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ファム・ファタール比較│『激情』の愛希れいかと『凱旋門』の真彩希帆、そして『マノン』のマノン

愛月ひかる主演公演『マノン』。
久々にドハマリしそうな匂いがプンプンする作品です(気が早い)。

20年前の初演は観ていませんが、あらすじを読むだけで面白そうな予感がむくむく湧いてきます。
ファム・ファタールもの大好きなんです。

「にもかかわらず」の女、カルメンとジョアン


強い自我を持ち、男を惑わし、狂わせる女。
いわゆる“ファム・ファタール”。

宝塚作品でパッと思いつくのは『激情』のカルメン。

カルメンほどの毒はありませんが、さらにタチが悪い(?)のが『凱旋門』のジョアン。
ふわふわと無邪気に男を翻弄する女。

「おまえよりいい女はいくらでもいるのに」と男に言わせる女。
なのに、愛さずにいられない。

カルメンもジョアンも「なのに」「にもかかわらず」の女。
欠点を補って余りある魅力に満ちているのですね。

ちなみに私、宝塚の全作品・全ヒロインで一番好きなのが『凱旋門』で真彩希帆さんが演じたジョアン・マヅーなのです。
きぃちゃん(真彩)の持ち味からは遠いようでいて、ピタリとハマる。
天衣無縫な透明感はファム・ファタールたる説得力がありました。

愚かしさゆえに君を愛す-可愛いファム・ファタール、ジョアン(真彩希帆)について│凱旋門

他にジョアンがハマりそうなのはどなたでしょうか?
難しいですね。
ジョアンは作為があってはいけないのです。
無垢だからこそ抗えない魅力が他者を捕らえるのです。

ファム・ファタールに望むもの


ジョアンと同じく「無垢」がキーワードならば、植田景子先生の『舞音-MANON-』で愛希れいかさんが演じたファン・トゥイ・リエン(通称:舞音)が近いですね。
タイトルから分かるように、今回の『マノン』同様、アベ・プレヴォーの『マノン・レスコー』を下敷きとした物語です。

しかし、『マノン』のマノンは『激情』のカルメン型ファム・ファタールのようです。

2021年星組版の解説で描かれるマノン像は…
「しかし、享楽的な生活を求めるマノンは、お金の為に平然とロドリゴを裏切るような真似をするのだった」
いいですね、いいですね!最高です!
身近に居たらイヤですが、芝居となるとグンと面白くなるタイプのヒロイン。

しょせん芝居は他人事。
観て楽しむものですから、ドラマがある方が面白いですね。
品行方正な登場人物ばかりでは事件性がありません。

ファム・ファタールのタイプ「カルメン型」と「ジョアン型」の違いは何か?
自覚的か無自覚的か。
能動的か受動的か。

ではないでしょうか?

自分の魅力(主に性的な)を十二分に心得て、積極的に誘惑しに行くカルメン。
自然体に振る舞って周りの男たちを惹き寄せてしまうジョアン。

カルメンの人生の主体はカルメン自身にあり、ジョアンの主体は他者にある。
カルメンにとって男は添え物だが、ジョアンは支えてくれる男なしでは生きていけない。
そんな違いを感じます。

先ほどマノンはカルメン型と書きましたが、カルメンより最悪(最高)な女のようです。
スカイ・ステージの作品紹介によると「一方、マノンはロドリゴを愛しながらも、遊ぶ金に窮すると平気でロドリゴを裏切るような真似をするのだった」。
公演解説よりも具体的ですね。

ロドリゴを愛しながらも、遊ぶ金に窮すると裏切る。
自堕落、不誠実、享楽的、刹那的な女。
しかし、ロドリゴの心を捕らえて離さない女。
(組を問わなければ、現役随一の小悪魔役者・月組の結愛かれんさんで観てみたい)

マノンの「にもかかわらず」要素が強ければ強いほど物語は面白みが増します。
ロドリゴ(愛月)を破滅に追いやる宿命の女を演じるのは誰か?
キャスト発表を楽しみに待ちましょう!

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交錯するジェンダー、ルイ(愛希れいか)とリュリ(佳城葵)│All for One

私にとって月組の珠城りょう×愛希れいか時代の最高傑作『All for One』。
トップコンビのみならず組子全員がどんぴしゃ当て書き。
誰も死なず、誰も傷つかず。
最高に幸せなハッピーエンド。

成功の要因はキャラクター造形の確かさ。
なかでも、ルイ14世を演じたちゃぴちゃん(愛希)の功績は大きいです。
男役から娘役に転向した彼女ならではの“ヒロイン”ルイ14世がどのようにして生まれたのか?

「もしも、ルイが男女の双子だとしたら?」
「しかし、誰がルイ(ルイーズ)の二役を演じられる?」
「そうだ、愛希が居る!」
小池先生の頭に、男女の双子という構想が先にあったのか?
それとも、愛希れいかという役者ありきだったのか?
いずれにせよ、ちゃぴちゃんが作家の想像力を掻き立て、多大なインスピレーションを与える役者であることは間違いないでしょう。
わくわくするような大スペクタクル“小池版三銃士 All for One”の誕生です。
愛(希れいか)あればこそ、小池三銃士+宝塚“キスの流儀”│All for One より抜粋


“役割としての男性”を演じるルイ(愛希れいか)


男装の女性である「男役」が演じるダルタニアン(珠城りょう)と、本来の性が女性である「娘役」が男装した女性を演じるルイ14世(愛希れいか)の恋。
一見ややこしいですが、物語としてはシンプル。

ルイの肉体と性自認は女性、恋愛対象は男性。
一般的なシスジェンダーの恋愛劇に過ぎません。

家庭の事情により、望まぬ「男の生活」を余儀なくされただけのルイ(ルイーズ)。
“役割としての男性”を演じていただけなのです。

生まれたときから男として育てられたルイに、女性の自我が目覚めたのはいつだったのか。
どこかの時点で「あなたは女だ」と告げる者があったはず。

公の場では男性、私の空間では女性の二重生活を送っていた彼女。
しかし、結婚適齢期を迎え、これ以上のごまかしは無理と爆発します。

女の姿で王宮を逃げ出し、飛び込んだ酒場で出会ったのが、三銃士の一員ダルタニアン。
ルイーズとして出会ったダルタニアンと再会したのがルイだったことが騒ぎの始まりです。

「男装の麗人」ものはなぜ面白いのか?


男性として生きるヒロイン。
宝塚ではそう珍しくはありません。
『ベルサイユのばら』のオスカル、『紫子』の紫子など。

なぜか?
単純に「物語として面白い」からでしょう。
「男装の麗人」が「男装の麗人」を演じる宝塚歌劇においては尚更です。

ショーやレヴューで男役の女装がもてはやされる理由と根っこは同じでしょう。
固く閉じた男の鎧の隙間からこぼれ出す女の色香。

男役ד男装した女性を演じる男役”のラブシーンは、男役×娘役のそれとは異なる倒錯したエロスがあります。

男性の主人公が、相手(ヒロイン)を同性と思い込むことで生じる誤解や混乱も作品のスパイスになります。
『All for One』でもルイが女性と知ったダルタニアンが起こす騒動が物語を動かす起点になります。

また、男装のヒロインはあるがままの姿で生きられないことに苦悩し、そこにドラマが生まれます。
きっかけは自発にしろ、強要にしろ、どこかで必ず自身の女性性に目覚めるのです。

ルイの場合はダルタニアンと出会って一気に開花したと考えられます。
すったもんだの末、女の姿に戻り、恋人とハッピーエンドを迎えて、めでたしめでたしとなる『All for One』。
カラリと明るく健康的な珠ちゃぴコンビにふさわしい物語でした。

交錯するジェンダー、ルイとリュリ


男として育てられた女は必ず女に戻り、男を求める。
そしてふたりは結ばれ、ハッピーエンド。
結末の固定化には異論がありますが、『All for One』はそれに当たりませんので別な機会に。

ひとつ気になるのは、わーわー大騒ぎの人々をよそにダルタニアンへ熱い視線を送る青年。
やすちゃん(佳城葵)演じる作曲家リュリの存在です。

快男児ダルタニアンに心惹かれた様子のリュリ。
彼は三銃士の一員アトス(宇月颯)に対しても「タイプ」という言葉をかけています。

この台詞は『Le CINQ』に載っていません。
やすちゃんの役作りの一環なのか、後から付け足された設定なのか。

同様の役を演じた『A-EN』の脚本の意図は明確でした。
まゆぽん(輝月ゆうま)演じる大型犬男子マイルズに恋する少年アダム。
恋の芽生えから成就を丁寧に描いたやすちゃん。

やすちゃんの不思議なところは、どんな人物を演じても、ふわっとそこにいてしまうこと。
力みなく、自然体に。

ことさら強調しなくても、視線や身のこなしでリュリという人物を観客に印象づけられるやすちゃん。
もしかしたら「タイプ」という台詞すら必要なかったかもしれません。

ルイとダルタニアンの恋と同時進行するリュリの恋。
多様なジェンダーが交錯し、宝塚歌劇の可能性が広がったのも『All for One』の面白さのひとつです。

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珠城りょう×愛希れいかで『雨月物語/浅茅が宿』が観たい【妄想劇場】

珠ちゃぴがコンビを組んだのは7作。
一度は結ばれながらも破局(どちらかまたは双方の死)したのが『激情』『アーサー王伝説』『グランドホテル』の3作。
愛が成就したのが『All for One』『鳳凰伝』『カンパニー』『エリザベート』の4作。

前者の変形として観たい演目があります。
それは「幽霊妻または夫」。
上田秋成の『雨月物語』より『浅茅が宿』を珠ちゃぴで観たかったですね。

* * *

<浅茅が宿>

一攫千金を夢見て京に上った勝四郎。
戦乱に巻き込まれ、ようやく妻・宮木の待つ家に帰ったのは七年後。
一夜明けてみると、昨夜、勝四郎を迎えたのは妻の亡霊であった。

“さりともと思ふ心にはかられて世にもけふまでいける命か”
ところどころかすれて読めなくなった、妻が遺した歌を読み、涙にむせぶ勝四郎。


勝四郎=珠様(珠城)、宮木=ちゃぴちゃん(愛希)。
ちゃぴちゃんのご卒業により叶わぬ夢となりましたが。

「幽霊妻」の物語は古今東西ありますね。
帰らぬ夫を信じ、待って待って待ち続け、この世の者でなくなってもなお、待ち続ける妻。

『浅茅が宿』の宮木もそのひとり。
荒れ果てた家で独りぼっち、狐やふくろうを友にして、ただ待っていた。
「[さりともと…]夫はきっと帰って来ると自分に言い聞かせ、今日まで生きながらえ待ち続けたこの身の愛しいことよ」

今更ながらに妻の深い愛を知り、泣き崩れる勝四郎。
だが、時すでに遅し。
妻はもういない。

* * *

キュートなルックス、三拍子揃った実力が魅力のちゃぴちゃん。
なかでも心惹かれるのはお芝居です。

時に、宝塚の娘役の枠をはみ出すような多彩な役を演じこなしてきたちゃぴちゃん。
彼女の演技に注目したのは『NOBUNAGA』の信長の正妻、帰蝶が最初でした。
あの役で、ちゃぴちゃんの魅力に目覚めたと言っても過言ではありません。

短く細切れの登場シーンながら、きちんと一人の女性の生涯を描き出す。
素晴らしいお芝居でした。
その後もグィネヴィア、エリザヴェッタ、おしま…幾多の女性を演じてきましたが、帰蝶には特別な思いがあります。

帰蝶も帰らぬ夫をひたすら待ち続けた女性です。
かつて夫と駆けた野に、愛馬を放つシーンは心に染みました。

『浅茅が宿』の一番恐ろしいところは「今は長き恨みもはればれとなりぬることの喜しく侍り。逢ふを待つ間に恋死なんは人しらぬ恨みなるべし」。
ようやく会えた今は、長い間の恨みもすっかり晴れて嬉しく思います。
会うのを待つうちに焦がれ死にしてしまったら、あなたに私の心が分かってもらえず、さぞ口惜しいことでしょう。

「私はずっと待っていた」
そのことを、あなたにはしかと知っておいてもらいたい。
あなたが私を忘れ、都でふわふわ遊び暮らしていたときも、私はひとときもあなたを忘れず、ひたすら待ち続けた。

これは怖いですね。
純粋に夫を愛し、待ち焦がれていた気持ちがいつしか別の感情にすり替わっていく。
戦乱の世、女一人で家を守り抜くことの難しさ。
そんな事情もあったでしょう。

しかし一方、霊魂になってからでも、夫の顔を見たら長年の恨みが消え、愛が甦った。
自分の真心、誠実をしかと伝えられた。
宮木の魂は安らげたことでしょう。

そして、勝四郎の心から宮木の面影は決して消えることはない。

帰蝶を演じてから2年。
一段と力を増したちゃぴちゃんなら一歩踏み込んだ宮木の情念を演じてくれたのではないかと思います。

※参照 改訂 雨月物語 現代語訳付き/上田秋成著[鵜月洋訳注]/角川ソフィア文庫 ISBN:9784044011024

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プロフィール

野口 留香 noctiluca

Author:野口 留香 noctiluca
宝塚歌劇と共に30年(ブランクあり)。全組観劇派。美丈夫タイプの生徒さんが好み。谷正純・酒井澄夫・木村信司・大野拓史作品が好き。観劇記録・考察・思い出話・備忘録などをまとめたブログ。

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