塚は私の元気の素!&貸切チケット払い戻し備忘録│眩耀の谷
宝塚歌劇公演中止―いまの気持ちと、これからのこと│眩耀の谷
礼真琴×カンフー(中国武術)!そんなの「最高」に決まってる!│眩耀の谷
礼!麗!令!…霊!?さまざまな“Ray”に期待が高まる『Ray -星の光線-』
無邪気な笑顔でプロテイン補給する礼真琴???―眩耀の谷 稽古場キャストボイス
ネタバレ全開!?妄想に拍車がかかる『眩耀の谷』人物相関図
星組名物!?客席降り連続記録更新!『Ray -星の光線-』稽古場キャストボイスにわくわく!
丹礼真(礼真琴)は真心あふれる真っ直ぐで誠実な人物?―漢字でひもとく眩耀の世界│眩耀の谷
謎の男って誰!?管武将軍(愛月ひかる)は白か黒か!?妄想が膨らむ『眩耀の谷』配役発表+グループ分け配役図
「お前(紅ゆずる)以上に幸せになってやる!」が早くも実現!?礼真琴の決意が見える『眩耀の谷』ヴィジュアル公開
思う存分に光り輝け!星組新トップコンビ(礼真琴・舞空瞳)お披露目、は星尽くし☆彡│眩耀の谷
スポンサーサイト



舞台のエクスタシー│阿弖流為

数日前の記事で、蝦夷の誇りをかけて身を捨てた阿弖流為(礼真琴)と仲間たちの姿に、寺山修司の一節が重なったことを書きました。

“マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや”

命と引き換えにできるほどの、信じるに足る理念を持つ者は幸せなのか?

乳白色の霧に視界を閉ざされ、伸ばした指の先すら定かでない。
進むべき道、目指すべきものが不確かなほど、心細いことはありません。
心身の軸が定まらないような不安、憂鬱、閉塞感。

阿弖流為の物語が胸を打つのは、ひとえに彼らの真っ直ぐさゆえでしょう。
為すべきことを為し、人生を駆け抜けた彼ら。
その迷いなさに清々しさすら覚えます。

もちろん、命は軽々と捨てられていいものではありません。
現実世界で必要以上に死を美化するのはいただけませんが、物語の中ならば話は別。
己の信義のために死をも厭わぬ人物、その潔さには心惹かれます。

散らば花のごとく。
(これも大野先生の作品ですが)散り際の美学にことさら胸打たれるのはなぜでしょう?

舞台という圧縮された時空間の中で、観客は役者の身を借りて、その人生を生きます。
人が社会と切り離されては生きられない存在である以上、実生活を送る上で儘ならぬことは付き物。
ひととき日常から離れて、非現実の物語に身を任せるのも舞台鑑賞の醍醐味でしょう。

不謹慎を承知で申し上げれば、すべてのものから解放される“死”は最高のエクスタシーであるとの言葉もあります。
観客が役者の体を通して味わった喜びも悲しみも怒りも、涙で洗い流され、昇華される。

演劇において、役者の死によって得られるカタルシスが観客に激しい快感をもたらすと言っても良いでしょう。
その恍惚が舞台の感動となって記憶に残るのかもしれません。
“役者と乞食は三日やったらやめられない”と言いますが、観客も三日やったらやめられませんね。

* * *

阿弖流為感想(1)(2)(3)(4)(5)はこちら。
阿弖流為(礼真琴)×坂上田村麻呂(瀬央ゆりあ)、役に生きたふたりの男│阿弖流為
男たちの爽やかな生き方に憧れる/音咲いつき/天華えま/綾凰華│阿弖流為
“肉体は滅んでも、志は不滅”散り際の美しさに心惹かれる物語│阿弖流為
両雄並び立つ―礼真琴と瀬央ゆりあについて│阿弖流為
宝塚の子役ってどうしてこんなに可愛いの!?菟穂名の天彩峰里ちゃん│阿弖流為

↓ブログランキングに参加しています↓
よろしければ応援クリックお願いします

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 宝塚歌劇団へ
にほんブログ村

↓Twitterやってます↓
更新情報メイン(たまにつぶやき)

‎@noctiluca94

宝塚の子役ってどうしてこんなに可愛いの!?菟穂名の天彩峰里ちゃん│阿弖流為

宝塚の子役ってどうしてこんなに可愛いの!?

いつも不思議で仕方ありません。
宝塚の子役って本当に子どもに見えるんですよね。
確実に成人女性が演じているはず(すみれコード)なのに、あの愛くるしさ!

『阿弖流為』でヒロイン佳奈の義弟、菟穂名(うほな)を演じた天彩峰里ちゃん!

やんちゃで愛くるしくって、でもしっかり一人前の男で…とっても愛しくなりました。
宝塚の娘役さんが演じる子役(少年役)の可愛さって尋常じゃないですよね!

『るろうに剣心』で弥彦を演じた彩みちるちゃんにも驚かされましたが…
少年期特有の体と心のアンバランスゆえの小憎らしさまで見事に表していましたね。

実際の子どもと並べたら、そりゃいかにも芝居じみてて不自然極まりないことは百も承知ですが。
女性が男性を演じる宝塚だからこそ成り立つのが、あのデフォルメされた子役像なのですね。
宝塚ならではの“子役の型”にハマると、現実の子ども以上の子どもとなる。

故郷を焼き払われ、兄嫁の佳奈と共に落ち延びてきた菟穂名。
夫や家族を失くし、寄り添うように生きるふたり。

義姉を守るのは自分だと言いたげに、気丈に振る舞う姿が涙を誘います。
健気で可愛くて。
佳奈にまとわりつく姿は子犬のよう。
もしかしたら、佳奈にほのかな想いを寄せていたのかもしれません。

阿弖流為らは蝦夷の誇りをかけて戦いましたが、菟穂名もまた、少年ながら立派な蝦夷の男として生を全うしました。

都の広場での小競り合いに巻き込まれ、必死に佳奈を守ろうとする菟穂名。
殴られても、蹴られても、打ちのめされても、何度でも立ち上がる。
清楚で愛らしい娘役さんが、地べたをコロコロ転げ回る姿。

「蝦夷は人ではない。鬼だ。化物だ」
いとけない子どもを小突き回し、命を奪うほどに痛めつける朝廷の役人たちの所業こそ鬼です。

面白半分のように嬲り殺された菟穂名。
どんなに苦しかったか…

野辺送りのシーンは好きな場面のひとつです。
「あの子は甘えん坊でひとりで眠ることもできなかった」と語る佳奈。
柔らかな少年のぬくもりが伝わってくような台詞。
佳奈の喪失感を思うだけで胸が締め付けられます。

「佳奈からひとときも離れなかったのは、佳奈を守りたかったからだ」
同じ男として、同じく佳奈を想う者としての阿弖流為の言葉。

年若くとも、男の矜持を知っていた菟穂名。
大きくなったらどれだけ勇敢な戦士となったことでしょう。

役のひとりひとりが生き生きと、脚本には描かれていない部分をも想像させてしまう。
そんな舞台が私は好き。
『阿弖流為』は正に、そんな作品だったのです。

愛くるしい風貌で歌上手な峰里ちゃん。
本来の娘役さんとしてのご活躍も楽しみです。
(『うたかたの恋』のマリーを観てみたい…)

* * *

阿弖流為感想(1)(2)(3)(4)はこちら。
阿弖流為(礼真琴)×坂上田村麻呂(瀬央ゆりあ)、役に生きたふたりの男│阿弖流為
男たちの爽やかな生き方に憧れる/音咲いつき/天華えま/綾凰華│阿弖流為
“肉体は滅んでも、志は不滅”散り際の美しさに心惹かれる物語│阿弖流為
両雄並び立つ―礼真琴と瀬央ゆりあについて│阿弖流為

↓ブログランキングに参加しています↓
よろしければ応援クリックお願いします

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 宝塚歌劇団へ
にほんブログ村

↓Twitterやってます↓
更新情報メイン(たまにつぶやき)

‎@noctiluca94

両雄並び立つ―礼真琴と瀬央ゆりあについて│阿弖流為

死して後、不滅の魂を手に入れた阿弖流為。
正史に残る記録は少ないですが、彼にまつわる伝承は数多く残されています。

阿弖流為が蝦夷のために為したこと。
田村麻呂との友情。
今なお語り継がれる阿弖流為の伝説は、彼らがいかに人々に愛され続けているかを物語ります。

そんな人物を、誇らかに熱く演じきった琴ちゃん(礼真琴)。
芝居・歌・踊り、いずれも非常に高いレベルで安定。
中心に立って劇場の空気をぐいぐい動かす力の強さ。
その気流に乗るのは観客にとっても心地よいもの。
思う存分、物語の渦に飲み込まれることができました。

友人は「帰り道に目がしょぼしょぼするほど泣いた」そうですが、同感。
舞台と客席の温度が等しいので、安心して物語に身を委ねることができるのですよね。
役者と観客が同じ熱を感じられること。
芝居において、これはとても大事です。

特筆すべきは、その卓越した身体能力。
激しく踊った直後に歌う。
飛び込んできた佳奈(有沙瞳)を軽々抱き上げたまま静止する。
映像のタイミングと寸分違わぬ剣舞を披露する。
田村麻呂との一騎打ちでは片手ブリッジから瞬時に起き上がる。
弓や剣を構えるポーズも美しく、全身が強いバネのよう。

* * *

敵対する立場でありながら、阿弖流為と友情を結んだ坂上田村麻呂を演じたせおっち(瀬央ゆりあ)。
彼女の男役としての個性と役柄がピタリとハマり、素晴らしい効果を上げました。

せおっちって、居そうでなかなか居ないタイプの男役さんではないですか?
若竹のように真っ直ぐで、濁りのない清らかさ、瑞々しい少年性が最大の魅力。

優れた武人でありながら、その潔癖さゆえに周囲の空気から浮き上がる様子も。
権謀術数渦巻く朝廷とは別の世界に生きる阿弖流為の爽やかさに惹かれたのは必然だったのかもしれません。

とは言え、田村麻呂が身を置く世界はやはり朝廷なのです。
蝦夷討伐を控え、滝行に勤しむ田村麻呂。
配下の惡玉(夢妃杏瑠)に別れを告げるシーン。
「この先の戦いはお前たちには見せたくない」
彼の孤独と悲壮な覚悟が胸に迫ります。

武人としての鎧の奥に秘めた想い。
短い科白と、わずかな目の配りで示したのは見事。

主君に使える妹、全子(音波みのり)への問いかけ。
「主上は慈しんでくださるか?」
身近な者に対する限りない優しさに、彼の本質が窺えます。

必死の嘆願空しく、阿弖流為の命を救うことが叶わなかった田村麻呂。
しかし、友の面影を宿す少年・星丸によって彼の心もまた光を取り戻すのです。

一度は消えかけた心の火を再び灯したのは亡き友の魂だった。
“永遠”を感じられる美しい物語でした。

本来の清らかさに、押し出しの良さが加わったせおっち。
華と実力を兼ね備え、舞台を圧する存在感の琴ちゃん。

“両雄並び立つ”とはこのことでしょうか?
今後のふたりがどのような男役として成長していくのか。
互いに切磋琢磨する姿をリアルタイムで追える喜び!
あぁ、幸せ!

* * *

阿弖流為感想(1)(2)(3)はこちら。
阿弖流為(礼真琴)×坂上田村麻呂(瀬央ゆりあ)、役に生きたふたりの男│阿弖流為
男たちの爽やかな生き方に憧れる/音咲いつき/天華えま/綾凰華│阿弖流為
“肉体は滅んでも、志は不滅”散り際の美しさに心惹かれる物語│阿弖流為

↓ブログランキングに参加しています↓
よろしければ応援クリックお願いします

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 宝塚歌劇団へ
にほんブログ村

↓Twitterやってます↓
更新情報メイン(たまにつぶやき)

‎@noctiluca94

“肉体は滅んでも、志は不滅”散り際の美しさに心惹かれる物語│阿弖流為

“マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや”

『阿弖流為』観劇後、素晴らしかった舞台を反芻していたら、ふと寺山修司の一節が浮かびました。
なぜ阿弖流為の物語にこんなにも深く心を打たれるのか?

マッチを擦る一瞬、小さな炎の向こうに浮かぶ霧深い海。
乳白色に濁った視界の先は何も見えない。
私には命と引き換えに守るほどの祖国はあるのだろうか。

蝦夷の未来と、人としての誇りを賭けて戦い、果てた阿弖流為。
朝廷のため、武人として職務を全うした田村麻呂。

立場は違えど、命にかえても守るべきものがあったふたり。
寺山の言う“祖国”が彼らの信条を示すものとして、これに該当します。

信じるに足る理念を持たず、命を賭けるほどの価値あるものを持たない者の鬱屈を歌った“マッチ擦る-”。
かたや、守るべきもののために身を捨てた阿弖流為、蝦夷たち、そして田村麻呂。

* * *

メリハリのきいた演出が特徴の大野先生ですが、今回うなったのは阿弖流為(礼真琴)処刑の描き方。
阿弖流為から別れの盃を受ける田村麻呂(瀬央ゆりあ)。
逡巡の末、その盃を干したのを合図に暗転。

舞台に光が戻った刹那、目に飛び込むのは阿弖流為と母礼(綾凰華)の首級。
ショッキングな場面でした。

べちゃべちゃした愁嘆場にせず、スパリと断ち切る巧さ。
お見事!と言うより他ありません。

阿弖流為と母礼の不在を、容赦なく視覚に訴えかけるふたつの物体。
むごたらしい朝廷の仕打ち。
儚く消えた友の命。
切れ味鋭い演出に、観客は田村麻呂の無念をも疑似体験することができるのです。

しかし、見方を変えれば、阿弖流為の魂は肉体から解き放たれ、あくまでも爽やかに潔く世を去ったのだと思わせる光景でもあります。

そして、場面は春爛漫のみちのくへ。
季節は巡り、蝦夷の心は子に引き継がれ。
阿弖流為が命と引き換えに守った世界はこんなにも美しく輝いている。

肉体は滅んでも、その志は不滅。
為すべきことを為し、真っ直ぐに人生を駆け抜けていった彼ら。
その眩しさ、愛おしさ。
深く心に残る作品となりました。

* * *

阿弖流為感想(1)(2)はこちら。
阿弖流為(礼真琴)×坂上田村麻呂(瀬央ゆりあ)、役に生きたふたりの男│阿弖流為
男たちの爽やかな生き方に憧れる/音咲いつき/天華えま/綾凰華│阿弖流為

↓ブログランキングに参加しています↓
よろしければ応援クリックお願いします

にほんブログ村 演劇・ダンスブログ 宝塚歌劇団へ
にほんブログ村

↓Twitterやってます↓
更新情報メイン(たまにつぶやき)

‎@noctiluca94

プロフィール

野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共に30年(ブランクあり)。全組観劇派。美丈夫タイプの生徒さんが好み。谷正純・酒井澄夫・木村信司・大野拓史作品が好き。観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。

◇更新情報はこちら◇
Twitter‎@noctiluca94

ブログ内検索とタグクラウド

最新記事

カレンダー

06 | 2021/07 | 08
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

カウンター

宝塚歌劇団人気ブログランキング

にほんブログ村ランキング

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
11位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
演劇
2位
アクセスランキングを見る>>

ブロとも一覧

ブロとも申請フォーム

noctilucaにメッセージを送る

お名前:
あなたのメールアドレス:
件名:
本文:

QRコード

QR

**